5

「みなさん、おはようございます」


 開会式の前に、クラスごとに朝礼をすることになった。

 俺たちのクラス、1-Aは「「「「おはようございます〜」」」」と担任の若山先生に挨拶を返す。


 おっとりした印象の若山先生はにっこりした。


「今日、一人も欠席しないでみんなが来てくれたことを、嬉しく思います。でも、少しでも不調を感じたら、すぐに私のところへ来てくださいね」

「天使……」


 俺の膝の上にお尻をのせた犬神ちはるが、小さく呟いた。


 ちはるのお尻は温かくて、その、柔らかい。


 この可愛い幼馴染はいつも体温が高いのだ。


 冬の日など、抱きしめていたら眠たくなってくる。


 今も、その女の子らしい体をギュッとしたくなってくる。


 ちはるは本当に可愛い。


「ねえ、遠藤。消えたい……」


 こんなにもみんなから愛されているのに、けれども犬神ちはるは自分のことを責めてばかりいる。


「昨夜は、0:00に眠ったんだ。運動会だから、もっと早くに寝ようと思ってたんだけど。わたし悪い子だから。起きていたって、なんの成果も上げられないのに。明日に備えて眠った方が健康的になれる気がするのに……。いつもこうなんだ」


 犬神ちはるの肩が震え出す。


「わたしはきっと誰の役にも立てないし、迷惑ばかりかけて嫌われていくだ。孤独を味わって消えたくなるんだ。遠藤……! お前もいつかわたしのことなんて大っ嫌いになる日がくるよ。わたしにはわかる」


 俺は嘆息して、幼馴染に囁きかけた。


「なあ、ちはる。小学六年生の時、クラスで雪合戦をしたこと覚えてるか」

「……ん」

「あの時、俺たち二人だけさ? 校庭の隅っこで雪だるまを作っていたよな? ちはるは、『みんなから嫌われるから、遠藤はあっちいけ』って怒ったんだ。でも、あの時俺は、別に嫌われてもいいって思えたんだよ。幼稚園児の頃からずっと一緒だったからかな」

「………………」


 愛おしくなって、ちはるのお腹を後ろから軽く抱く。


 ちはるは、嫌がったりしなかった。


「でさ? 雪合戦が終わった後、何人もこっちにきてな。怒られるのかと思ったら、『どんな雪だるま作ったの?』、だってさ? 雪合戦に参加しなかったのに、俺たちは受け入れられていたし。卒業式まで本当に最高のクラスのままだった。まるで逆転勝利したみたいで、超うれしかった。ちはるも同じ気持ちだったろ……?」

「うん……」


 幼馴染は、腕で瞳をゴシゴシする。

 泣かせてしまったが、勇気が出てくれたらそれでいい。


「ちはるが思っているよりも、ずっと、みんな優しいのかもしれない。だからさ、どれだけ自分を責めたっていいんだ。悪い子だって、思ってもいいんだ。それでも、きっとみんなは笑顔で明るい方へ招いてくれるよ。その記憶がちゃんとここにあるんだ。だから、安心して、運動会を楽しもう」

「楽しめないけど、遠藤が一緒だからっ……!」


 若山先生の挨拶が終わる。


 きっと、俺らの会話には気づいていたけれど、ずっと優しい眼差しをしてくれていた。


 俺はちはるの手を取る。

 

 彼女はギュッと腕に抱きついてきた。


 悲劇の花嫁みたいだ。


 あまりにコミカルで笑えてくる。


 元気なクラスメイトたちと一緒に、二人で校庭の中央へ向かった。

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