実験動物の月明かり
浅田 時雨
第1話 アカツキ
転校生が来た。
普段から騒がしい教室がホームルームにもかかわらず、更にざわつき始める。
「初めまして、
学園生活に新たな風を吹かせる。
それぞれが、風に吹かれる。
両手を広げ風を楽しむ者、踏ん張りとどまろうとする者、身を任せ流されようとする者、風の使い道を模索する者、風と流れる物。
例え、そよ風でも嵐でも。届く。
「改めて、よろしくお願いします。森本響です」
転校生は中肉中背で特徴らしいものはあまりない。
平凡な黒髪男子。ただ違和感なのは平凡すぎる見た目と性格。
それと、完璧な笑顔。
「よろしく!俺は
軽い挨拶をすると、森本は程良く力の抜けたリラックスしているような笑顔で優しさを含んだ声色で返答した。
「はい。だ、大地く・・・・ごめんね。あまり下の名前で呼ばないから」
彼は申し訳なさそうに、答えると少し頬を染める。
「気にすんなよ。ゆっくり慣れていけばいい。この学校にも、この島にも」
俺は分かった。こいつは、腐っている。
「どうしたの?」
俺達の間に茶髪のポニテをたなびかせ入ってきた女子生徒。
「
「そうだった。じゃあ自己紹介を。初めまして私は
軽快な挨拶に対して森本は丁寧に返す。
「うちの班はあと一人いるんだけど今日はちょっと忙しくて、来れないらしいからもう行こう。寮のみんなの紹介もあるからなバテるなよ」
この街は、日本のどこかにある島に構成する四つの街の内の一つ。
この島の特徴はいくつもあるが、最大の特徴は島そのものが一つの実験室であること。
「凄いですね。普通の街っぽさがありながらどこか違う。近未来的の香りがほのかにするようで不思議です」
「みたいだな。外から来た人間はどこを見てかみんなそう言うんだ」
「なんでだろうねぇ?」
どこかで、人間の五感か何かが訴えているんだろう。
わずかな違和感の気色悪さを。
自分の想像通りではないということ、それが事実として受け入れられないという精神の防衛本能。
見慣れた風景に紛れた、魚の小骨の様な飲み下すのに引っかかりを生む、ほんの些細な不快感。
それを良い方向でも悪い方向でも島外の人間は鋭く感じ取るようだ。
生まれた時からこの島にいる俺達には感じ得ない。
俺達の日常は、他者の非日常。
俺達の当たり前をおかしいと当然のように感じてまるで腫れ物に触るようにぎこちなくなる。
心底気持ちが悪い。おっと、表情が。
「聞いてはいると思うけど、この島は島自体が実験場で日本の多くの企業が研究を行い、ここの島民をテスターとして最先端の技術を実用化に向けて日々街は更新していく」
説明を済ませて、横を見ると・・・。
消えた。二人の姿がない。
周りを見渡しても見つからない。
いつもの事ながら甘く見ていた、獅子神は自由奔放。
そのため、一緒に行動するときは大体一度は居なくなる。
さて今回はどこ・・に・・・・。
「おい!なんだこのアマ!」
絡まれている。
「うちの子がすみませぇぇぇぇぇん!!」
獅子神が典型的ヤンキーファッションのチンピラに絡まれているのでとりあえず、
全力で謝罪しながら駆け寄った。
「スミマセン。うちの子がなにかしてしまったのでしょうか?」
図体がでかく着られる服が限定化されてしまったのか、制服のシャツから透けているセンスが壊滅的なスポーツTシャツの男が特に特徴も無く良くもない顔を歪め、怒声を上げる。
「なにをしただって?!そこの女が急にぶつかってきたせいで、俺のIDリングの画面が割れちまったんだよ」
IDリングは島民の保険証などの身分証、学生手帳、クレジット機能、連絡機能を内蔵した腕時計ほどの腕輪。
つまり、超貴重品。
「すみませんでしたぁぁぁぁ!」
どうせ、こういうタイプの人間は圧倒的に上な立場か完璧な被害者である時に求めているのは、
土下座である。
そのため先に勢いよく土下座謝罪を行うと相手の思考にわずかなラグが発生する。
そのラグを逃さず
「今回は俺たちが迷惑おかけしてしまい申し訳ありませんでした。
リングの弁償とお詫びをしたいので、お連れの方に連絡先を送信させていただきます
また後日に、細かな事を決定したいのでそちらにお電話下さい」
たたみかけるように謝罪を済ませ、破損した物品の写真を撮り、再度謝罪をして
その場を後に
「おい、まてお前」
出来ませんでした。
困った。喧嘩になっても負ける気がしないが、面倒事が増えて欲しくはない。
少し身構えて振り返ると、二人がばつの悪い顔をしながら困ったような声色で
「おい、あんた・・・・・・・忘れ物だ・・・」
そう言いながらコンクリ-トの上で転がっている
森本 響(17) 絶賛路上で気絶中
「「・・・・・えぇ?」」
ここにいる人間全員が困惑にまみれていた。
「ええっと、彼は?」
ヤンキー二名に訪ねると、獅子神を指さし。
「そいつがやりました」
振り返り獅子神を見ると
「私がやりました」
自白しおった。
「あのぅ、この人にぶつかったときに私が急に止まったから、追いかけてた森本君が反応できずに私に激突。一方的に森本君が弾かれて歩道と車道の間にある段差に頭を強打してました・・・・・てへっ」
体感強!
とりあえず生存確認と神妙な空気の中、頭に手を添え呼吸を確認すると
「すぅすぅ」呼吸音が聞こえる。安堵したと同時に頭から手を離すと
鉄の香りをまとった真っ赤な手がそこにはあった。
「救急車を呼べぇえ!」
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