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次は女子の二人三脚である。
犬神ちはるは足が遅いため、純粋なスピードを競う種目にはエントリーしていなかった。
もちろん、二人三脚のペアは雨宮こなたである。
身長が一緒くらいなため、なんか子供二人が肩を組み合っているみたいで可愛らしい。
全校生徒はちはこなコンビにもうラブラブである。
「なにあの二人、天使……?」
「ちはるんとこなたちゃんよ。尊い……」
「今年の運動会アルバムの表紙は決まったわね」
しかし、二人が仲良く息を合わせることなんて、当然できない。
練習の時から、喧嘩ばかりして、ろくなことになってなかったからな。
「ちはる! わたくしにペースを合わせるんですよ?」
「ふつう遅い方に合わせるだろ! わたしが怪我したらどうすんだ!」
「そうやっていつもこわがってばかりいるからあなたはダメなんですの!」
「ダメって、うう、うえぇ……」
「ああ、泣かないで……」
二人が言い争いをしているうちに、スタータが鳴ってしまった。
パンッ!
「ち、ちはる? 左足から出しますよ、せーの」
「きゃっ⁉︎」
最初の一歩を踏み出そうとした途端、二人はよろよろと転んでしまった。
俺の隣で観戦していた小林が、わっはっはと笑う。
「微笑ましいな、あの二人!」
「微笑ましいか……? よくわからんな……」
女子たちは黄色い悲鳴をあげながら、「ちはるーん♡」「こたなー♡」と激推しうちわを振りまくっている。
あんなの用意してきたのか! まるで推しのLIVE会場みたいである。
「いてて……、こたな! 左足からってお前言ってただろ!」
「だから左足からいきましたわ!」
「お前の左足は今、わたしの右足にくくりつけられてんだよ! お前が左足上げて、私が左足を踏み出したら、こけるに決まってんだろ!」
「???」
ダメだ、雨宮があほすぎる。
ちはるは運動神経が悪すぎるし。
犬神ちはるは絶叫する。
「どうすんだよ! もうみんなゴールしちゃってんだよ! みんな見てるよ、こわいよーっ!」
「落ち着くんですの、ちはる。50mですわ。なんとかゴールできるはず……」
こなたは、名案を思いついたようにポンと手を叩いた。
「そうですわ! はいはいしましょう! 赤ちゃんみたいに!」
「バカかよお前⁉︎ そんな恥ずかしいこと全校生徒の前でできるわけないだろ⁉︎」
「じゃあどうするんですの! ここでずーっと泣いてるつもり?」
「それは……」
「試しに手を前に出してみましょう」
ちはるとこなたは手を前について、せーのでハチマキの巻かれた足を前に出す。
「す、少し前に進みましたわ!」
「屈辱だよ……、目眩がしてきた……、吐きそう……」
「もう一回前に進みますわよ?」
「「せーのっ!」」
そして、赤ちゃんよりも拙いはいはいで、十分くらいかけて、ちはこなコンビはゴールしたのだった。
二人は抱き合ってちょっとだけお互いを称え合っていた。
全校生徒が拝んでいた。尊い……。
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