休日

 Side 加東 佳一


 俺とナナは二人きりでホープタウンを見て回っていた。

 どうして今のタイミングなのかと言えば理由は様々だ。


 ウォーバイソンの襲撃やその後の復旧のゴタゴタなどもあった。

 

 ナナの事とか、自分自身考えを纏めるために息抜きをしたかったのもある。


 ハカセに言われたり現実的な身の回りの事情をひっくるめて今後どうするか考えた結果、ナナが以前ギルドで言った言葉、「やりたいようにやる」と言う結論に至った。


 マーケットが開かれている運動場にも多少の流れた弾が来たようだがそれでも活気を取り戻している。

 武器屋や防具屋を見て回ると敵から剥ぎ取ったらしい物も置かれていてこのあたり世紀末だなと思ったりもした。


「ねえねえ。どうして一緒に見て回ってくれるの?」


「一人だと寂しいし、一緒に見て回りたかったら」


 と、正直に返した。ナナのメンタルケアも兼ねてと言うのは言わないでおく。

 正直はナナは勘が変に鋭いところがある。それに変に人の気を遣う部分がある。 「ありがとう」と笑顔で返してくれたがどう思っているかは分からない。

  

 まあそれはともかく先日マヤが頑張ってくれた(*前々話、「あれから」参照)ので自分も何かしたかったと思う気持ちもある。


「また色々と難しいこと考えてる?」


「まあな?」


「私のこと?」


「・・・・・・それは」


 あっさり見破られた。

 ちょっと気まずい雰囲気になる。


「背を低くして」


「?」


 俺は言われた通りに背を低くした。

 膝立ちになって、だいたいナナの頭と自分の頭が同じぐらいの高さになるぐらい。

 するとナナは俺のホッペにキスをした。


「なっ!?」


 俺は飛び上がって顔を真っ赤にした。

 周囲も何やらガヤガヤと騒がしい。

 ナナは何時もの明るい笑みで「これが私の気持ちだよ」と気持ちを伝えて俺に飛び込んできた。


「ちょっと周りに人がいるんですけど」


「元気出てきた? 私は幸せだよケイイチ」


「分かった分かった! 分かったから離れろ!」


 離れた心には拍手やら歓声やらが聞こえてきた。

 ふと住民が数名近付いてきた「これはサービスだよ」とプレゼントしてくれる。

 なんかこの町の住民ノリが良すぎないか?

 それともこの世界ではこれが普通なのか?


「んじゃあいこっか?」


「この状況で何処に?」


「私は映画館行きたい」


「映画館? あああそこか」


 割と大きめな二つのプレハブ小屋で上映されている。

 従業員のロボットに支払いを行って中に入る仕組みだ。

 上映スケジュールは管理されている。

 タイトルも電子ポスターと言う奴なのかPCで作中のシーンやDVDメニューのトップ画面を切り出すか、画像編集ソフトなどで加工して表示しているようだった。


 あと何故かコーラとポップコーンを販売していた。

 この世界コーラとポップコーン製造出来るんかいとか思った。


 娯楽が少ないのかこの世界では何時も人集りが出来ているが町の人口や仕事の時間帯などの都合で空き席は何時もある。

 マヤによればウォーバイソンの活動が活発化する前は態々これのためにホープタウンへ足を運ぶ人も出ていたようであり、最盛期は一種の経済特需を引き起こしていたらしい。今は他の町でも同じく映画館を運営しているので落ち着いているのだとか。

 

 まあこの話の根っこの部分に俺と同じ世界の住民が関わっているんだろうが、分かったところでどうなの? と思ったので考えてるはやめた。

 

「やはり劇場数が限られているから上映タイトルも限られているんだな」


「そうだね」


 この時代で二つも確保出来るのは大したものだ。

 ざっくんばらに子供向け、大人向けと言う感じで棲み分けしている感じだ。

 夜になると二つの部屋を借りて大人向けの作品が上映されるように工夫されている。


「ああ君達は――」


 ふとここでスーツ姿で初老の髭を生やした眼鏡をかけた黒髪の男性が現れて駆け寄ってきた。


「あなたは?」


「ああ、私はこの映画館の支配人を勤めさせて頂いてます。キネと申します」


「ああどうも」


 キネさんの丁寧な挨拶に俺は呆気にとられた。


「先日のご活躍は聞いております。そちらにいるナナさんも。それと拾い集めた映像媒体のディスクも数多く提供させて頂いて相応の値段で買い取らせて頂きました」


 その話を聞いて俺はナナに目を向ける。


「ナナ。もしかして俺より金持ってる?」


「かもしんない」


 なんかこう男の尊厳的な物が傷ついた気もするがそれは嫉妬とかそう言う類いのもんだろう。

 深く考えないようにした。


「礼としては何ですが今回は一講演だけ、無料で案内させて頂きます」


「あ、ああ」


「ほんと!? 凄いね!?」  

 

 との事らしい。

 とは言う物の何が良いのやら迷う。


「ねえねえアレ観たい」


「ああこれか――」


 ふとこの町に辿り着く前に買い物したガテン系のオジさんを思い出す。(*「ショッピング」参照)

 あの人は元気にしているだろうか。


 ナナはライダー系のヒーローが好きなのかそれが観たいようだ。


「まあ俺も観たかったし、それでいいか」


 俺も特に不満は無かったので一緒に観ることにした。

 キネさんは笑みを浮かべて案内してくれた。

 暗く狭い部屋の中に何処から調達してきたのか綺麗な座席が並べられている。

 やはりと言うか子連れの人達が多かった。


 観客席の真ん中に円盤を読み込む機器と接続されたプロジェクターが置かれ、白い大きなシートの物体であるスクリーンに映し出す構造らしい。


 上映する前に最初、ロボットからどう言う作品の内容なのかを説明した後にDVDのメニュー画面が開かれ、そしてそこから再生ボタンがクリックされる。


 そして物語が始まる。

 

 ぶっちゃけ作品を楽しむより俺はナナの反応を観て楽しんでいた感があった。


 ナナは子供の反応と見事に連動して概ね一緒に大はしゃぎしていた。



「凄いね! パワーローダーもあんな風に変身して装着できたら格好いいのに!」


「ああ、そうだな」


 見終わった後、ナナはそんな事を言っていた。

 もしもこの世界が今みたいにこうならずに科学技術が発展していってたら本当にそうなってそうで怖い。


「お腹減ったね」


「ああそうだな――」


 食事はこの世界の最大の娯楽の一つだ。

 だが贅沢は出来ない。

 マヤが以前、野菜スープが贅沢な部類の食事だとか言っていた。(*過去の話、「ホープタウン」参照)

 

 あれは嘘ではない。

 他にも元の世界にあった美味しい物はあるが、外食と同じで割高に設定されているからだ。都会暮らしは楽ではないと言うがこの世界でも同じらしい。

 

「マヤには悪いけど、何か飯でも食うか?」


 元の世界では絶滅危惧種と言うか本当に存在するのこれ? みたいな屋台でうどん屋が開かれていたり、たこ焼き屋があったりした。

 復興作業の手伝いをしている時にそれ達の食事を食べた事があるが美味しかったが、あの時は味を楽しむ雰囲気ではなかった。


「なんて読むのアレ?」


「たこ焼き屋か・・・・・・お持ち帰りできるっぽいし、あそこにしようか」


 そして焼きソバ屋に足を運ぶ。



 マヤに立ち寄ってソバをプレゼントすると「これ食べていいのか!?」とメチャクチャ喜んでくれた。

 何かチョロくて心配になってくる。 


 彼女は現在、工場に引き籠もって戦車の修理中らしい。

 それと俺のパワーローダーの整備もしてくれているそうだ。

 本当に頭が下がる思いである。


「せっかくのデート楽しみなよ」


「・・・・・・いい女だよ、君は」


「おだてても何も出ないよ」


 などと恥ずかしいやり取りをして俺とナナは再び町に繰り出していた。


「ねえねえ。私あそこいきたい」


「ゲーセンまであんのかこの町」


 プレハブ小屋のゲーセンがあった。

 この世界独自か、はたまた元の世界の物なのか色々なゲーセンの筐体がある。

 また創始者絡みなんだろうあと思いつつ足を踏み入れた。


「パンチングマシーンにユーフォーキャッチャー、ガンシューティングにレーシングゲームに昔馴染みの奴まで――色々あるな」


 とにかく雑多に色々な物が配置されていた。

 ご丁寧にコインの両替所まである。

 1プレイ一円の料金設定だ。この世界の物価を考えれば妥当の料金設定である。


「やっぱりケイイチ物知りだね」


「ああ、うん」


 本当に色々ある。何か奥の方にはバッティングセンターまであった。

 

「ロザリーさん?」


「ああ、ボウヤにナナか。調子は戻ったのかい?」


 ロザリーがいた。

 ゲーセンで何やらアメコミ風のキャラクターを操作して戦う2D格ゲーをプレイしていた。

 周りにはギルドで出会ったロザリーの取り巻きがいる。

 

「皆がいてくれたから戻れたよ」


「ああ、俺もそんな感じですね」


 ナナの恥ずかしさと嬉しさを感じる台詞に俺は恥ずかしくなりながら肯定した。


「はは。やっぱ面白いねアンタら――」


「自分もロザリーさんがゲーセンにいるとは思わなかったですけど」


「私がゲーセンにいちゃおかしいのかい? この町、この手の娯楽が充実してるから離れられないんだよ、わたしゃ」


「そですか」


 会話を打ち切って何をプレイするか迷った。

 ナナは不思議そうに周りを見ている。

 こう言う場所は初めてなのだろう。


「試しにゲームやろうか――二人で協力プレイ出来る奴がいいな」


「じゃあ、アレがいい」


「うん? パワーローダーを操作して戦う奴か・・・・・・」


 大型の箇体が四つ並んでいるのが目に入った。


 どうやらコストを消費して最大四人で対戦する奴らしい。

 しかもFPS視点で操作する類いのものらしい。

 操作方法は二つのスティックを使用してなんだかパワードスーツを動かしていると言うよりロボットを動かすゲームのようだった。

 何か後ろ暗い何かを感じるが気にしないでおこう。


 ご丁寧に箇体の側に置かれたテーブルには使用できる機体とか色々と書かれた部集めのファイルが置かれていた。


「少し操作が複雑だな――あ、俺が着てた奴もある」


「本当だね~」

 

 などと俺とナナはファイルに目を通す。

 とにかくミッションモードの協力プレイ、コイン制限付きで進めることにした。


 俺は色々と仕様は違うがSA-5。

 ナナは日本製の06式と言う機種らしい。

 

 敵は当時の東側連中が中心で(ああこれ、そう言う用途のゲームだったんだな)とか思いつつ俺はゲームを進めた。

 久しぶりのゲームはやはり楽しい。

 ナナにアドバイスしたり、援護しながら戦いを進めていく感じだ。


 なんやかんやでロザリーも入ってくる。


「ボウヤ、これ初めてプレイするのかい?」


 何故だか驚いているような様子だった。


「ええ。まあ――本物とは違ってこっちは色々と楽ですね」


 あの地獄を生き抜き、チェーンソーデスマッチまでやった後だから言える台詞だ。

 それを言うと何故かロザリーさんは「言えるようになったね」と何か勘違いして取り巻き達と一緒に観戦モードに入っている。

 

 その場に居合わせた他の人々混じり、やがて――



「で? どうしてこんな騒ぎになってるの?」


「さあ?」


 マヤの意見は俺の気持ちを見事に代弁していた。


 ゲーセンのパワーローダーのゲームで色々と頑張っていたら何時の間にか人集りが出来て、盛り上がって、んで最終的にロザリーさんの仕切りにより、夜のホープタウンの広場借りてテーブルやらピクニックシートやら広げて飲み会状態になっていた。


 どうしてこうなった。


 俺とマヤは机を挟んで椅子に座って周囲の様子を眺めていた。


「ケイイチ凄かったね~」


「俺もあそこまで上手くいくとは思わなかった」


 コインの提供もあってどうにかストーリーモード全クリ出来た。

 その後は対戦組み手状態でもう何戦したかは分からない。

 暫くゲーセンには寄らないでおこうと思った。


「休日はどうだった?」


「ま、楽しかったな」

 

 他の人達にあれこれ話しかけられて嬉しそうにしているナナを観て俺は言った。

 マヤは「そっか」と返してくれた。


「二人とも何をしているの? 一緒にいこ?」


 マヤは「え、ちょ」と驚き、俺も「ちょ、まっ――」となり、ナナに引っ張られて人の集まりに放り込まれていった。


 その後の事はよく覚えてない。


 気がついたらマヤの家で疲れ果ててもう一日休日をとるハメになった。


 何のための休日だったのだろうか分からんが、まあこれでよかったのだろう。

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