11


 時刻は十時半。


 タイムスケジュールでは、今から三十分、休憩時間を取ることになっていた。


 俺、小林、犬神ちはる、雨宮こなたはビニールシートを敷いて円になっている。


 ちなみにビニールシートは、小林が委員長パワーで用意してきた。


「もぐもぐタイムですわっ!」


 雨宮は目をピカピカさせて、バッグの中から棒状の謎の物体を取り出す。


「あ、雨宮? なにそれ?」


 俺が聞くと、雨宮はえっへんとちっちゃい胸を張って答えた。


「収納可能なキャンディーですわ! 折りたたみ式になっていて、キャンディーをなめた後、ケースにしまうことができるんですの」


 雨宮こなたはキャンディーをケースから出して、にっこにこの笑顔でぺろぺろする。


 犬神ちはるがげんなりした顔になった。


「それ食っていいのは小学校低学年の男児だけだろ!」

「なっ! 人の好きなものをバカにしないでくださいまし! ……ほら、他にはこんなのもあるんですのよ?」


 と雨宮が取り出したのは、スプレー缶のようなものだ。


「ちょっと、遠藤くん? お口を開けてみて?」

「え? なにする気だよ⁉︎」

「遠藤、お腹壊すからやめとけって」

「わっはっは。遠藤、根性を見せる時が来たな」

「仕方ねえなあ」


 小林にそう言われちゃしょうがない。


 俺が口を開けると、雨宮こなたはシュッとそこにスプレー状の甘味料を振りかけた。


「うっ、甘い……」

「ピーチ味のスプレーですの!」


 雨宮こなたはニッコニコの笑顔のまま、自分の口にもシュッとする。


「んー、おいしーっ!」

「おい、こいつ相当特殊な性癖してんぞ! 女子高生が好む系統のお菓子じゃないだろ! なあ遠藤?」

「こんなのもあるんですのよ?」

「「まだあんのかよ⁉︎⁉︎⁉︎」」

「わっはっは、おかしいな! 楽しいぞ、俺はっ!」


 次に雨宮こなたが出してきたのは、まるでシャボン玉を作るような道具と容器だった。

 雨宮は容器に、袋から液体を入れていく。


「キラキラしていておいしそうですの」

「いや、全く食欲をそそらないのだが」

「遠藤、嫌なら嫌って言えよ? こいつ趣味が完全に小学校低学年男児だぞ」

「失礼ですわね。待っててくださいね? もう少しで吹けますので」

「吹けるってなんだよ雨宮! 菓子を食べる時に使う言葉じゃないだろ!」

「うわ、こたな、手ベタベタじゃん」

「焦らないの。いきますわよ〜?」

「いきますわよ〜ってなんだ! 俺はどうすりゃいいんだ⁉︎」


 雨宮が筒状の道具を吹くと、シャボン玉みたいなものがぷかぷかと浮かんできた。

 犬神ちはるはギョッとする。


「これ、遠藤に食わせる気か⁉︎」

「はい、遠藤くん! 弾けちゃう前にパクって!」

「よしいけ友よ! 男気だ!」

「うう……」


 俺がシャボン玉みたいなものをパクッとすると、甘い風味が鼻を抜けた。


「甘い……」

「ピーチ味ですの!」

「こたなピーチ味好きかよ!」

「さ、次は遠藤くんが吹いてくださいまし! わたくしもお腹減ってきちゃった!」

「キャピキャピじゃん雨宮。ほら、いくぞー」


 俺が棒状の道具を口に含むと、犬神ちはるが顔を真っ赤にした。


「え、遠藤。こたなと関節キス……」

「「え……⁉︎」」


 俺と雨宮の声が重なった。

 不運にもシャボン玉ができてしまい、雨宮は顔を真っ赤にしながらもパクッとする。

 じーっと、照れたように雨宮がこちらを見てくる。


「遠藤くんの、えっち……、ですわ」

「えっ……ちなのか? これは」

「うわーん、遠藤が変態の仲間入りしたよ〜!」

「友よ、次は俺の番だ!」

「やだよ! ぜったいやだよ!」

「だなっ! わははっ、おかしいなほんとお前らは!」


 そんな俺たちを遠巻きに見ていた全校生徒は、このやりとりにほんわかしていた。

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