結婚
Side 加藤 佳一
「悪いな、本当はケイイチの武勇伝聞きに来たんだけど何時の間にか愚痴ばっかりになって」
「こんな時代だからな。そう言う時もあるだろ」
タカメの言葉に俺はそう返した。
すっかり夜は深まる。
ライトがなければ何も見えない廃墟のビル。
廃墟のビルの崩れた壁からは星や暗がりで周囲が分からない地形が広がっている。
彼方此方に見張り――暗視スコープなどの専用装備をつけている人間が多数いた。
長年この土地に住み着いているだけあってそう言う装備は揃えているらしい。
「しかし、こんな時代でも人間ってのは強いな」
まだホープタウンやアナグラしか見てないがそれでも人の逞しさと言う物を感じずにはいられなかった。
「そういやどこ出身なんだ?」
「ああ、こことは遠い遠い、ずっと遠く離れた土地から事故で辿り着いた」
「そうか」
表現をぼかした。
馬鹿正直に異世界から来たと言っても理解されないだろうし、変な誤解されてもいやだからだ。
それに詐欺師みたいでいやだが都合良く何かを感じ取ってくれたのかもしれない――と言うのもこの時代、ウォーバイソンみたいな連中は多いらしく、産まれ故郷を失って放浪の旅をしていたなんて珍しい話でもないからだ。
「ナナやマヤとは?」
「ナナもマヤの旅の道中でだけど」
突然ナナとマヤについて聞いてきた。
特に隠すことでもないので正直に話す。
「お前どっちと結婚するつもりなんだ」
「ッ!?!?」
俺は驚いた。
タカメも「いやだって気になるじゃん」と、こちらも驚いた素振りを見せた。
「ホープタウンとかではどうかは知らないけど、俺達ぐらいの年齢ならもう結婚する奴とかチラホラ出始めるぞ?」
「いやだけど――ああ、でもこの世界じゃそれが普通なのか?」
ふとなぜかウェスタンルックの賞金稼ぎ、ロザリーさんの事を思い出す。
あの人はその辺どうなのだろうかと思った。
ホープタウンの代表者であるハカセこと笹木 賢治さんも既婚者だ。口振りからしてこの世界の女性と結婚したのだろう。
詳しくは知らないが少子化の原因は子供を産むリスク――成人して働いても養育費が払えないから産まないと言う選択肢が増えてるからだ。
この世界でもリスクは高いだろうが日本とこの世界とでは事情が違う。
特に命は軽くてやすい。
それを考えたら十代で結婚するなんて言う話も特に珍しい話ではないだろう。
「考え事は終わったか?」
タカメに言われて「ああ悪い」と返した。
どうやら一人の世界に入り込んでいたようだ。
「悪い。ずっと想像の範囲外だったから――遂最近までナナと二人旅でマヤと組んだのも最近の話で――ホープタウンに辿り着くまでは色々と頑張ったよ」
銃器とか拾い集めていたあの頃が懐かしい。
高速道路で出会ったあのショットガン持った行商人のオッサンは元気にしてるだろうか。
「旅って大変なんだな」
「まあな。アテの無い、終わりが見えない旅だったからよけいにな」
だけどその頃がとても懐かしく感じるのは何故だろうかと思う。
「しかし結婚か・・・・・・考えたこともなかった・・・・・・」
俺は思考を結婚に戻した。
自分が誰かと恋して結婚なんて夢物語に感じていた。
結婚と言われてちらつくのはナナとマヤの二人だけだ。
どちらかを選ぶと言われても――
「・・・・・・だけど今すぐ決めるってのも間違ってるよな」
と思いたった。
人に言われて決めますなんて色々と間違ってる。
これは簡単に決めてはいかない問題だ。
だから保留にしておいた。
「なんか悪かったな」
タカメに謝られたので「いや、俺もちゃんと考えとくべきだった」と、俺も返しておく。
だが一人でまた彷徨うナナの姿がちらつき、同時にまた一人で戦車に乗って彷徨うマヤの姿がちらつく。
いずれは決めなくてはならないのだろう。
☆
タカメとあれこれ話をして俺達はアナグラを後にした。
マヤは色々と買い込んみ、同時に巨大エビの一部を全て戦車で牽引する。
思わぬ寄り道になった。
戦いがあって、出会いがあって、色々と考えさせられた。
「なあケイイチ。お前なんか変だぞ?」
パワーローダーを戦車に載せて中にいると、マヤにそう言われて俺は「かもな」と返した。
「なんか悩み事でもあるの?」
ヒョッコリとナナが口を挟んでくる。
「まあタカメと二人で話し込んでたら将来について色々とな」
結婚の事は暈かして将来と伝えておいた。
するとマヤは「将来か・・・・・・ホープタウンずっとあんな感じだったし、私もあんま考えたことなかったな」と、腕を組んで考え込みはじめ、ナナも「そうだね~私もどうなるんだろう」と、人差し指を口元に当てて上を向いて此方も考え込みはじめた。
「結婚するか?」
「なぜそうなる!?」
マヤのまさかの衝撃的な一言で大声を出してしまう。
「結婚するの!?」
「突然すぎて驚いたわ!!」
ナナもなぜかマヤと俺が結婚することは確定らしい。
「私のこと嫌いなのか?」
「いや、嫌いじゃないけど」
「じゃあ結婚しようぜ」
などと笑みを浮かべてマヤは言ってきた――って、
「まて!! そんな気軽に決めていいもんじゃねえだろ!?」
なんだこの流れ。
俺ホープタウンに帰ったら何か色々と卒業するの?
「まあ確かに簡単に決めていい話じゃないわな」
「結婚ってずっと一緒にいて子供作る――あれ? 子供作るってどうするんだっけ?」
マヤは納得したがナナは新たな爆弾を持ち込んでくる。
勘弁してくれ。
「ああそれはだな――」
マヤがナナに何かを教え込むようにナナの耳まで顔を近づける。
俺は耳を塞いでおくことにした。
その後、マヤはニヤニヤしてナナは顔を真っ赤にして不自然なぐらい大人しかった。
俺も顔を真っ赤にする。
マヤは何がそんなに嬉しいのかニヤニヤしていた。
そんな雰囲気の中、俺達はホープタウンへと帰還する。
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