第4話
冒険者ギルドの登録が終わると、さっそくカードを持って行かれた。買取品の精算をするのに使うらしい。
お盆にポーションと冒険者カードを乗せて、買取担当者は部屋から出て行った。
「この町での滞在先はお決まりでしょうか?」
「まだです。安全な宿っていくらくらいしますか?」
「安全を重視するなら一人部屋にするしかありませんので高いですよ。宿の人も信用できる人でないと、宿の人が人攫いに加担していたなんて事もありますから」
そこまて考えないといけないのか。疑心暗鬼になりそう。
「そんなあなたにおすすめのアパートがあります。冒険者ギルドで生産職限定で貸し出ししている部屋が今なら空いていますよ」
にこにことアパートの利点を語り出す。
「高いお金を払って確保した宿ですと、生産活動をする作業場がありません。無理に作ろうとして部屋を汚すと賠償する必要も出てきます。ですが、部屋を借りてしまえばそんな心配はなくなります」
このノリは、これを言えってことかな。
「でも、お高いのでしょう?」
「冒険者ギルドで貸し出しているアパートの家賃は物納です。お金はなくても大丈夫。入れ物も素材もこちらで用意しますので、一日一本、月二五本のポーションを納めて下さい」
この世界、一週間が六日で四週と一日で一月となり、一六ヶ月で一年となる。一年が四〇〇日となっていた。
受肉する前に声による説明があったが、エイコは日数が違う程度にしか覚えていない。
「部屋、見てから決められますか?」
「ええ。では、精算が終わり次第内見へ向かいましょう」
なんか、逃さないという圧を感じる。
「あっ、冒険者ギルドまで連れてきてもらった人に、登録が終わった一緒に食べようと声かけられていました」
「名前わかりますか?」
「わからないです。男四人と女二人の六人組だったんですけど」
「一緒といえるくらいの時に冒険者ギルドにいたその組み合わせだと、フレイムブレイドの方ですね。ギルドを出る前に声をかけていきましょう」
行かないという選択肢はないようだ。部屋とトイレと風呂が妥協できる範囲なら、納品すれば住めるというのはいい条件ではある。
何しろこちらが提供するのはポーションを作る労力だけ。一月分作るのに二回錬金術を使うだけでいい。
住めるなら住みたいが、住める環境であるかが心配でならなかった。
精算が終わると小部屋から出て、ギルドの食堂へ向かう。食堂はセルフサービスのようで、ギルドの待合室と一緒になっているようだった。
こっちこっちと手を振る人たちの方に向かい、間違えようがないほど接近したところで受付のお姉さんがエイコの前に出る。
「フレイムブレイドのみなさん。こちらの方と少しばかりお話がありますので、お食事の方は日を改めて下さい」
「オレらが見つけた子だぞ」
「オレらがいなきゃギルドまで来れてない」
「町に入る前にタチの悪いのに絡まれていのを追い払ったのはわたしらなんだから」
「はいはい。ギルドとしては住む所を紹介するだけです。あなた方のお話は住むところが決まってからにして下さい」
それで話は終わりだと、受付のお姉さんは踵を返す。背後で横暴だと騒がれていたが、エイコの腕をとり、そのまま冒険者ギルドを出て行く。
連れて行かれたのは冒険者ギルドから歩いて数分の場所にある建物だった。
門番が常駐しており、ロの字型をした建物で門から中に入ると中庭に出る。中庭には屋根付きの井戸があり、門のそばには共用の洗濯場があるそうだ。
エイコが案内された部屋は門を背にして左側にある階段を登った三階のにある部屋で、階段を挟んだ先にある扉がお隣さんになる。
お隣さんは一昨日入居した人で、同い年くらいの女性らしい。
鍵を開け、案内された部屋は入ってすぐがダイニングキッチンで個室は小さいが二つあり、寝室と作業室を確保できるようになっている。
それから細長い棚のついた部屋が倉庫で、ダイニングキッチンから個室とは別の方向にあるドアがお風呂とトイレになっていた。
思っていたよりきれいで広い。ここのアパートに住んでいるのは生産職で冒険者ギルド登録者か冒険者ギルドの職員で、全員女になっている。男性はまた別のアパートに住んでいるそうだ。
「わたしの部屋は中庭を挟んで反対側にあるの。ギルド職員は基本、四階なんですよ。物作りする人は荷物が増えると上の階はいやがりますからね」
この部屋の上もギルド職員が住んでいるそうだ。
お勧めの買い物の場所や食事処が近くにあると教えてもらい、この部屋に住むことに決める。
ちょっとした家具は備え付けられていたが、生活するにはいろいろたりなかった。寝台はあるけど、布団や敷布団はなかったりする。
「注文するならお店紹介するわよ。代金はその分ポーションを納品してくれるなら、冒険者ギルドで出す事もできるから」
「それ、後日でも大丈夫ですか?」
「ええ、いつでもかまわないけど、このままでは寝られないでしょう?」
「ダンジョンガチャで寝袋が出たので、とりあえず今日はそれで寝ます」
寝具は我慢すればいいが、食事は取らないと生きていけない。何にお金がかかるかわからないから、妥協できる部分はお金に余裕ができてからにしたかった。
お姉さんが持っていた賃貸契約書にサインして、鍵を受け取る。それから、今食べる分と、今晩と明日の朝ごはんになりそうな物を売っている店を教えてもらうことにした。
部屋を出て、鍵を閉めていると、お隣さんのドアが開く。ひよこみたなふわふわの黄色い髪に若草色の瞳に見覚えのある顔。
目が合い、誰が思いいたる。
「メイ?」
「エイコ」
そういえば、巻き込まれ異世界転生の失敗により死亡したんだった。エイコが巻き込まれたなら、エイコの近くにいた人たちも同じように巻き込まれているのだろう。
「お知り合いですか?」
「うん。別々にラダバナに来たから会えるとは思ってなかっけど」
「そうよね。こんな故郷から遠い所で会えるなんて思わないよね」
死んだ時の事は覚えていないが、たぶん、巻き込まれたは一緒にいた時だ。そうすると、クラスメートや同級生が他にもこちらへ来ているかもしれない。
再会を喜び、買い物にはメイも一緒に行くことになった。
「どこから行きましょうか?」
「食べ物屋。美味しい物が食べたい」
「エイコって、そんなに食事に興味あった?」
「わたし、最近、保存食しか食べてない」
日持ちと栄養を重視して味が置き去りにされた固形食しか、異世界に来てから食べていなかった。床で寝てもいいから、まともな物が食べたいと思うくらいには焦がれている。
「では、安くて美味しい食堂へ行きましょう」
ギルド登録が済んでからお姉さんムーブをかます職員に連れられて行ったのは商業地のメイン通りから一つ裏にある店だった。
昼間は日替わりランチと一品料理だけらしく、一枚の大きなお皿にパスタ麺とサラダとお肉がのってくる。
二人はもうお昼は食べているそうで、おやつに一品料理を頼んでいた。
この食事が冒険者ギルドのランプ買取価格と同じ七〇〇エル。これはランプが安く買われているか、この店が高いのか。
ポーションを基準で考えれば毎日食べられるが、魔導具のランプ基準だと毎日はムリだ。
もしかして、魔導技師って稼げない職種なのかも。
「ポーションの買取価格って高いの?」
「ポーションはほぼ秘薬ギルドの専売なんですよ。同じ名前ですが、効果が違いまして、冒険者が望むのはダンジョンで入手するポーションが基準なんです」
少し困ったようにポーション事情を教えてくれる。
「なので、効果の違う物は使い勝手が悪くて、冒険者はダンジョンで得られたレシピで作られるポーションを求めています」
もしかして、もしかするのかな。
「あのアパートって、ポーション作成者囲い込み用?」
「囲い込まないと、生活できませんよ? 秘薬ギルドは秘薬ギルドで作るポーションが最上ですから」
「昨日、騒がしかったのって、それも理由の一つ?」
メイの問いにギルド職員は小さく頷いた。
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