6

 開会式の間も、犬神ちはるは俺の腕にピッタリとくっついていた。


 白半袖の胸は、本人の意思とは関係なしにこれでもかと自己主張しており、俺の腕に押し付けられている。


 や、柔らかい。


 落ち着け落ち着け落ち着け……、悶々としてしまう。


 犬神ちはるは小さく揺れながら、仕切りに周りをキョロキョロしている。


 その強弱がほんと無理。


 いろいろ伝わってくる。


 先生たちは、ちはるがこういう生徒だと事前に説明を受けているので、微笑ましそうにこちらを見守っている。


 生徒たちの視線も温かい。


 この幼馴染、特に問題を起こすわけでもないので、自由だ。


 犬神ちはるは世界から愛されている。


「それでは準備体操の時間です! 始めます!」


 校長のスピーチが終わり、入れ替わりで全校生徒の前に立った生徒会長のかけ声で、準備体操が始まった。


「ちはる、少し離れて」

「う、うん」


 だが、やっぱり至近距離のままだった。


 お互いぶつかりそうになりながら、腕を伸ばしたり、腰を伸ばしたり、首を回したり、足首を回したり、準備体操をこなしていく。


『二人一組を作ってください!』


 その掛け声が前方から聞こえてくると、ダダダっとこちらに走ってくる小柄な人影があった。


「ちはる〜〜〜っ! あなたなんでこんなところにいますの⁉︎」


 雨宮こなたである。

 彼女はゼェゼェと荒く呼吸すると、俺の幼馴染を睨みつけた。


「わたくしと組みなさい!」

「やだっ! 遠藤と組む……」


 べったりと俺のお腹に抱きついてくる、犬神ちはる。


 む、胸が……。


 ちはるのお尻をパチーンとこなたが叩いた。


「お尻触るなバカこたな!」

「えっちなのはそっちじゃない!」

「意味わかんない!」

「わたくしもわかりませんーっ!」


『それでは前屈を始めます!』


 また前方から声が届いてきて、俺が仕方なく一人で膝を伸ばして座ると、後ろからちはるとこなたの声が聞こえてきた。


 う、うるさい。


「ちはるはわたくしの背中を押してくださいまし!」

「やーだ! 遠藤の背中押すの!」

「「わわわっ!」」


 すると、二人一緒にあろうことか、まとめて俺の背中に転げ回ってきて⁉︎


 どすんっ!


「ぎゃあお⁉︎⁉︎⁉︎」


 俺の足がこれでもかというくらい伸びた。


「え、遠藤⁉︎」

「あ、ご、ごめんなさいっ!」


 二人は涙目オロオロになって、俺の前でしゃがむ。


 二人とも小柄だからなんとか足は平気だったけど、ジャージ姿の女の子がこんなにも至近距離で、しゃがまないでほしい。


 白半袖から見える鎖骨や、ピッタリした短パンから覗く生足など。


 可愛いし、色っぽすぎる。


 

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