第4話「蒼炎のフルール」

その組織は金さえあればどんな殺しの依頼も受けると言われている。

蒼炎と呼ばれる暗殺集団である。彼らはこの日も依頼を受けていた。

一人が声も上げずに息を引き取った。周りは銃を乱射するも目の前に、

そして背後から来る二人を捉えることが出来ない。


「ひ、ひぃぃぃ~!!!」

「アザレア、コイツは狩場に連れて帰る。処刑しろ」


ジェイルはそう声を掛けた。アザレアと呼ばれた青年はそれを聞き仮面の下で

笑みを浮かべた。


「良いのか?」

「だから言ったんだ。その代わり、しっかり殺せ」

「りょーかい」


狩場に入れられたのはターゲットの護衛人だ。狩場は檻、逃げることは許されない。

護衛人は相手を見て確信した。体格差があるのだ。相手は大して恵まれた体格では

無いし、何より一目見れば細い事は分かる。体格が良いほうが勝つ、それが

当たり前なのだから。


「よくもやってくれたな。俺を殺すって?殺されるの間違いだろ」

「アンタの事は知ってるよ。それなりに腕が立つボディーガードだってね。精々

逃げ回れ、お前が対峙するのは獣だってことを忘れるなよ」


ジェイルはそう挑発した。アザレアは上着を脱ぐ。薄手のタンクトップ姿で軽く

ストレッチすると彼は両腕を広げた。何をするのか、一瞬男は理解できなかった。


「来いよ。譲ってやる」

「良いのか?なら遠慮なく!」


丸太のような逞しい腕で繰り出すボディーブロー。それだけでなく男は防御もしない

アザレアに拳打の連撃を繰り出した。ジェイルは眉一つ動かさずそれを眺めていた。

勝敗は分かっている。だがこれも楽しみの一つだ。アザレアが狂気染みた笑みを

浮かべて自身の右頬を指さす。


「ここ、ここ。しっかり狙って打たないと、ね?」

「クソガキ!!!」


全体重を乗せたパンチを食らわせるもアザレアは平然としている。男の表情が

引き攣る。何だ、コイツ。殴られてニヤニヤと笑っている。


「ジェイル、こいつ本当に強いの?痛くもかゆくもないんだけどー」

「顔を見れば分かるだろ。本気だってさ」


男がアザレアに行使したのはフェイスバスターというプロレス技。顔面砕きと日本語

では呼ばれている技だ。名前を聞けば分かる通り、抱えた相手を顔面からマットに

叩きつける技。しかしここにマットは無いため危険だ。アザレアは容易に叩きつけ

られた。だが彼はすんなり立ち上がった。ジェイルは懐中時計に目を向けた。


「殺れ」

「はいはい、とッ!!」


ついにアザレアが攻勢に出た。瞬間、天秤が傾いた。男はあっという間に鉄格子に

追い詰められた。勝敗は決した。男の防御をアザレアの素早く重い拳打が

こじ開けた。男は顔を真っ青にしていた。


「や、やめっ―!!?」

「そうだな。顔面を砕いたら、すぐ死ぬ。それはつまらない。だって久し振りに

良い餌が来たんだから!!」


ジェイルは目を伏せた。それでも鈍い音と男の呻き声で、暗闇でも状況がよく

分かる。数分もしてアザレアの溜息が聞こえた。目を開くと血塗れになった男が

横に倒れているのが見えた。アザレアはその血を全身に浴びていた。


「残念…もっと頑丈だと思ってたのに。終わっちゃった」

「そんなもんだろ。それに、こっちは前座だ。またすぐにもっと良い奴を用意

してやるから我慢しろ」


アザレアはそれを聞いて機嫌を戻した。蒼炎の頭領を務めるジェイルも彼の

戦いぶりには身震いする。この狩場は彼の欲求不満を解決するために作られた。

ここでならじっくり時間を掛けて殺しを行ってもバレない。死体の処理、狩場に

飛び散った血飛沫の処理を終えた。


「相も変わらずの殺し方だな、アザレア」

「あ、ダリアさん!」


アザレアは組織内で最年少であり、孤児。家族と呼べるような者はいない。彼の

歪んだ精神は過去にある。スラム街となった場所では弱い者は強い者から搾取

されてしまう。なら強くならなければならない。戦い続けるうちに人を殺すことに

彼は快感を覚えてしまったのだ。しかし彼はある日、敗北を知った。その時のことを

彼は今でも覚えている。無論、ジェイルも。今も思い出す度に冷や汗が噴き出る。


「そのうち、決闘とか言って挑んでくるかもしれないぜ?ジェイル」

「洒落にならないな。アザレアと殺し合いなんて…あんなに追い詰められたのは俺も初めてだった」


両者ともに全身痣だらけになっていた。アザレアが気絶してからジェイルも気を

失い一週間は動けずにいたのだ。


「店の話をしてもいいか」


カフェ・フルール。それが彼らの経営するカフェの名前だ。揃って男性なのだが

女性客が多く集まっている。


「意外と人気者だよな、アザレアは。女性客からすれば弟にしか見えねえんだろう

けどな…」

「それと、ある情報を掴んだ。お前が最も気にしていること、天王寺翼って子の

話だ」


ダリアは息を呑んだ。ジェイルから放たれる圧。だがジェイルは一度大きく呼吸し、

それを器用に引っ込めた。


「話してくれ」


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アーティファクト 花道優曇華 @snow1comer

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