ハカセ
Side 加東 佳一
*このお話は前回のお話、「あれから」と同時進行でのお話です。
あの過酷な戦後処理。
正直俺も何度か吐いたりして――ナナが心配だったがマヤが「ナナの事は私に任せてくれないか? それに二人きりで話したいこともあるし」と言っていたので俺はマヤに任せた。
外は雨であり、貴重な水の補給タイミングなので皆先日の戦いの事を忘れる勢いで水を貯められる物で出来うるかぎり貯めている。この世界の水の貴重さが再認識させられる光景だ。
自分もそれに参加したい気持ちもあるがウォーバイソンの連中が埋葬された場所にいるナナの様子を考えるとそんな気にはなれなかった。
話は変わり少し校舎を使える人間は限られている。
ホープタウンの代表者や重要な部署に携わる人間、許可を得た人間などだ。
俺はホープタウンの代表者であるハカセと対面した。
最初、白衣を身に纏った知的な男性を想像していた。
だがどちらかと言うと実業家やビジネスマンに近く、黒
いスーツにネクタイを着ている。
腕時計や靴もこの世界基準で見れば綺麗だ。(逆に言えば汚いと言う)
それが校長室の真ん中に置かれた膝丈サイズのテーブルと二人分のソファーにお互い座り、対面していた。
「まずお礼を申し上げたい。このホープタウンを守ってくれてありがとう。それだけでなくウォーバイソンの幹部を撃退するのに大きく貢献してくれたのには耳は届いている」
「ええ、まあ、その――成り行きと言うか」
手放しで褒められてどう言うべきか迷った。
「この戦いに参加してくれた全員で出来うる限りの報酬をしている。武器弾薬の補充から戦車やパワーローダーの修理とかね。君にもパワーローダーを一台譲ろうと思う」
「いいんですかそこまでして? ここの苦境は――」
「マヤから聞いてるんだろ? こう言う時のためにこの町は色々と備蓄をしているんだ。今がその時だからね」
「は、はあ――」
完全に相手の交渉ペースだ。
ちょっと居心地の悪さを感じる。
「で、本題に入ろう。君はもしかして――21世紀の日本から来たんじゃないのか?」
その言葉を聞いて俺は耳を疑った。
ハカセと名乗る人物から出た21世紀の日本と言う単語。
どう言う事だろうか?
俺の反応を見て「やはりか」と呟きこう続けた。
「念のため総理大臣やこの世界に来るまで日本で起きたことを話して欲しい。何でも構わない」
と言ったので俺は出来うる限り話した。
少々不用心だったかもしれないが。
それでも話さずにはいられなかった。
「どうやら君と僕は同じ日本の住民らしい――少なくともこの世界の有り様やトチ狂った科学技術を見たりして驚いたりもしたワケだ。嘗ての僕と同じようにね」
「確かに自分もそうでしたけど」
「ああ興奮してすまない。僕の名前は笹木 賢治。まあこれまで通りハカセでいいよ。もうそれで呼び慣れちゃったからね」
「そ、そうですか――」
正直何を話せば良いのか分からない。
頭がこんがらがってきた。
「元々は科学者じゃなくてただのサラリーマンだったんだ。本当に運が良かった。色々な雑学やサラリーマン時代の経験が役にたって――何時の間にかこうして最高責任者を引き継いだのさ」
「もしかしてギルドも俺達と同じ世界の――」
「その通り。僕達と同じ世界の人間がこの町を作ったようなんだよ」
「成る程――」
「僕も気がつけばこの世界にと言うパターンだったからね。彼もそうだった。一時期は彼も帰還の方法を探そうとしたけど生きるのに精一杯だったんだ。やがて帰還を諦めてこの町を作った。僕達はまだ恵まれている方だよ」
「そう――ですね――」
外の世界を見てきた自分からすればこの世界に安全地帯を作って骨を埋めると言う選択は正しいように思えた。
どっかのWEB小説の主人公みたいにチートを持って剣と魔法の世界に召喚されたワケじゃないのだから。
「それに彼も僕達とそう変わらない時代の人間だった――」
「え? それってどう言う」
「ここに飛ばされる前の時間にズレが生じているんだ。彼は嫁さんを見つけて子供が出来て孫も産まれた。僕も嫁さんに恵まれてね」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
結婚。
正直まだ学生だった頃が抜け切れていない子供の俺には想像だに出来ない世界だ。
そう言えばハカセの手に指輪がある。つまりそう言う事なのだろう。
「さて、本当はもっと世間話したいんだけど時間は有限だ。もう一つの話をしよう」
「もう一つ?」
「ああ。前回の襲撃でウォーバイソンは大打撃を受けて暫く身動きは取れないだろうが、このままだとまた攻めてくるのも時間の問題だ。だからと言って此方から仕掛けるのも自殺行為だ――ウォーバイソン以外にも問題は山積みではあるが、奴達をどうにかしないと何も出来やしないと言うのが現状だ」
やはりウォーバイソンは悩みの種になっているらしいと思いつつ「打開策は?」と尋ねる。
「援軍しかない」
俺はやはりかと思った。
ハカセは「だけど――」と言って話を続ける。
「この世界の状況はある程度知ってると思うがフロンティアは論外だ。シェルターはまだ信頼出来るが戦力としては頼りない。必然的に他の場所に援軍を頼む事になるだろう」
「他の町――どんな町が?」
「海の方には軍港に住まう軍艦街、ドームを居住地にしているコロッセウム、自衛隊か米軍かどちらか分からないが基地を居住地にしているアーミーズシティ――と大きい場所はこんな感じで様々な場所に中から小規模の居住地がある」
「その場所に出向いて援軍を?」
「直接出向かなくて交流や交通の傷害を妨げている厄介事を排除してくれるだけでも大助かりさ。まあその厄介事も一筋縄じゃいかないいんだけど」
「ふむ――」
「ああ、愚痴るように君に話したけど命は一つだ。この話はよく考えて、相談できる相手には相談してよく決めてくれ。次に対面する時は死体でなんて僕としてもイヤだからね」
まるで自分の考えを見透かしたかのようにハカセは言った。
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