出会えてよかった

Side 加藤 佳一


(さて、どうするか――)


 フロンティアとか言う厄介そうな連中に目をつけられた状態でホープタウンに戻るのはリスクが高いように感じるが――


 情報収集――と言っても旅人やトレーダー相手に雑談しながら細かい情報を拾い集める。


 分かった事は最近、近辺のウォーバイソンや野盗の動きが大人しいらしい。

 

 またフロンティアの連中と思わしき姿を見掛けることが多くなったとか。


 嵐の前触れのような情報だ。


 少し気が滅入ってしまう。


 気がついたら俺は海が一望出来る見晴らしのよい人気のない場所に辿り着いていた。


「何考えてるの?」


 と、ナナに言われてしまう


「ああちょっとな――何も考えずに生きる事だけ考えてた頃が懐かしく感じてな」


「私と出会った頃のこと」


「ああ」


 もう随分昔のことのように感じる。

 

 ナナと二人だけの旅をしていた時代。


 ホープタウンとか色々なしがらみとか無くて、明日の飯すら不安で、ただ生きる事だけ考えていた。

 

「ケイイチ? 辛い時は辛いって言わなきゃダメだよ」


「それは――」


「マヤ言ってた。何時もケイイチに辛い役目を押しつけて無理させてるって」


「・・・・・・どう言えばいいのかな。何もしなかったら大勢人が死ぬ。無茶しても人が死ぬのが少なくなる――何時の間にかそんな風に考えてた」


「うん、分かるよ」


「ごめん。ちょっと涙が出てきたな――」


「泣いてもいいと思うよ」


「うん――」



 少し落ち着いてマヤのところに戻る。

 戦車の格納庫のことだ。


 ナナとは一旦別れた。

 アーニャや仲良くなった海賊のジェシカと一緒に行動するらしい。


 ナナは実年齢は分からないが、多くの人間と関わりを持つべき人間だ。

 特にこの世界ではそうだ。


「なあ。その――私と――出会ったこと、後悔してるか?」


「なんだ急に?」


 こちらに振り向かずに戦車の整備作業をするマヤ。


「その――ちょっと見たんだ・・・・・・泣いてるの・・・・・・」


「・・・・・・ごめん」


 どうやら見られていたようだ。

  

「ホープタウンに・・・・・・いや、このまま別れるか?」


「それはないな」


 俺はキッパリと言った。


「確かにマヤと出会ってから大変だった。だが選択したのは俺だ。俺は元居た世界では――正直何も考えずに生きていた。それでも生きて行けた」


 本当にそうだ。

 元の世界にいた頃の自分はなんて馬鹿だったのだろう。


「だけどこの世界ではそれでは生きていけない。だからマヤとナナと一緒にいると言う選択をしたんだ――俺はまだマヤとナナと一緒にいたい。一緒に旅をしたい」


「でも辛そうだったじゃないか」


「旅は楽しいことばかりだけじゃないってことだったんだろう。それに嬉しい事も沢山あった。ナナと出会って、マヤと出会えたからこうして俺は生きてるんだ」


 そう言うとマヤは「グスッ」と涙をもらして「普通この場面でナナの名前出すか?」と泣き笑いされた。


「てうぉ!?」


「ナナにはずるいからこれだけで勘弁な」


「胸が当たって――」


「当ててるんだよ・・・・・・」


 マヤが抱きついてきた。

 決してよい香りとは言えないがマヤの香りは嫌いじゃない。

 胸の膨らみが思い切り体に辺り、暖かい吐息が体に伝わる。


 俺は呆然とした。


 そしてマヤが名残惜しそうに離れる。


「マヤに出会えてよかった――」


「私もだよ」


 マヤの涙で濡れて赤らめた微笑みの表情はとても美しかった。

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