16

 犬神ちはるをトイレに連れていくため、人気のない校舎を進む。


 道中、幼馴染はずっと腕にくっつきっぱなしだ。


 動くたび、おっぱいがふわふわと上下して、教育上悪いことこの上なし。


「なあ、遠藤」

「なんだ?」

「こたなの胸、見たのか?」


 俺はドキッとする。


 そうだ。こなたの誘惑は視聴覚室から校庭にアナウンスされていたのだ。


 犬神ちはるは、雨宮がお風呂エピソードに嫉妬して、自分の胸を見てもらおうとしていたことに気づいている。


 もう何年も前の話なのだが、あの時の幼馴染の裸体を思い出すと、悶々とする。


 だって、可愛いと思っている娘の裸なのだ。


 何も思わないわけない。


「見たんだ……」


 ちはるが暗い瞳を向けて睨んできたので、俺は大きく首を横に振った。


「み、見てない!」

「でも、下着は見たろ? どうだった? こーふんした?」

「し、し……、す、スポブラだったし?」

「遠藤、子供っぽいの好きじゃない」

「べ、別に?」


 しまった。

 声が上ずってしまった。


「遠藤、パンツとスポブラ、どっちが好き?」

「はあ⁉︎」

「どっち」

「どっちかと言われると……」


 犬神ちはるは手を引いて、俺を誰もいない教室に招いた。


 そして、こちらをじっと見つめてくる。


「あのー、ちはるさん?」

「こたなでされるの許せない」

「へ?」

「こたなでむらむらされるの、わたし許せない!」


 な、何を言っているのだろう⁉︎


 犬神ちはるは一気に距離を縮めて、ふんわりとお腹に胸を押し当てて、俺を見上げてくる。


「男子がクラスメイトのえっちなところ見て、夜にすることといったら決まってる!」

「なっ! そんなことしないって!」

「する! お風呂場で思い出してニギニギする!」

「ニギニギって、可愛いから……」


 俺は眩暈がしてくる。

 ちはるはさらに詰め寄ってくる。


「こたながブラジャー見せたなら、わたしは、その……下の見せる……」

「は、はあ⁉︎ いいって、無理するな!」

「上書きしないと! その、遠藤はあまり、下の見たことないだろ? だから、今日だけ特別……!」


 そういって、押し当てていた胸を離して、犬神ちはるはゆっくりとジャージを下にずらす。


 肌色のお腹からだんだん……肌色の太もも……⁉︎


「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」


 ちはるは仰天して、下ろしていた半ズボンを上げた。


 俺は真っ赤になって、口をパクパクさせる。


 幼馴染は衝撃の一言を放った。


「ぱ、パンツ、は、履いてくるの忘れた……」


 幼馴染は真っ赤になって、うるうるな涙目で、俺を見上げた。


「く、クラスのみんなには、内緒だよ……」

「う、うん。どこかで聞いた台詞だ」

「……見えた?」

「す、少し」

「ん、遠藤なら、いいよ……、もう……」


 恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、犬神ちはるは俺に抱きついてくる。


 そして、小さく囁いた。


「おトイレいっていい……?」

「うん……」

「……ふふっ、少し、愛されてるって感じた……♡」


 なぜか、うれしそうな犬神ちはる。


 否が応でも妄想してしまう。


 この運動会で、幼馴染のことをふつうの視線で見ることに苦労しそうだ……。


 いや、思い返せば、いつもこの子の扱いには苦労している気がするけれど……。


――――――――

あとがき


 今回は少しエッな回でした。

 

 推しカワを刊行した時は、そういうシーンを書いたことなくて、慎重お嬢様の二巻で初めて書いて、僕のライトノベルにそういうのは求められていないんじゃないかとずっと思っていたけれど、編集者からも読者からも高評だったので(意外でした)これからは恥ずかしがらないで、振り切っちゃいたいと思います!

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