第3話
この世界には三種類のダンジョンがある。戦闘職専用ダンジョンと生産職専用ダンジョンと混合ダンジョンだ。
ポーションはのこ三種のダンジョンのガチャボックス、どれからでも排出される。ただし、銅メダルからはほぼ出ない。
銀メダルは、たまに出るが出てたら運がいいと言われるくらいには出てこない。
そして金メダルになるとポーションはハズレ枠になる。ハイポーションなら喜べるが、ポーションよりは武器や防具を期待され、排出されるのもそういった物が多い。
どのメダルにしても、出なくはないが需要を満たすほどではなかった。冒険者は自らが使うため、売るより確保しておく人の方が多い。
その結果、市場に出回るのは誰かが作ったポーションとなっていた。ポーションを作れるのは調薬や調合といった薬関係のスキルか錬金術スキルの所持者が、レシピを覚えたらダンジョン産と同等の物が作れる。
レシピだけでも、スキルだけでも作れない。それがポーションという物だが、師匠から弟子に受け継がれていくポーションというのもある。
このスキルもレシピもいらないポーションも、一応回復はした。かなり、微量ではあるが、ないよりはマシだと市場に出回っている。
効果に大きな差があるのに、材料はほぼ同じ。コネとカネがある人たちで秘薬ギルドというものを作っており、素材の九割近くを独占している。
そのせいで、スキル持ちが田舎から出てきて、ダンジョンでレシピを手に入れ、ポーションを作れますと言ったところで材料が手に入らない。
材料が欲しければ自分でダンジョンに入り入手してくるしかないが、生産職の人は戦うためのスキルを持っていないことが多く、ダンジョンに入ることを好まなかった。
その結果、ポーション作りを諦めてしまう。手に入りやすい素材で作れる物で生計を立てていくようになると、もうダンジョンには立ち寄らないし、ポーション作りもしなくなる。
カネとコネを使い、妨害工作までする秘薬ギルドによって、スキルとレシピを持つ若手が育たない環境が出来上がっていた。
でも、それじゃ困るのが冒険者を筆頭とした危険職についている者たちである。
彼らは真っ当な効果のあるポーションのために、スキルとレシピの所持者を抱えこむ。
エイコはそんな状況にあることは知らない。一緒に入管手続きをしてくれ、危なっかしいからと、冒険者ギルドまで連れて行ってくれる親切な人たたちとしか思っていなかった。
「あそこの受付で新規登録できるから、終わったら一緒に食事しよう。ギルドの中にある食堂にいるからおいで」
「おすすめ料理教えてあげる」
お互いにこにこと手を振って別れ、エイコは受付に向かった。
「冒険者登録してほしいです。あと、これ、町の外の出張所でもらいました」
「はい、少々お待ち下さい」
受付担当してくれた女の人は一度奥へ下がり、少ししてから書類ケースを持ってカウンターの外へ出てきた。
「こちらへどうぞ」
廊下をちょっとだけ進んだところにあるドアを女の人は開ける。椅子と机しかない、何かのドラマで見た取り調べ室みたいなところで、向かい合って座る。
「まず、こちらが冒険者ギルド登録申請用紙になります」
紙と一緒にペンを渡された。名前と年齢はすぐに書いたが、住所は記入できるものがないので空白のままにする。
あとは職業とか、スキルなんかの記入欄があったが全部空欄のままにした。書かないとダメなものなら何か言うだろう。
異世界言語とか、大真面目に買いたらトラブルになる気しかしない。それに、魔導技師って職業が冒険者に向いている職には思えなかった。
余計なこと書き込んで、登録してもらえなかったら困る。
空白な多い書類を渡すと、お預かりしますと受け取ってくれた。
「ダンジョンに入られたことはありますか?」
「はい」
「入られたダンジョンの名前はわかりますか?」
「カムカムボールって書いていたと思います」
「生産職限定のダンジョンですね。そちらのダンジョンに入れるなら、戦闘職専用ダンジョンには入れませんのでご注意下さい」
記入してなくても、情報は持っていかれるようだ。
「それではギルドカードを発行に移らせていただきます」
登録料を求められてお金を出す。これで手持ちのお金は一〇〇〇エル札が四枚だけになった。
「当ギルドの出張所からはポーションの買取希望とあましたが、お待ちいただく間に、こちらに買取担当者を呼んでもよろしいですか?」
「お願いします」
「はい、ではお待ち下さい」
女の人が書類を持って出て行くと、入れ替わりに眼鏡をかけた男の人が入ってきた。
「買取希望品を出して下さい」
腕輪の収納からポーションを六本取り出し、机の上に並べる。
男の人の似合っていない眼鏡が気になって鑑定したら、鑑定眼鏡と出た。
「一本八〇〇〇エルです。冒険者登録した後なら九〇〇〇エルです」
出張所の人、いい人だったんだ。出張所とはこれだけ差がでるなら、登録してから売る。
「登録してから買い取って下さい」
「はい。他に売る物はないですか?」
「ポーションはあるんですけど、瓶がなくて」
「瓶がなければ、今はどちらに入れられているのですか?」
「錬金鍋です」
瓶も作れるだけ作った。けれど、鍋にも残ったし、薬草もまだ残っている。
「わかりました。入れ物を用意しましょう。何本分くらいありそうですか?」
「鍋にあるのは五本か六本分だと思います」
「少し待っていて下さい」
そう言って一度席をはずすと、一リットルのペットボトルくらいのガラス瓶を二つ持ってきた。
「こちらに入れてください」
腕輪から錬金鍋を取り出す。蓋を開けて、水魔術の水操作で鍋から瓶へうつした。一本は満杯まで入り、もう一本のほうは指三本分くらいまで入る。
「六本分はありますね。瓶なしだと一本五〇〇〇エルで計算しますので、三万エルになります。瓶なしは冒険者登録がないと買取していません」
このままだと鍋が使えないので買取ってもらい、次は自作の魔術具を出してみる。
「こういうのも買取してもらえますか?」
「買取はできますが、冒険者ギルドで売るなら冒険者が好む物の方が値段が上がります」
見せたのはランプだ。レシピそのままに作った物に、少しアレンジを加えて形を変えた物。それから、アレンジした上に飾りをつけて原価の上がってしまった物がある。
冒険者ギルドの買取価格だと、これらは全部同じ金額になってしまうらしい。
買取してくれる店を探せば高く買ってくれる可能性もあるが、安く買い叩かれる可能性もあるし、買ってくれる店が見つからない可能性もあるそうだ。
なので、今回はやめておき、お店を探してみる予定。冒険者ギルドの買取価格七〇〇エル以下を提示する店とは、取引しないようにしようにして、どうにもならなかったら冒険者ギルドで売る事にする。
その場合、ランプはもう自分用にしか作らないだろう。レシピをお覚えたら一回は作りたけど、それ以上作るかどうかは、買ってくれる店があるかどうか調べてからにした方が良さそうだ。
「冒険者に人気の物ってどういう物ですか?」
「ダンジョンで必要になる物で、丈夫な物。繊細で壊れやすい物を持ってダンジョン探索はできない」
「投げても壊れないランプとかですか?」
「そんな物作れるのか?」
「それは試してみないとわかりません」
「作れたら需要はありそうだが、壊れない事を保証して信用してもらうのが難しい。鑑定結果つけても疑うヤツは疑う」
だいたいのダンジョンは明るいが、暗いダンジョンというのもあるらしい。そんなダンジョンには光に向かって突進してくるようなモンスターもおり、松明を投げて攻撃を避けることもあるそうだ。
話をしてしていると受付の女の人が戻ってくる。
「名前の確認をしてください。間違いがないようでしたら、カードに魔力を流して下さい。魔力を流せないようでしたら、血で登録します」
「魔力、流します」
血は痛そうなので拒否した。魔力を流すと一瞬冒険者カードが光り、すぐにおさまる。
これで冒険者ギルドへの登録が完了した。
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