軍艦街決戦

 Side 加藤 佳一


 俺はSS-15を身に纏った状態で戦車の後部に乗っていた。

 戦場に到着するまで暇つぶしのように中にいるマヤやナナと会話する。


 平坦な土地。

 雑草が巻き付き、生い茂って廃墟と化した軍艦街へと続く道。

 ところどころに海の生物などが浸食しており、廃墟を通り越して瓦礫だらけになっていた。

 

 廃墟を沢山見てきたがここはさらに酷い。

 先日のガソリンスタンドで言っていた塩の砂漠、瓦礫の荒野とかはこの事を言うのだろう。


 こうなった理由は核兵器云々が理由ではない。

 

 日本は元々災害大国だ。


 同時に半世紀に一度あるかないかで大地震と一緒に津波までくるし、年に何度も大雨洪水に台風までくる。


 文明が崩壊し、大雨や強風に晒され、地震や津波が来ても誰もインフラを修復する者がなくなったこの世界にはこう言う場所は沿岸部に彼方此方にあるのだろう。


 時折、1m以上の高さの巨大カニの姿などが見える。

 

 四足歩行のサメの姿もあった。


 たぶん軍艦街の人達にとっての脅威であり、捕食者でもある対等な関係だ。


 ウォーバイソンの連中が行き掛けの駄賃で殺したのか通り道にはその生物が沢山転がっていた。


 しばらくこいつらの死肉でも漁れば食料で困ることはなさそうだ。

 

 もっとも、それも生き残ればの話ではあるが。


『瓦礫の荒野とか聞いた事あるけど、まさかこんな場所だったとはな』


 と、マヤが運転しながら言った。


『地震とか津波とかでこうなったんでしょ? 自然の力って凄いね』


 ナナが呑気にそう言う。


『まあな――津波とかは映像でしか見たことはないけどな。地震は軽くなら何度か経験あったけ?』

 

 俺はこれまでの旅を思い出しながら言う。


『うん。そうだった。地面ってどうして揺れるのとかちゃんと教えてくれたよね?』


 ナナが思い出しながらいう。


『上手く説明できた自信ないけどな。ホープタウンの図書館とかならそう言う本がああるはずだ』


 この世界、本などのアナログ媒体は地味に貴重だ。

 紙はケツを拭く道具か火をおこす道具、あるいは食ってでも飢えを凌ぐ連中などがゴロゴロいるせいだ。


 世紀末って恐いわ。



 Side ミハエル


 私は現在09式を身に纏って部隊の指揮をし、防衛戦に参加していた。

  

 敵はウォーバイソン。

 

 ただ数を活かして突撃するだけだがいかんせん数が多い。


 軍艦街の人達も頑張ってはいるが突破されるのも時間の問題だ。

 

 幸いだったのは――荒れ果ててはいるがここは元々は軍港と呼ばれる軍事基地の一つで防衛戦を展開するにはそれなりに有利な場所だったぐらいだ。


 航空戦力もまた一機、また一機と数を減らしていく。


『雑魚に構っている暇はない!!』


 私はシールドで相手のパワーローダーの攻撃を払い除けて、実弾のパワーローダー用アサルトライフルを撃ち込む。 


 重量の増大と引き替えに破壊力や貫通力を増大させた武器だ。

 パワーローダーでしか使えない。

 生身で使うなら機関銃のように設置して使わなければならないだろう。


『あの戦車をどうにかしなければ――』


 ランドキング。

 ウォーバイソンの幹部が乗る戦車。

 奴を倒せば、あるいは撤退させれば戦いは終わりなのだが敵の数が多い。


 上空から背中にフライトユニット搭載した私と同じ09式パワーローダー部隊、≪ファルケン隊≫やヘリ部隊が攻撃を仕掛けているが中々近寄れないでいる。 

  

『上空から新手――敵の数は六機!! ウチ五機はパワーローダー、一機は飛行機械です!!』


『なんだと!? どこの所属だ!?』


 この世界に航空戦力を持つ勢力は限られている。


『識別不明!! 我々に攻撃を仕掛けてきています!!』


『クソッ!? まさかフロンティアか!?』


 フロンティア。

 一番栄えて復興した文明であり、最大の勢力。

 同時にもっとも油断ならない存在。


 それがこのタイミングで介入してくるとは――

 

  

 Side ???


 フロンティアのパワーローダー。

 ワイバーン。

 世界が滅びる遥か昔のお伽噺に出てくる竜の名前だ。

 

 外の世界のパワーローダーと違って得意な外観。

 両腕をバインダーと呼ばれるパーツで構成。

 足は長くバランサーとブースターを兼用している。

 背中のパーツを被ることで昔幾多も存在していた戦闘機みたいな外観になる。

 

 空を飛べるのは大出力のブースターの力もあるが"特殊な機構"――滅んだ文明では再現不可能な機構を積んでいるからだ。


 それで空を自由に飛び回り、旧世代の玩具(兵器)を容易く駆逐出来る。


 それがワイバーンシリーズ。

 フロンティアの力。

 

 ウォーバイソンなどと言う野蛮人に力添えする形になるのは少々癪だがこれもフロンティアの――自分達の目的のためでもある。


 うっとおしいレジスタンスもいない。


 また一体、また一体とバインダーと一体化したビーム兵器でタレットやパワーローダーなどのターゲットを仕留めていく。


 手練れも何人かいるが今回の作戦は軍艦街やアーミズシティの連中の戦力を削ぐのが目的だ。


 適当に力を抜いて――

 

『兄さん。ウォーバイソンの連中が苦戦している』


『なんだと?』


 弟のその言葉を聞いて私は一瞬耳を疑った。


『こちら空中管制機≪ホークアイ≫――ウォーバイソンの部隊背後に敵――数は二、戦車とパワーローダーが一機ずつだが異常だ。至急様子を見て欲しい。』


 それがあの少年との長い因縁のはじまりだった。



『フロンティアの連中!! とうとう馬脚を現しやがった!!』


 と、マヤが言いながら戦車の火力をフルに使って次々と眼前の敵を葬っていく。

 今の彼女はウォーバイソンよりも空中を飛んでいるフロンティアの連中に対する怒りが大半だ。


『アレがフロンティアのパワーローダーか。デザインで一目で分かるな。変形したりしてるし――』


『ああ、悔しいけどな!!』


 と、マヤが自分の内心を露わにする。 

 

『パワーローダーで変形って凄いね――』


『巨大ロボットならともかく、パワードスーツで変形させる場合はそれだけ単純な構造をしているんだろう』


『アレなら私も乗れるかな?』


『さあ?』


『お前ら呑気だな・・・・・・』


 ナナと会話していたらマヤに呆れられた。

 まあこれでもちゃんと手を動かしてますよ。

 今も近寄ってきたパワーローダーをシールドで殴り倒して胴体を踏みつけ、首元の隙間に銃口を差し込んでトドメを刺したりしてます。

 こいつらの乗り物やパワーローダー幾らで売れるかな?


 などと考えながら敵を潰していく。

 

 空中のパワーローダー、フロンティアの部隊はウォーバイソンへの攻撃は出来ないのか、盾にするように立ち回るとあんまり手出ししてこない。

 

 そりゃそうだよな。


 いちおう援軍として来てるんだから。


 攻撃したらその場で袋叩きだ。


『どうする? フロンティアから叩くか? それともウォーバイソンから潰すか?』


 俺はマヤに判断を仰いだ。


『フロンティアから潰す!! あいつらの目的は分からないけど、ウォーバイソン一緒にと軍艦街にいる連中にも攻撃してるんだ!! 手が出せない今なら好き放題に攻撃できる!!』


『了解!!』


 マヤの強気な態度に俺も続く。

 空中にいて動きも速いが攻撃の手は間違いなく緩んでいる。

 そこを同じく空を飛んでいる味方のパワーローダー、アーミズシティの09式の飛行型のバックパックを装着しているパワーローダーが追撃をする。


(正直このままだと危ないか?)


 ウォーバイソンとフロンティアの部隊は挟み撃ちの状態だが、挟んでいる自分達の戦力は戦車と自分だけだ。


 大勢を建て直されて攻撃されたら終わりだ。

 徐々にだが敵は左右に分散していく。

 撤退か再集結して攻撃するかは相手の指揮官次第だろう。


 ランドキングとか言う奴が乗っている特注らしき戦車の姿が見えた。

 あちらは右側へと進んでグルリと回り込んでいく。


『今のウチに軍艦街へ飛び込むぞ!! このままじゃ俺達が挟み込まれる!!』


『分かった!!』


 マヤの戦車が全速力で軍艦街へ、俺はその戦車の後部に飛び乗って足場にしながら空中にいるフロンティアの敵を牽制する。

 

『また会いましたね!!』


『ミハエルさんか!!』


 ゲートの入り口に辿り着くとミハエルに出会った。

 ミハエル達も相当やられたがそれでもしぶとく態勢を建て直して防衛準備をしている。


 周りには棺桶となった車両やパワーローダー、黒煙を挙げる砲台に死体などが並んでいた。


 いつ見てもこう言う光景は慣れないもんだ。


『君かね。ホープタウンのメッセンジャーと言うのは』


 渋い声でパワーローダーの部隊を率いて――重装備型の09式が現れた。

 増加装甲に背中に追加ブースターパック。

 肩の上部に横置きでミサイルパックと思わしき武装を載っけている。

 見るからに指揮官機っぽい。


 背後には09式や戦闘車両が並んでいる。


『あなたは?』


『今は長々と説明してる暇はないので将軍だと名乗っておこう。ミハエル、シュミット、よく持ち堪えてくれた。後は我々に任せてくれ』

 

 と喋る。

 シュミットと言うのは他の部隊の――恐らく空中を飛んでいる09式の部隊の隊長格の名だろう。


『いえ、我々もおともします!!』


『・・・・・・分かった。ライトニング隊、ファルケン隊は隊の被害状況を確認し、一時後退して態勢を建て直してから我が隊に合流せよ。この命令は絶対だ!!』


『はい!!』


 と返した。

 将軍を名乗るだけあって判断が素早い。

 

『やれやれ。人気があると言うのも考え物だな』


『人気ではなく、人徳と言うものですよ将軍。そう言う御方だから我々はソルジャーになったのです』

 

 そう言うと将軍と名乗った男は苦笑混じりに『だから何時までも引退できないのだ。後継者は苦労するだろうな――』と言って周囲から笑いが起こる。


『さて、お喋りはここまでだ。手の空いている物は防衛線を張れ。軍艦街の人間も一時後退を。ここは何としても保たせてみせる。ホープタウンの皆様はどうする?』


 雰囲気が戻り、テキパキと指示を飛ばす。


『同盟はもう結ばれものとして・・・・・・指揮はどうします? そちらの指揮下に入って戦えばいいんでしょうか?』


『出来ればそうしてくれると助かる』


『マヤもそれでいいか?』


『ああ――ここは協力し合って戦った方がいい』


『分かった――そちらの指揮に入ります。一先ずこちらも態勢を建て直してから戦線に復帰する形で』


『分かった。頼りにしているぞ少年』


 そうしている間にも将軍率いる部隊が展開していく。

 ゲートの外側で迎え撃つ構えだ。

 自分達も邪魔にならないように、態勢を整えるため軍艦街の内側に後退していく。 

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