ミカゲの話

ふうこ

(1)訃報

 ある時風にごみが舞うように、ミカゲの訃報が、友人とのSNSグループに舞い込んできた。「ミカゲ、死んだらしい。」誰かがそう書き込んだ。いや、長谷部に聞いたと言ったから、発言元はよしきだったと思う。長谷部は、寺の坊主から電話がかかってきて知ったらしい。「ミカゲ死んだらしい。」


「え、なんで」

「誰に聞いたの」


 好奇を含んだ反応だったが、少なくともこのSNSグループのメンバーは、ミカゲのことを多少なりとも愛を持って語れるメンツだった。


 わたしにとってミカゲの死は、タイムリーでもあった。死んだのなら、やはり、書かなければ、と思った。本物の英雄になりおったわ。


貧乏神がいるなら、ミカゲは貧乏神が逃げ出すほどの猛者だった。

低身長で、いがぐり頭にいつも大量のフケをこさえていた。片目がほとんど見えず、潰れているような外観だった。ろれつが回らず、何を言っているかわからないのが常だった。片足は引きずって歩いた。四朗の愛車の助手席で、ウンコすら漏らした。大体いつも、ほとんど金を持っていなかった。


ミカゲはなぜ私たちに愛されたのだろうか。親にまで疎んじられていたミカゲが、ついに家を出てグループホームに入ると、へんぴなところにあるその施設を私たちは訪ねたものだった。

 狭い路地に、四朗がグイグイこれでもかと車を進めたのが印象にのこった。グループホームは昔ながらの住宅街にある普通の一軒家だった。その家の一室をミカゲは与えられて、他の利用者と寝食を共にしていた。

「来てくれてありがとう。嬉しいよ」

「どうしようか?ここに車停めてるわけにいかないよ」

「かしまつに行こう」

かしまつとは、安価なメニューもある和風のファミリーレストランだ。かしまつだけでなくジョイフィルもいつも混雑とは無縁で、私たちは深夜に示し合わせて行っては、安いセットメニューで腹を満たした。

 ミカゲは珍しく1000円程度持っていて、夕飯を注文していた。

食べている間もミカゲが饒舌だったことを覚えている。私たち4人、わたしとよしきと四朗と佐藤さんは、ともすると話すことがなくなって、沈黙に見舞われることがあった。ミカゲがいると、実に賑やかだった。賑やかで、暖かかった。あんなにも実家から疎外されていたのに、彼は家庭的な暖かみを知っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミカゲの話 ふうこ @amanndora2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る