第2話 アカツキ 2
あれから数日が経ち、森本が学校生活に慣れ始めていた頃。
俺達三人は、初日に行く予定だった店に来ていた。
外観は街に似合わないアンティーク感のある煉瓦造りの小さな平屋。
「やぁ、いらっしゃい」
扉を開くと、優しげな男性の声が出迎える。
声の元を見ると見慣れた顔が新聞を手に座っていた。
「どうも」と軽く返すと。
新聞を畳み、カウンターに肘を置く。
「今日はどんな用件だい?」
ほのかな笑みを浮かべ、返答に期待している。
この人がこんな感じの時はめんどくさいんだよなぁ。
「今日は転入生の道具の準備で」
おやっさんは、不思議そうに首を傾げた。
「転入生君・・・どこ?」
「店の前で獅子神の対応させてます」
「ああ、彼女の」
おやっさんの納得した顔を確認すると、扉を開け森本に声をかけて招き入れる。
「初めまして。数日前にこの島に来た森本響です」
「やぁ初めまして。このアーマズの店長の
「こちらこそよろしくお願いします」
挨拶が終わると同時に、今回の用件を話し始める。
「今日は響の授業用のウェアとサポーターとかを買いに来たんです」
「そうかい。じゃあとりあえず服と靴のサイズ教えてくれる?」
と軽めな会話を交わしながら学校指定の運動服やらが並べられる。
「こんな物かな。運動服三着と靴二足は一番始めだけは無料で支給だからお会計なしね」
紙袋に詰められて森本に手渡される。
「これでやっと体育も参加できるね!一緒にガンバロー!」
元気一杯な獅子神とは、対象的にいつもの朗らかな森本の笑みが徐々に曇っていく。
「なに?ヒビキ君体育きらいなの?」
「いえ、そういうわけでは」
「ああ、こいつはですね・・・」
俺はこの前の授業での事件を説明した。
「実践練習中に一組の生徒が能力をぶつけ合って、吹っ飛んだ模造刀と生徒が見学中の彼に激突して左肩貫通に肋骨の骨折か」
「はい。保健室で治療したので二日後には治ってましたけど」
「怪我に慣れていない島外の人には、トラウマ級だろうね」
「島外には、体育で模擬戦闘訓練なんてないらしいですし、骨折を治すのに数ヶ月かかるらしいですしね」
「この島での治療は最先端技術のおかげで骨折くらいなら完治まで数日だしね」
「早く響も慣れると良いんですけどね」
先の不安を語るのはこのくらいにして、響に一番の目的を伝える。
「戦闘訓練では、学校の備品の物を使っても良いけど、大体の奴が自分用の武器防具を揃えている」
「個人的に練習をしたいときとか、道具の性質を理解出来るようになるから、この島に来たばかりの今の方が自分用の物を準備した方がいい」
そうなんですか。と響が返答すると獅子神が手を引き、棚に並んでいる武器達を選び始める。
「うちは刃物はナイフから日本刀、銃関係ならボウガンから対戦車ライフル、
鈍器なら鉄パイプからバールまで大体の物は揃っているからゆっくり選んでいって
「工具が混ざっていませんでした?」
おやっさんがレジ横のカウンターに珈琲を二杯置くとまた椅子に腰掛け。
「武器選びのセンスはどんなかな?」
楽しそうに響達を眺めていた。今は公式鉄パイプの前にいる。
「多分ですけど、拳銃とかそんな感じだと思いますよ」
「いや、意外とロマン的な火力馬鹿かもしれないよ」
「・・・どうでしょうね」
珈琲を少し口に含み飲み下して余韻を味わうと、おやっさんは少し声量を抑えて。
「彼はダイチ君から見てどんな奴だい?」
俺は少し言葉を選ぶのに時間が掛かってしまった。
「なんというか、変ですね」
「変?普通の男の子みたいだけど」
「はい普通です。普通すぎるんです」
少しおやっさんは考えるような姿を見せ、数秒後納得した表情で言葉を放った。
「確かにこの島に来る人間は、政府が無作為に選んでいるけど実際に来る人間は大抵訳ありだからね」
それもある。だが一番気になるのは、会話や行動が常に相手の求めている答えになっていると言う点。
常に相手に適切な対応を行っているため、響個人の意見や感情が介在していないような感覚。
「響は、誰にも自分を見せたくないのかもしれません」
そう呟くとおやっさんは溜息交じりに答えた。
「やっぱり、彼にも何かあったんだろうね。島の中も外も、耐えられないような辛いことはあるから、そういうのから無意識に守っているのかもね」
しばらくの沈黙が続いた後、二人が選んできた武器を俺達に見せる。
「結構悩んでたみたいだけど、拳銃にしたんだな」
「ヒビキ君はどんな能力なんだっけ?」
「えっと、銃の照準とかを意識した対象に合わせるみたいです」
「じゃあ、スナイパーライフルの方が良いんじゃないかい?」
「それも考えたんですが、扱いが難しそうですし撃つ前にやられそうなので」
「なるほどね。じゃあそのグロック18の他にホルスターとマガジン三つ、あと専用のゴム弾と専用ガスボンベはいるね」
手際よくおやっさんが会計を済まして、袋詰めを行う。
普段騒がしい獅子神が不思議と静かにしていたのが気になり振り返ると、
学校指定の肩掛けバックから愛用のアサルトライフルを取り出すのに手間取っていた。
「お前何してんの?」
「可愛いうちの子を響君に見せてあげようと思ってねっ」
引っかかっているのか、ふんふんと踏ん張っているが中々抜けない。
「いや、今は良いだろ」
と、止めようとさせたが、少し制止が遅れてしまい。
カバンから45cmぐらいある鈍い黒光りを放つ重量物が
獅子神の背後にいた響の後頭部にクリティカルヒット。
ゴッという、濁音混じりの衝突音が店内を反響。
そのまま響はカウンターに顔を打ち付け突っ伏した。
数秒間、その場は静寂に包まれた。
「大丈夫か響?」
うぅと
「大丈夫」とだけ返し響は起き上がった。
必死に謝る獅子神と救急箱を準備するおやっさんを眺めながら
「この先は大丈夫なのか」と聞こえないように呟いた。
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