アナグラ
Side 加藤 佳一
日が落ち始めた時間。
俺達は黒尽くめのガスマスク集団にアナグラへと案内された。
アナグラと言うのは地下鉄らしい。
入り口は複数あり、周辺にはテントやら見張り台やら――たぶん近くの廃墟ビル郡にも仲間が潜んでいるだろう。
エビやエビが擬態していた地点に置いてあった武器や車両の残骸などはガスマスク集団が保有する車両で牽引されていた。
『ここだ』
『取り合えず俺達、君達と交渉したい』
と言う感じで入り口の手前でそう言われた。
『私は残る。何かあったら知らせろ。常に通信はONにしておけ』
「わかった」
俺はパワーローダーのヘルムの中でマヤの判断を尊重した。
『まあそれが普通だろうな』
このアナグラに住まう少年らしき人間も通信に割り込んでそう言ってきた。
相手もその点は了承してくれているそうだ。
『パワーローダーで中に入ってもいいってさ』
『だけどパワーローダー、馬鹿力だから動きには気をつけてな』
「あ、ああ」
などと丁寧に言われて地下鉄の駅に案内される。
何気にパワーローダーで階段を下るのは緊張した。
☆
アナグラの地下はとても混沌としていた。
なにかの肉でバーベキューしたり、簡素な店があったり、子供達が走り回っていたり、駅に停まっている電車を住居代わりにしていたりとか。
周りにはテントやらプレハブ小屋があったり、ここでもDVDの上映会とかゲーセンの箇体があったりした。
かと思えば農業していたりとやりたい放題だ。
何故か線路には車が置いてある。
などと見学しているウチに目的地に到着した。
綺麗に整えられた駅長室に案内されてそこで代表者らしい男と対面した。
褐色肌で白髪、白髭の男だ。
ライオンみたいな印象を持つ男だ。
体格も大柄のガテン系でしっかりしている。
「俺はジュウヤってもんだ。アナグラのリーダーをやってる」
と、自己紹介されて俺はパワーローダーのヘルメットを脱いで自己紹介した。
「加藤 佳一。皆からはケイイチって呼ばれてます」
「よろしくな。で、色々と話したい事はあるんだが段取りを踏もう。君達がホープタウンの人間だとしてどうしてあそこにいたんだ?」
「あの地域の調査目的だ。汚染区域から出た怪物が通行の妨げになってるから調査、あるいは討伐が目的だったんだ」
「成る程な・・・・・・で本題なんだが」
何を言いたいのか分かったので俺は正直に行った。
「ああ、助けて貰った礼ですけど周囲に転がっていた残骸は――特に武装勢力のもんとかは受け取って構いませんよ」
「おいおい気前いいな兄ちゃん」
ジュウヤは呆気に取られたような表情をした。
「その変わり、あのエビの部位を――討伐にしたって言う証拠が欲しいんで。後は好きにしてもらって構いません」
そう言うと何がおかしいのかジュウヤはガハハハと豪快に笑い声があげた。
「お前欲ってもんがないのか。だが筋は通ってる。いいぜ、その商談成立だ」
「ありがとうございます」
「ボウズはこの後どうするんだ?」
そう言われて悩む。
「うーん、このままホープタウンに帰ることも考えたんですけど、少しこのアナグラ見て回りたいと思ったりもするんですよね」
「つっても何にもねえぞ。そう言う娯楽方面はホープタウンがいいだろ」
「とか言う割にはゲームセンターのゲーム箇体やらDVDとか観ている人とかいましたけど」
ふとここに来るまでの短い道中で見た光景を言う。
「ああ、ありゃホープタウンに触発されたんだよ。あそこのやり方には色々と勉強させてもらってんだわ」
と言う事らしい。
「とにかくもうそろそろ日も落ちますし、無理に夜移動することもないのでアナグラにいようかなと思います」
「まあそれがいいわな。気前よくしてもらった礼だ。今日は飯と宿代はタダでいい。次からは金取るけどな」
そう言ってガハハハと笑う。
☆
結局、マヤとナナもアナグラに入ってきた。
二人とも物珍しそうに周囲を見ているし、アナグラの住民も珍しそうに俺達を観ている。(ちなみに俺はパワーローダーは脱いでいる)
ただしマヤは戦車で寝るつもりらしい。
そこら辺は個人の自由なので俺も無理強いしなかった。
「すごいね~」
何がどう凄く感じているのか分からないがナナは何時ものナナだった。
「マヤは初めてなのか?」
俺はナナは放置して周囲を興味深げに見回すマヤに尋ねる。
「ああ。アナグラの事は聞いた事あるけどな。来たのは初めてだ」
「どうして?」
「私が町の外に出始めたのもそんなに経ってないし外出目的は資材の回収とかもあるけど戦車の性能テストとかも兼ねてたんだ。それに思いっきり動かしたかったし」
「なるほどね」
マヤとの最初の出会いにはそう言う裏側があったのかと思った。
「しかしここ色んな物が集まってるな。定期的に通ってみるのも悪くないかもしれん」
「そいつはよかったな」
正直、マヤにはエビの化け物周辺に転がっていた武器弾薬や車両の残骸などアナグラの住民へ全譲渡を勝手に決めてヒヤヒヤしていたが「まあ仕方ないか」とため息ついてがどうにか納得してくれて負い目を感じていたが機嫌が戻って俺はホッとした。
「うん?」
ふと一人のアナグラの住民がよってきた。
俺と同い年ぐらいの少年だ。
「お前がカトウ ケイイチか?」
「その声は通信の?」
乱れた茶髪で目つきが悪く、ちょっと子供っぽい。
それで肌は色白。
ファンタジーRPGで言うなら盗賊の職業についてそうな人相だった。
声は聞き覚えがある。
確かアナグラに案内してくれた少年の声だ。
「ああ、俺はタカメ。呼び捨てでいい。ここで偵察とか通信班とか任されている」
「じゃあ俺もケイイチでいい」
軽くやり取りした後、タカメは「それで」と話を続ける。
「ウォーバイソンの連中と戦争しているってのは本当なんだな?」
念押しするようにタカメは尋ねてきた。
「今膠着状態で何時攻撃が再開されるかどうか分からない状況だ」
特に隠す必要性もないので俺は正直に話した。
マヤもうんうんと頷いている。
「俺達もそんな感じだ。他の場所もな。ウォーバイソンの最近の暴れ具合には目があまる。いっそフロンティアとでもつぶし合ってくれればいいんだけど」
「ウォーバイソンはともかくフロンティアも嫌われてるんだな・・・・・・」
色んな人の話を聞くと何だかフロンティアはウォーバイソンと同じかそれ以上に嫌われている印象がある。
入れ替わりにマヤが語り出す。
「実はホープタウンにフロンティアが何度か関わってきた事はあるんだけど、大体は厄介事さ。酷い時は町を平然と巻き込んでドンパチして何の詫びもなく立ち去っていって――それに私達を平然と野蛮人呼ばわりして・・・・・・正直言って好きになれないよ」
マヤの言葉でふとホープタウンの代表者、ハカセの言葉を思い出す。
――この世界の状況はある程度知ってると思うがフロンティアは論外だ。
と。
確かにマヤの言ってる事が本当ならば味方として頼るのは論外のように感じた。
「今フロンティアはレジスタンス相手に手一杯だからいいが・・・・・・どうなることやら」
「難しい話は終わった~?」
タカメの愚痴が終わったところでナナが話に入ってきた。
両手には何かの串焼きが俺達の人数分+1持っている。
「私難しい事は分からないけど、暗い事ばっかり考えてたらいざって時に頑張れないよ?」
俺は何故だか少し笑いが漏れてしまった。
「ケイイチ? なにか私おかしいこと言った?」
「いや、ナナの言う通りだと思ってな。たしかに暗いことばっかり考えてちゃなにも出来やしない。マヤもタカメ君もナナを見習おうぜ」
俺はナナの持っていた串焼きの一つを取る。
たぶんトカゲか何かの串焼きだろうな。
二人はポカーンとなったがマヤは「その通りだな」と復帰した。
「なあ、ナナって言ったか?」
タカメはナナに話しかける。
「ん? なに?」
「あの――その、なんだ? 悩みとかはあるのか?」
「あるよ。ケイイチのこととか、マヤのこととか、ホープタウンのこととか、ホープタウンの皆のこととか、アナグラの人達のこととか悩みはどんどん増えていくの。だけど私馬鹿だから、解決策は皆で協力して頑張ろうぐらいしか思いつかないの」
「あ、ああ・・・・・・」
「だけど頑張ることを無理して強制する事もまた身勝手なのかな~とか思ったりしてるの」
「・・・・・・お前何かやりたい事とかあるのか?」
「うーん、ホープタウンの人達と仲良くなれたし、今度はアナグラの人達と仲良くなりたいかな? その中にはタカメも含まれてるよ? それでねそれでね、もっと色んな人と――」
「もういい! 何か聞いてて恥ずかしくなる!」
タカメは顔を真っ赤にして降参する。
周りでは笑い声が上がっていた。
(やっぱりナナは凄いな・・・・・・)
ナナは何時ものナナでなんだかホッとなる。
マヤは「相変わらずだな」とコウモリと思われる生物の串焼きを食べていた。
こうしてアナグラでの夜は過ぎていくのであった。
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