第5話『トカゲ侍と陰陽師エルフ』その五
リンタロウが二番目に上った。感触は完全に普通の岩石だ。すわり心地はいいとは言えない。
そして男が、おっかなびっくり最後に乗ってきた。式神に触れるのも怖いという感じだが、村のために我慢しているのだろう。
ピアが両手でグノームの背に触れ、静かに集中をはじめると、動き出した。グノームが駆け出す。
速い。馬よりも速く、ちょっとした塀くらいなら飛び越えられるほどの跳躍力もある。悪路を走破するにはもってこいだ。ある程度ならば街道も無視して近道ができるだろう。
その代わり、背中に乗ったリンタロウや男は、振り落とされないようにグノームの背中のごつごつにしがみついていなければならなかった。
「これなら……間に合うかもしれねえ」
わずかに喜色が混じる声音で男が呟いた。
「あんちゃん、道案内頼むで」
こんな状況で、とも思うが、リンタロウは自分たちの名を名乗り、男の名を聞いた。
「おれはヘイスケって言います。……もう川が見える。したらすぐ渡ってくれ。そっちのほうが道なりより早い」
ヘイスケは言われたとおりに道を指し示す。ちゃんと自分の村との位置関係が頭に入っているようだ。学はなくとも記憶力は悪くないらしい。
話すこともないリンタロウは、ヘイスケの様子を見て自分の過去に思いを馳せた。
自分が学問をさせてもらえたのは武士という生まれのおかげだが、学問と剣術以外何もさせてもらえなかったのは、獣還りのこの顔のおかげだ。リンタロウは、なるべく家から出さないようにして育てられた。犬や猫の獣還りならともかく、トカゲなど聞いたこともない、こんな気持ち悪い姿は家の恥だ、というのが家長である祖父の価値観であった。
グランド幕府の初代皇帝が狼の獣還りだったため、獣還りの人間を差別することは公には許されていない。普通の人間と同じように扱うべし、と定められている。さらに、獣還りの人間は身体的能力が高いため、むしろ重宝がられる存在だったりするのだ。
――トカゲでさえなければ。
ひときわ大きな揺れがきたせいで、リンタロウは我に返った。
グノームは岩を飛び越え、木々の間を抜けて軽快に走っている。
だが、リンタロウのすぐ前に座るピアに疲れが見える。しがみつき続けているから、というだけではないように思えた。
式神をずっと走らせているせいだろうか?
「大丈夫か」
「ウチは平気や」
そうは言うが、息が切れている。振り返った顔色がよくない。
「休憩を入れたほうがいいだろう。いったん止めたらどうだ」
「急いどる。休んどる間に村が襲われたらどうすんねや!」
まるで自分の村のことのように懸命な様子のピア。やけにヘイスケに協力的だ。
「ありがてえ。急いでくれ」
ヘイスケが拝むようにして言った。
ピアは濃い疲労を押し隠して、笑ってみせた。
「まかしとき」
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