第9話『トカゲ侍と陰陽師エルフ』その九
リンタロウはピアの元へ帰った。
ピアは塀にもたれるようにして戦いを見ていたのだった。リンタロウが戻ってきたときには半醒半睡といった具合だったが、それでも意識はある。
「まだ終わりやない」
と、リンタロウに警告した。
「妖魔が死んだら結晶が残る。ケガレクリスタルいうんやけど、それほっといたらまた妖魔が生まれよるかもわからん。拾ってき」
言われて戻ると、妖魔の屍骸はすでになく、同じ場所にヒマワリの種ほどの水晶が、黒紫に光を放っていた。
禍々しい雰囲気を感じ、直接手で触れることがはばかられたので、懐紙を使って拾い上げた。
「ああ……小さいな。あんまりケガレを溜めとらんかったんや」
「ケガレとはなんだ?」
「濁気や」
と言われてもわからない。
「カンタンに言うと、生と死の生が清気、死が濁気や。妖魔がケガレを溜めるいうんは、つまり人を殺すいうことや。人を殺せば殺すほどケガレが溜まって妖魔は強くなる。今回のはあんまりケガレを溜めとらんかったから、妖魔の中でも格下や」
それでも、この村の住人が何人も犠牲になったのだが。
「格下でこれなら、格上には出会いたくないものだな」
「ほんまやで」
「それで、このケガレクリスタルはどうすればいい?」
「ケガレは散らさなあかん……お母ちゃんなら浄化できるんやけど」
ピアは言葉を濁した。つまり彼女にはまだできないということだ。ピアの母はよほど強力な陰陽師ということなのだろう。
「では、ゴートへ持ってゆけばいいのか」
「それでもええねんけど……ずっとそれ持っとくのは感心せえへん。小さいいうても、ケガレの塊やから、妖魔とかを引き寄せてまうかもしれんし……下手したら新しく妖魔が生まれてまうかも……」
よほど疲れたのだろう、もうピアのまぶたはほとんど閉じられている。
「でもウチは他のあてを知らん……」
「話は明日でもいい。もう休みなさい」
「そうさせてもらうわ……あ、そうや」
まぶたを閉じたまま、ピアはにへらっと笑った。
「リンタロウ、あんたほんまに強かったんやな。見直したわ……」
それを最後に、ピアは口を閉じた。眠ったようだった。
リンタロウは、ケガレクリスタルを懐紙(かいし)で二重に包み、袂(たもと)に入れた。
静かになったのを察したのか、恐る恐る姿を見せたのはヘイスケだった。
「おサムライさま?」
「ここだ」
ピアを抱き上げ、リンタロウは立ち上がる。ヘイスケは周囲をうかがいながら慎重に近づいてきた。
「魔物は……?」
「ああ、皆に知らせてくるといい。魔物は倒した」
「ほ、ホントですかい? うおお、すげえ、さすがおサムライさま! おおいみんな! 出てこい! おサムライさまが魔物を退治して下さったぞー!」
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