アナグラ
汚染区域の怪物
Side 加藤 佳一
俺はパワーローダーを身に纏って探索していた。
ナナが便器に手足をくっつけたような~とか言っていたらしい「SA-5」ではなく人型に近いアメリカのSSー15。
フルフェイスのツインアイにガスマスクの様な口元。
全身をアーマーに包まれ、無骨なカッコ良さがある。
武器はレーザーライフルを所持している。近未来的で格好いい銃だ。
背中には武器を背負えるウェポンラックがあり、そこにロケット砲を搭載。
そして体の各部に大型ハンドガンやグレネード、対装甲目標用ブレードを搭載していた。
ナナはマヤの戦車内で待機しておりクロスボウを所持している。
そっちのがナナ向きだろうとマヤの判断だった。
(汚染区域か――)
汚染区域。
廃墟であり、広大な範囲に広がっており、見たこともない凶暴な生物がいるらしい。それだけでなく放射能と呼ばれる毒が蔓延しているとか。
と言うのがこの世界の住民の説明で恐らく核兵器の着弾場所周辺の意味だろう。
今回ギルドからは汚染区域から這い出た生物の調査、もしくは討伐を頼まれた。
理由は通行の妨げになっているからだとか。
『どんな怪物がいるのかな~?』
「クマとかイノシシとかは見たことあるけどな」
ナナの問いに二人旅していた頃の事を話す。
もう随分前のように思える。
『その程度で済めばいいんだけど――』
と、マヤが不安げに語る。
『巨大なアリとかクモとか出るのか?』
冗談で言ったがマヤに『ああ』と返された。
『希にホープタウンまで来たりする。昔から駆除してるんだけどな。それでも他の場所に住処を作られたりしてキリが無いってのが現状さ』
「何度も言うが俺達は本当に運が良かったんだな・・・・・・」
マヤに出会ってなければどうなっていたか分からない。
ウォーバイソンに殺されてるか、その汚染区域に勝手に突っ込んだりして死んでいたかもしれない。
笑えない話だ。
「指定されたポイントはここか・・・・・・」
『ああ。そこで間違いない』
「車やパワーローダーの残骸か・・・・・・ウォーバイソンか?」
まるで大地震でも起きたか、それとも爆撃にでも晒されたかのような周辺の建物荒れ具合も気になったが車やパワーローダーの残骸が目を引いた。
無駄に世紀末の悪党である事を自己主張しているようなカスタマイズの特徴からウォーバイソンを連想する。
『ウォーバイソン以外にも武装勢力はいるからそこは分からないけど気をつけた方がいい。ここの情報がけっこう有名になっているから色んな連中と鉢合わせするぞ』
「ああ。それよりも人の死体と言うか肉片が転がっててグロいんだが」
『そうだな・・・・・・何かいるのは確かだな。帰るか?』
「だな・・・・・・」
依頼内容からして無理して化け物を探し出す必要はない。
ここは「帰る」を選択した。
退くのも勇気だ。
『うん』
『どうしたマヤ?』
『センサーに反応――近くに何かいるぞ!』
『つっても周りにはバスしか――まてよ』
周りはスクラップだらけの中、ボロボロにも関わらずどうしてバスが綺麗に直立しているのだ?
それに前方の二つの車は不自然に傾いている。
よく見るとバスの周りも変な突起物があって不自然で――
「そう言う事か!!」
『え? え? どういうこと?』
ナナはどう言う事か分かってないらしい。
マヤは気づいたのか戦車を砲身を向けたまま後退をはじめる。
「件の化け物はバスに擬態していたんだ! 油断して気づいたところを襲撃してきたんだよ!」
そう言うとバスが浮き上がった。前に置いてあった二つの傾いていた車両も。
そして地面と同系色の足が分かり易く露わになる。かなり足が長く、昆虫のように複数ある。バスよりも高く、折れ曲がって地面についている。
バスの前の二つの車両は手に当たる部分なのだろう。
『ふ、二人とも凄いね。気がつかなかった!』
「ありがとうよ! 生き残れたら何か奢ってくれ!」
ナナの褒め言葉にそう返す。
今はとにかく生き残る事が優先だ。
敵は予想以上に大きい。
何の生物が中に入ってるんだ?
『ともかく一旦下がるぞ!』
「了解!」
マヤは全速力で後退しつつ戦車の主砲による射撃を行う。
当てるつもりは無くいのだろう。
相手は両手のスクラップの車で咄嗟にガードする。
その隙に俺はブーストでマヤの戦車の車体後部に乗り、マヤは全速力で逃げるが。
『このままじゃ追いつかれる!』
マヤの叫びに舌打ちを打つ。
確かに図体の割に想像以上に早い。
このままだと戦闘は避けられないし、最悪ホープタウンまでこの化け物を引き摺っていく形になる。
いや、そうなる前に、走破力が高い戦車とは言え、ただでさえ道路事情が最悪で障害物だらけのこの世界では追いつかれる。
俺もレーザーライフルで足を狙ったりして止めようとするが中々当たらない。
「やむおえんか・・・・・』
『おい、どうするつもりだ?』
「俺が囮になる。その隙に攻撃してくれ」
『ちょっと待て!?」
マヤの制止を振り切って俺は手短なビルの屋上に着地。
そして攻撃を開始した。
レーザーライフルをオートモードに変更して本体のバスに撃ちまくる。
鎧代わりのバスの車体は貫通しているが何事もない様子で化け物が此方に向く。
両手のスクラップになった車をビルに突き刺すようにしてよじ登ろうとする。
『あーもう!? 死んだら墓にバカ野郎って刻むからな!』
と、マヤが叫んで砲撃。
相手の側面、バスの車体に守られている部分に向けて発車した。
『まだ死なないのか!』
そう愚痴ってマヤが二発、三発と発射。
ようやくバスを身に纏った何かの生物が横転する。
まるで殺虫剤を吹きかけられた害虫のように足を気色悪く動かしながら態勢を立て直そうとするもマヤの激しい攻撃が続き、鎧代わりのバスや両腕のスクラップの車が剥ぎ取られていく。
「灰色のエビ!? どおりで堅いわけだ!!」
正体は灰色のエビだった。
海の生物が巨大化して突然変異してこんな陸地に生息するようになるとは。
この世界の生態系は狂っているらしい。
そんな事考えるよりも今は殺すことを考える。
(こいつかなりの攻撃を受けているな)
よく見れば体の彼方此方に傷がある。
恐らくこれまでの犠牲者が付けた傷だろう。
色々と思うところはあるが今はありがたく利用させてもらう。
『多少弱って動きが鈍くなってるが決定打が与えられない! どうする!? 撤退するか!?』
「そうだな、撤退――」
撤退を考えたその時だった。
どこからともなく人影が現れた。
ローブに黒いヘルメット、ガスマスクを付けている。
様々な銃器を手に持っていて一斉攻撃を開始した。普通の銃器もあればレーザーや重機関銃、ロケット砲もあった。
「敵か!?」
『俺達に抗戦意思はない。交渉したい』
「交渉?」
通信に割り込んで誰かが話し込んできた。
若い少年の声だ。
『俺達はアナグラの人間だ。お前達どこの人間だ?」
「ホープタウンだ・・・・・・ウォーバイソンとかじゃないのか?」
『あんなクズ連中と一緒にするな。そう言えば最近あいつらホープタウンを襲って逃げ帰ったって聞いたけど本当か?』
「ああ本当だ。俺も戦いに参加して相手のリーダーとチェンソーデスマッチやった」
『じゃあお前がデス・ホーンとタイマン張ったって言うパワーローダー乗りか!』
「まあな・・・・・・」
などと会話しているウチに巨大エビは死んでいた。
同じようなガスマスクにヘルメットとローブ姿の人間達が歓声をあげている。
マヤは『どうする?』と尋ねてくる。
『いいぞ、お前達も聞いてるな。アナグラに案内する』
「いいのか? お前達の本拠地だろ?」
そう言う位置情報はこの世界では自分達にとって命取りになるのではないかと思った。
『少なくともウォーバイソンの幹部と因縁ある奴が俺達を売るわきゃない』
「ああ――」
物凄くウォーバイソン嫌われてるなぁと思いつつ案内される事にした。
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