バトリング・リングイン
Side 加藤 佳一
コロッセウムでは様々な競技が行われているらしい。(この殺伐とした世界の競技が競技と言える物なのか恐い部分があるが)
その中で一番の目玉はレースとバトリングらしい。
特にバトリングの選手はコロッセウムでは尊敬される存在なのだとか。
競技場はコロッセウムの野球ドームスタジアムの中央を広々と使っている。
"本来の"観客席は店やら建築物やらが建てられており、農作物を植えているかと思えば家畜を育てている場所まであった。
リングの周辺は選手の控え室が立ち並んでいる。
さらに近くには出番待ちの選手がスタッフと一緒にパワーローダーの最終調整を行っていた。
「まるでパワーローダーの見本市だな・・・・・・」
様々なパワーローダーが立ち並ぶ光景は子供心がくすぐられると言うか何というか、眺めているだけでも十分楽しめる光景だ。
種類は少ないが――今迄みてきたパワーローダーは大体はジャンクの寄せ集めか軍事タイプのレストアモデルだったがここでは素人目でもフルカスタマイズの一品モデルが立ち並んでいるのが分かる。
ナナもマヤも圧倒されているのかキョロキョロと周囲を見て回っている。
「どうよこの光景は?」
グレイさんに尋ねられて俺はハッとなった。
俺は照れ隠しに視線を逸らしながら「控えめに言って最高です」と返した。
「そりゃよかった。でだ――パワーローダーだが、何がいい?」
SSー15でもよかったが、個人的には――勘だろうか?
赤く塗装されたSAー5が目に入った。
以前語った通り、洋式便に手足くっつけてブースターを取り付けたような機体であり、ウォーバイソンのデス・ホーンとチェーンソーデスマッチをした時に身に纏った。
俺は「SAー5でお願いします」と言うとグレイは「言っちゃ悪いがコイツ中身は相当いじくってるが旧式機だぞ? 見掛けもアレだし」と言われたが「これで良いんです」と俺は返して理由を――主にウォーバイソンでの戦いの事を説明した。
それを説明するとグレイは「成る程。"げんをかつぐ"って奴か。気に入ったぜアンちゃん」などと上機嫌になった。
げんをかつぐと言うのは――上手く説明できないが、神社にお参りして良い結果が出るように祈ったり、カツ丼を食べて大切な戦いに勝つなどの一種の儀式的な思想を言う。
こうした思想は紀元前から続いているらしく、例えを挙げれば自軍の旗がどのようにして突風で倒れたかによって軍を引いたり進めたりした程であったと言う。
ともかくグレイさんの命令でホイホイと赤いカラーのSAー5が準備されてゆく。
旧式機とは思えない、レーシングマシンのような鮮やかな塗装が施されている。
「本当にそいつでいいのか?」
不安げにマヤが尋ねてきた。
理由はグレイと同じ旧式機だからだろう。
「うん。これが良い気がする」
「うーん・・・・・・まあそう言うならな。私もちょっと整備手伝ってくる」
マヤはそう言って赤いSAー5に駆け出す。
「大丈夫なの?」
ナナは心配そうに顔を見上げてじっと俺の顔を見つめる。
「正直不安だけど、これからの事を考えるとちょっとな」
荒事は避けたいがどうしてもこの世界でやっていくには「経験値」を詰む必要がある。
今回の一件はグレイさんにのせられた部分もあるが"渡りに船"と言うことで参加を決めた。
悲しいがそれがこの世界で生きていくと言うことなのだから。
そして準備がトントン拍子で整っていき、四角形のリングにあがる。
ルールは簡単。
武器は打撃系武器のみ使用可能。
勝ち負けは
場外。
レフェリーが戦闘不能と判断。
相手選手が降参する。
十カウント経っても起き上がらない場合。
などで勝ち負けを判定するらしい。
何時もこうなのか少し離れたリングの周囲の観客席は熱狂状態だ。
ロボットが飛び回りドリンクなどを販売している。
ドーム内の巨大モニターにはリングの様子が映し出されていた。
そして高台に黒いスーツにサングラスを掛け、マイクを持った男が
『今回はスペシャルゲストの登場だ!! ホープタウンでウォーバイソンのデス・ホーンと叩きのめし、そしてコロッセウムでも鮮烈なデビューを飾った少年が参戦してくれたぞ!! 加藤 敬一選手!! SAー5に乗って搭乗だあああああああああ!!』
と、俺を自己紹介してくれた。
――ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
――お前に懸けてるんだ!! 頑張れよ!!
――格好いいところを見せたらお姉さんが特別に相手してあげるわ!!
などとこの世界らしい応援の言葉が投げかけられる。
こう言う時は深く考えないようにしよう。
『対戦相手はナックルコング!! 生粋のパワーファイターで長い豪腕はバトリングルールでは有利!! 搭乗者はコング選手だ!!』
そうしてゴリラのような重たそうで大きな両腕のパワーローダーが現れた。
分かり易いぐらいのパワーファイターだ。
このバトリングのフィールドは広いがパワーローダーのぶつかり合いと考えると狭い。
それに場外ありのルールならあの長いリーチの腕は厄介だろう。
『俺がコロッセウムの選手の先輩としてキッチリ洗礼を浴びせてやるぜ』
などとオープンスピーカーで鼻息荒くして言いつつ、長い両椀の拳同士をぶつける。
俺は若干気圧されて『お手柔らかにお願いします』と言うと何がおかしいのか『お前がただのラッキー野郎かどうかは戦ってみればわかることさ』などと挑発してきた。
(ラッキーボーイか・・・・・・強ち間違いでもないかな?)
などと思いつつ相手の両腕を観察する。
相手は特別なカスタマイズが施されている、バトリングで勝つための機体だが無理な改造をしているせいで両腕に負担が掛かっているように思える。
一応打撃武器などの類いは許されており、俺は縦長のシールドとハンマーをそれぞれ片手で持っていた。(二つともパワーローダー専用の武器なのでサイズもそれ相応だ)
(さて――どうするべきか――)
などと考えているウチに試合がはじまった。
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