こうばん

 Side ナナ


 戦車に乗ってコロッセウムに向かう途中、私は結婚とか赤ん坊を産むこととか考えてました。


 私は結婚とか赤ちゃん産むとか言われてもわかんない。


 でもね、いつかこれは決めないといけないと思うことだってのは分かるの。


 私達は永遠には一緒にはいられない。


 この世界は残酷。


 何の覚悟もないまま、マヤとケイイチとお別れするのだって笑い話じゃないの。


 皆も、マヤも、ケイイチも分かっている。


 だからこそ真剣に悩む。


 私は選択しないといけないの。


 だけどエッチなことってあんなことするのって正直知らなかった。


 もしもケイイチとするとして私できるかな?



 コロッセオに向かう道中、高い崩落した建物などに挟まれている、タレットやサーチライトがある一階建ての「こうばん」と言う建物のところでである人物と出会いました。


 ちゃんと雑草も刈り取られていて道は綺麗です。(*この世界基準)


 あちこち錆び付いている大人ぐらいの背丈の白と黒と赤いランプを付けた人型の格好いい、ホープタウンとかの映画で見たヒーローのようなアーマーを身に纏った人です。

 

 右手には肩に担ぐようにキャノン砲、左手にはレーザーピストル。

 他にも銃や棒を太ももの入れ物に挿しています。


 ケイイチが「まるで特撮ヒーローだな」と言ってましたがどう言うことでしょうか。


 こうばんの周辺には野盗達が倒れ伏しています。


 全員死んでいる。


 この世界ではあたりまえの光景。


 自分の行動にはちゃんと責任を持ち、ちゃんと選択をしないとこうなる。


 この世界はまるで私達が忘れないように、無慈悲な現実を叩き付けてくる。


 マヤもケイイチもそんな周辺に目を光らせながらロボットに近寄ります。


『私はこの周辺を守る警察官だ――と言っても、遠い昔に廃れた職業だがね。今はは保安官をやらしてもらっているよ』


「私はナナ。アナタの名前はなんていうの?」


 警察官とか保安官とか気になる単語があるがそれが気になったの。


『正式名称は昔あったが今はシェリフと名乗っている。私に尋ねたと言う事はこの辺の地理とかを知りたいのだね?』


 シェリフさんの一言にマヤが自己紹介して「まあな」と返しました。

 遅れてケイイチも自己紹介します。


 この世界は情報はとても重要です。

 だからこうして警戒しながらも、シェリフさんに尋ねたのです。 


『この辺りも最近は治安が悪くなった。特にウォーバイソンと名乗る連中や変異した化け物が入り込んでいる』


「ウォーバイソンはともかく変異した化け物?」

 

 ケイイチは当然の疑問を投げかけました。


『そうだ。変異した化け物は汚染区域だけでなく、身体が小さな子供の時に地下の下水道などを通って移動し、住み着いた場所で繁殖、そして巨大化するケースもあるらしい。まったく戦前の人間は厄介な置き土産を残したものだよ』


 このシェリフさんの言う事に私は同じ事を想いました。


 この世界は嘗て平和だった。


 なのにどうして平和に生きられなかったんだろう?


 どうしてこんなになるまで争ったのだろう?


 私には分かりませんでした。


『すまないが礼を弾むから近くの公園――今は共同墓地代わりにしている場所に埋葬作業を手伝ってくれないか? その変わり、ある程度の支援物資を融通するし、そこら辺に落ちている物を頂いていってもいい』


「いいのか?」


 私でも分かるぐらい少し破格な条件です。

 ケイイチも思わず尋ね返します。

 

『いいんだ。人間は何時か死ぬし、機械だって何時か壊れる。ならその日、その日を正直に生きるのが一番さ』


 と、シェリフさんは言います。


☆ 


 佳一はパワーローダーを身に纏い、遺体を集めて建物に囲まれた狭い公園に埋葬しました。

 狭い公園には幾つもホープタウンにもあるような墓がありましたがスペースに限りがあるので、同じ場所に放り込む形です。

 

『ここにはイヤなメモリがあっても思い出す。私はあの日――確かに世界の終わりをこの公園で見た』


「世界の終わりを?」

 

 ケイイチがそう言いました。

 世界の終わり。

 この世界がこうなる前の世界の事を言っていた。


『ああ。上司や同僚と話したり、子供達と近所付き合いしたり――そしてあの日、急にサイレンが鳴り響いた。核シェルターに必死に避難誘導したよ。そして気がついたら、この公園にいた』

 

 そしてシェリフさんは周りを見渡した。


『どれぐらい眠っていたかは分からないが、周りは白骨死体だらけの酷い状況だった。軽く年単位で機能停止していたんだろう。生きている人間も皆理性を失って生き残るためならなんだってやった。化け物とかも闊歩し、軍隊の生き残りが独裁者のように振るまい――何が正しいのか、何が悪いのか。この世がマシなのかあの世と言う場所がマシなのか真剣に考えたことがある』


 まるで吐き出すように台詞を吐く。

 一気に語った短い言葉。

 だけど確かに地獄を見てきたように思えました。

 

「なあ、その口振りだともしかしてロボットなのか?」


『ああ。ロボットだよ』

 

 ケイイチの質問にシェリフさんはそう言いました。

 シェリフさんはロボットらしいです。

 マヤが作った戦車を動かすのをサポートしている卵形のサポートロボット達と同じだと言うのです。


 ケイイチはロボットだと確認だけすると「そうか・・・・・・」とだけ言って何も言いませんでした。



 私達は物を分け合い一旦、こうばんで一夜を明かす事にしました。


 この先にある大きな公園には頭が三つある四足歩行のサメの化け物が住み着いているらしいので近付いてはならないとのことです。


 てかサメってなに?


 とか思いつつ整理整頓された交番内で食事をします。

 綺麗な水に雑多な食べ物でご馳走です。


『色々と手伝ってくれた礼だ。それにコロッセウムまで用がある。旅に同行させてくれないか? 道案内しよう』


「いいのか?」


 マヤが尋ねます。

確かにこの辺の地理に詳しい人がいればこころ強いですけど、危険だらけな今の時代に本当にいいのかと思ってしまいます。


『ああ。それにロボットだってきまぐれ起こして旅をしてみたくなるものなのさ』


 とのことでした。



 Side 加藤 佳一


 夜が深まる。

 こうなるとヘタな移動は危険だ。

 俺は二昔前ぐらいのメタルヒーローみたいな外観のシェリフに呼び出された。

 場所は交番の屋上だ。


「話があるってなんですか?」


 一目で警察所属だって自己主張しているがこの世界に適応して『西部警察』状態になっている。


 俺はシェリフと一緒に交番の屋上で周辺を見渡しながら話をする。

 マヤやナナは気にしていなかったが、サーチライトやタレットまである。

 ヨハネスブルク辺りでなら違和感なさそうな交番だ。


『少し気になってな。君は――まるで大破壊の前の世界を知っているように感じたからだ』


「どうしてそう思う?」


『微妙な変化だ。私の話を聞いて辛そうにしてくれるのは多い。だけど中でも君は――そうだな、こう、機械がこう言うのも何だが違うみたいに感じた』


「子供の頃に学校の授業とかで広島とか長崎で原爆資料館とかにいかされたからな」


 それを聞いて身体を揺らし、『ッ!? まさか君はコールドスリープして・・・・・・』と尋ねてきた。


「いや、別世界からだ」


 ダメ元で俺は真実を告げる。


『そうか』


「信じるんですか?」


『今の君ぐらいの少年が学校で子供の頃に原爆資料館がどうとか言わないよ。今はもう広島と長崎に原爆を落とされたことを知らない子も多い』 


「・・・・・・こう言うのは偏見かもしれませんが、人間よりも柔軟な思考してるんですね」


『そう言う目的のためのAIだからね』


 まるで本物の人間と話をしているみたいだ。

 この世界の超技術はやっぱり凄い。


 そこから先は他愛の無い話で盛り上がった。


 戦前はどうだったかとか。


 自分の世界はどうだったかとか。


 今の世界についてだとか。


 まあ楽しい一時なのは間違いない。



 翌日、シェリフは近くの建物に隠していたらしい武装した改造警察車両に旅の荷物を載せて発進した。


 俺達も戦車に乗って発進する。


 コロッセウムまでもう少しだ。

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