補給地点

Side 加藤 佳一


『話は分かりました。軍艦街まで案内します』


 ミハエルに話しかけて事情を説明するとアッサリと承諾。

 他に軍艦街に向かうキャラバンやアーミーズシティの車両部隊などの護衛付きと言う何とも豪華な布陣で出発することになった。


 またアーミズシティはコロッセウムやホープタウン、アナグラにも向かうつもりらしい。

 凄い部隊展開能力だ。

  


 アーミズシティのソルジャー達の補給地点。


 ソルジャーと言うのはアーミズシティの人間にとっては特別な意味合いを持っている。


 元の世界の日本の兵士と言う意味合いよりも昔の弓や槍の時代で戦士として認められた存在と言う意味合いが強いように感じられた。


 そこでミハエルと顔を合わせる。

 背が高い。

 金髪ショートカットで美形の宝塚系女性。

 より付け加えて言うなら男子よりも女子にもてそうなカッコイイ系の女子で緑の斑模様の軍服がよく似合っている。


 彼女に見惚れるよりも俺は補給地点に目をやる。

 バリケードにタレット。

 パワーローダーや車両の整備上まである。


「凄いなアーミズシティは。こう言う場所幾つも作ってるの?」


「はい。将軍が戦前の軍事教本などを参考にしているようです」


「将軍?」


 こんな補給地点を幾つも作っているのにも驚いたが将軍という単語に興味をそそられた。


「我々ソルジャーの統括者です」


「成る程――」


 一瞬、ボストンのマサチューセッツ州のあの(パシリにされてる)将軍を思い浮かべたのはここだけの話だ


「使っているパワーローダーは?」 


「昔この土地に存在していた軍事勢力、ジエイタイが使用していたらしい09式を基にした機体らしいです」


「ジエイタイか・・・・・・」


 アナグラに行く前。

 汚染区域の怪物――巨大エビと戦う前の休日でナナと一緒にホープタウンのゲームセンターでパワーローダーを使って戦う奴があった。

 そこに09式のデーターが無かったのは、その09式が日本の――自衛隊末期のパワーローダーだからだろうと思った。


「てことは09式を量産して運用しているのか?」


「はい。クセがなく使いやすいですよ。そちらはアメリカ製のSSー15ですね。戦車は――」


 と、ミハエルはマヤが整備途中の戦車に目をやる。

 チラチラとこちらを見ているが――まあ理由は分かる。

 うん。


「マヤの戦車か。アレは大昔中の大昔に日本が使っていた戦車の設計図を基に改良された一品ものだよ」  

 

 マヤが作ったチハの説明はこんな感じでいいだろう。

 一から十まで説明すると長くなる。

 しかしグリーンに☆のエンブレムはなんだかアメリカ製か、それともアメリカ軍に鹵獲されたみたいだなと改めて思う。


「こちらも聞きたいのですが――最近噂になっているパワーローダー乗り――加藤 佳一とはアナタのことでしょうか?」


「まあこの辺りでは名字持ちは珍しいらしいからな。最初はフロンティアの人間に疑われたこともあったし――」

 

 それよりも自分、どう有名になってるんだろうか。

 好奇心半分、恐怖心半分な気持ちだった。


「そうですか。噂は色々と聞いています。会えて光栄です」


「あ、ああ、どうも――」


 そう言われて握手を求められたので反射的に応じた。


「どこで戦闘訓練を受けたのですか?」


「いや、そう言うのはしたことないし時間もなかった。殆ど我流だ。コロッセウムで一週間ぐらい格闘技のイロハを教えられたり本で知った知識を教えたりしたぐらいだ」


 よくよく考えてみればよくこんなんで今迄生き延びてこられたもんだと思う。


「そうなんだよ~佳一は色んな事を知ってるんだよ」


「君は――」


「ナナだ」


 唐突にナナが入り込んできた。


「そう言えばマヤは?」


「うん。ちょっとミハエルさんと佳一のことが気になるみたい

私も気になった」


 ナナは正直に喋る。

 俺はこの後の展開が少し恐くなった。


「ああそうか――見ようによってはナンパに見えるもんな」


「ナンパ? 私もそう言うつもりは――恋愛経験はその、恥ずかしいことに語れるほどないがそもそも会ってからまだそんなに経ってないのに恋に落ちるものなのか?」


(ごもっともですミハエルさん)


 頭の悪いなろう系小説であるまいし現実なんてそんなもんだ。

 小学生か、盛りがついた中学生じゃあるまいし。


「ミハエル隊長、恋愛経験ないですしね」


「どちらかと言うと女性にもてる人ですから」 


「こらキサマら! 自分でも気にしてるんだぞ!?」


(苦労してるんだなこの人――)

 

 などと部下とおもしき人達にからかわれているミハエルを見てそう思った。


「――コホン・・・・・・これだけの話だが、ウォーバイソンには奇妙が噂がある」


「奇妙な噂?」


 咳払いしてシリアスな雰囲気を取り戻したミハエル。

 ナナが話題にくいつく。


「バックにフロンティがいるって言う話か?」


「知っているのか?」


 俺はミハエルに「まあな」と返した。


「どう言うこと佳一?」


「ウォーバイソンは元気すぎるんだよ。景気が良すぎると言ってもいい。そこら辺の武装勢力を纏めて一大勢力を築き上げたとしても――ホープタウンやコロッセウム、そして昨日の一件とか、どう考えても元気が良すぎるんだよ。装備も充実し過ぎている」


 野良の野盗なんかパワーローダー相手にバットで殴りかかってきているのにウォーバイソンときたら武装が良すぎる。

 外観が世紀末仕様だとしてもだ。

 何か巨大な勢力の援助があるとしたら最重要容疑者はフロンティアだ。


「俺達がウォーバイソンを倒せばそれでよし。ウォーバイソンが覇権を握ろうと勢力を拡大しても特定のタイミングで始末すればそれでよし。目的は分からないし、実はフロンティアが絡んでない可能性もあるけど、今の状況はどう転んでもフロンティアの得にしかならないだろう」


 政治経済にはあまり詳しくはないし、もしかして的外れな部分もあるかもしれないが、強ち間違いでもないはずだ。

 

 失礼ながらアーミーズシティも考えたはしたが今のところなんとも言えない。


「我々の上層部も同じ意見だが――驚いたな。やはりソルジャーの適正があるな」


「悪いが今はホープタウン所属で仕事中の身でね。勧誘にはのれない」


「分かってる。だが気が向いたら歓迎しよう」


 などとやり取りした。


「仲良くなったね~」


 ナナがそんな呑気なことを言うと続けざまに「隊長、口説いてます?」、「隊長にもついに恋の予感が」などとミハエルの部下がはやしたてる。


 なんだかなぁ・・・・・・



「随分仲良さげだったじゃないか?」


「ああうん。ごめん」


 戦車の整備を一通り終え、マヤのグリーンの戦車を背中に語り合う。


「ナナはともかくあんまり他の女に目移りしていると強引に奪い取るからな」


「ああ・・・・・・」


 顔を真っ赤にしてそっぽ向きながらそう言う。


「しかし・・・・・・いよいよ旅も終わりが見えてきたな」


「そうだな」


「旅が終わったらどうする?」


「決めてない・・・・・・」


 ふとホープタウンの代表者――ハカセの話を思い出す。

 あの人はもうこの世界の住民だ。


 元の世界に帰る方法を探したそうだがみつからず、永住を決めた。


 俺もそうなるのだろう。


 正直元の世界での心残りは多い。


 やはり帰りたいと言う気持ちがないと言うのは嘘になる。


 だがナナをはじめとして多くの人々に関わってきた。


 帰ったらそれを無かったことにしてしまいそうで恐い。


 だが帰ったら帰ったらで後悔するだろう。

 

 だから――


「結婚、考えとくか」 


「ふぇ!?」


 などと呟いてしまってマヤを驚かせてしまった。

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