第22話
やがて金髪はおもむろに顔を上げると、右手首に巻いた金色の腕時計を向けて時刻を確認する。そしてハンドルから体を起こしてシートに座り直すと、腕を伸ばしてエンジンをスタートさせた。目を覚ました車は低い
四車線を
男はうつむき加減でスマートフォンの画面を見ながら歩道の端を歩いている。その様子からは地味な若者を感じさせるが、長髪ながらも
金髪はそれを確認すると、車を発進させて横断歩道の手前で停車する。信号は青色だったが後続車の姿はなく、停まっていても不自然に思う者は誰もいなかった。横断歩道の右側では先ほどの男が信号待ちで立ち止まっている。やはりスマートフォンを見つめたままで、耳にも白いイアホンを
車道側の信号が黄色を
横断歩道の信号が青色に変わると、立ち止まっていた男が右側から車道を横切り始める。渡る前にちらりと左右を
金髪はエンジンを高速回転させたまま、太い腕でハンドルを握り締めて待ち受ける。車外では異様な音が鳴り響いていたが、イアホンを着けた男の耳には届いていなかった。にわかに顔を上げても正面の歩道を確認しただけで、すぐ隣の車はもう
金髪はアクセルを踏み込んだまま、ブレーキから左足を離した。
一瞬にして、車は爆発的な加速力で男の体を
金髪は男を
波打つように車体が揺れて、前輪と後輪の両方が男の体を踏み潰す。
金髪は薄い唇を開くと、欠けの目立つ歯を
車は停まることもなく、そのまま街へ向かって走り去った。
十三
【8月20日 午後5時30分 西名阪自動車道】
法隆寺インターチェンジから西名阪自動車道へ入り、東に向かって走行する。景色は市街地から一変して、左側に高い
「なんとか逃げられました。ありがとうございます、龍崎さんのアイデアのお陰です」
千晶は溜息をついて大きく肩を下げる。相当な緊張を
「ああ、この道も知っているねぇ。車で走った覚えがあるよ」
龍崎は首を回して周囲の様子を眺めている。
「たしか三重へ行く道だ。天理、
「お詳しいんですね。私はそこまで知りませんが、そんな感じだと思います」
「真夏の暑い日だったよ。クーラーの効きが悪くてねぇ、窓を一杯に開けて走っていたんだ。
「ご旅行だったんでしょうか。チャイムってなんですか?」
「時速100キロを超えると鳴るんだよ。車が警告するんだ。おかしいな。千晶さん、料金所は通り過ぎたかい? お金は払わなくて良かったのかな? あいつらはよく見ているよ。車のナンバーを覚えるんだ。あとで取り立てに来る。どうしよう、困ったことになっちゃった」
「大丈夫です。今は自動で利用料金が引き落とせるようになっているんです。料金所でお金を出さなくてもちゃんと支払っていますから、大丈夫です」
千晶は言葉の前後に大丈夫と強調して安心させる。真面目で心配性な老人の性格が
「龍崎さん、こんなことになって本当に申し訳ございませんでした。今日はこのまま紀豊園へお送りします」
「うん、紀豊園ね……あれ、紀豊園へ帰るの?」
「次の
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