激突

 Side 加東 佳一

 

 グリーンカラーのパワーローダー、アメリカ製のSAー5。


 ナナが言っていたように洋式便器な外観に手足とブースターくっつけたような外観だ。頭の上には銃器がついており、両肩には盾がついている。

 

 ただ軍用でこの世界でも軍事大国だったのかどうかは知らないがアメリカ製の兵器であるせいか素人の自分が乗っていても多大な戦果を上げている。


 手に持ったパワーローダー様の特殊ライフルも中々性能が良い。それを両手で構えて戦車と一括りされている民間車両を改造した車両を最優先で吹き飛ばす。

 中の人間はどうなっているのかなど考えないようにしていた。

 

 生身の人間は頭の銃火器で払いのけるようにして弾をばらまいた。

 そうこうしているウチに他の様々なパワーローダーや戦車、町の守備隊にギルドで見掛けた人々などが態勢を立て直して反撃に転じている。


『調子づいてるんじゃねえぞオラ!! デス・ホーン様のお通りだ!!』


(うわぁ・・・・・・世紀末の悪党のイメージ図まんまだ・・・・・・)


 デス・ホーンと名乗る男は大きなバギーのような乗り物に乗っていた。

 運転は部下に任せてデス・ホーンは後部の座席に居座っている。

 茶色いパワーローダーと言うより二本角の横長のスリットが縦に三つ入ったヘルムを被る、ファンタジーRPGに出てくる戦士然とした出で立ちだった。

 ただし両腕にもっているのは剣や斧ではなく、大きなチェーンソーだった。


『気をつけろ!! アレは対装甲目標用のチェンソーだ!! パワーローダーが食らえば一溜まりもないぞ!!』


「ア、ハイ」


 マヤの言葉に内心で(見れば分かります)と思いながら顔を青冷めさせた。 

 確かに切れ味は本物で一瞬で戦車やパワーローダーをバギーで近付かせては真っ二つにしている。


 バギーやデス・ホーンの身に纏うパワーローダーの装甲は他の連中と比べて特注のようであり、攻撃をものともせず防御力に任せて近づき切り裂いていく。


 さらにはバギーにも武器があり、銃火器や火炎放射器、ロケット砲なども搭載してそれを景気よく使い暴れ回っていた。


「また敵が勢いづいてきた! てか敵何人いるんだ!?」


 またしても戦況が不利になっていく。

 このままでは押し切られる。


『またせたねボウヤたち!』


 ここで金髪のウエスタンルックの美女、ロザリーが現れた。

 武装を施した赤いカウルにサイドカーがついたバイクに跨がり、手には大きなライフルを持っている。対物ライフルだろうか?

 バイクも運転に支障が出ない範囲でかなり武装をしている。こんな荒廃した世界で一体どんな超技術で取り付けているのだろうか。

 片手で華麗にバイクを動かし、バイクに搭載された銃器を放つ。


「って光線!?」


 ロザリーが操るバイクのサイドカーに搭載された光線銃が放たれて驚いているウチに敵の戦車が一台爆発した。

 そしてバイクを滑らせ更には車体の機関銃、サイドカーの光線銃、後部のミサイルポッド、手に持った対物ライフルが火を噴き、一気に戦況を逆転させる。


『テメェが紅のロザリーか!? なんでこんなチンケな町に肩入れしてんだ!?』


「はん! タマ無し野郎どもの親玉に人の生き方をどうこう指図されたかないね! それよりも別働隊の連中は尻尾巻いて逃げてったよ!」


『あの役立たずどもが!』


「アンタもその役立たずになりな!!」


 そう言ってロザリーは仲間達の車両やパワーローダーと一緒に攻撃を開始した。

 俺もマヤが乗った戦車も、他の面々も攻撃を再開する。

 金がメチャクチャかかってるアクション映画のラストバルの中に飛び込んだようなカオスな状況だ。


『テメェからやってやんよこのクソアマァ!!』


 デス・ホーンが勝負を仕掛ける。

 バギーをロザリーの方へと突っ込ませた。


『させない!!』


『ぐぉ!?』


 しかしそこへマヤの戦車が横から体当たりする。

 バギーは派手に横転しデス・ホーンは空中に一旦逃れて地面に着地した。


『そんなに死にたきゃテメェからやってやらぁ!』


「まずい!」


 マヤの方にデス・ホーンが向かう。

 俺は咄嗟にSAー5を突っ込ませた。

 もうなるようになれだ。

 運悪く頭の銃器も手に持った銃も弾切れ。

 ヘッドバットする形でデス・ホーンに組み付いた。


『テメェ!!』


 相手の怒りの怒声が耳元まで届くがそれよりも相手が両手に持ったチェーンソーが恐かった。

 これで何人も既に殺されているのを目にしている。

 だからと言ってここまで来たら引くわけにもいかず――てか背中を見せたら逆に殺される。


『グフォ!?』


 なので殴る。

 殴って殴って殴りまくる。


『調子にのんな!!』


 そう言ってデスホーンは背中のブースターを作動させて立ち上がった。 

 俺もブースターを作動させる。

 互いにブースターをフル稼働させての組合い状態になる。

 

『ケイイチ! そいつから離れろ』


 マヤの指示に俺は「無茶言うな!!」と返した。


「今下手に距離を離すとあのチェーンソーの餌食だ!」


『ならこうすれば!!』


「ちょっとマヤさん。なにするつもりで――」


『ケイイチ頑張って!!』


「ナナも何を言って」


 そうすると組み合っている相手の背後からマヤの戦車が全速力で迫り来る。


「お前らバカじゃねえの!?」


 俺はどうしていいか分からず、デス・ホーンのパワーローダーを盾にするようにして轢き飛ばされた。


 俺はゴロゴロと転がる。


「ああクソ・・・・・・生きてる・・・・・・この世界に来てから最高に狂ってるぜ」


 まさか敵もろとも味方の戦車に轢き飛ばされるとは思わなかった。

 これで盾になった流石のデス・ホーンも――


「まだ生きてるのかよ」


『クソが・・・・・・ぶっ殺してやる!!』


 勢いよくデス・ホーンは立ち上がる。

 たぶん中身の人間は過酷な環境下で遺伝子レベルで突然変異を起こしているに違いない。

 チェーンソーを片手に此方に狙いを定める。


 ふと運良く近くにチェーンソーを見つけた。

 それを拾い上げる。

 片手で使えるようにカスタマイズしているらしく、使い方は簡単だった。


『死ねぇ!!』


 俺は泣きそうになった。

 まさかのチェーンソーデスマッチである。

 心なしか敵味方一緒に盛り上がっている気がした。

 

『便器みたいなダサい格好のわりにシツコいんだよ!! 俺のチェーンソー返せ!!


「しらねえよ!! 俺だって好きでこの格好の奴選んだんじゃねえんだよ! 後今返したらぶっ殺すだろお前!?」


 などと自分でもなんで律儀にツッコミを入れているのか分からなかった。

 

(もうどうにでもなれ!!)


 俺も相手もパワーローダーの力任せに――俺は身を守るため、相手はただ殺すためにチェーンソーを振り回す。

 激突するたびに激しい金属同士が削れ合う音と火花が散り、車両やパワーローダーを巻き込んで両断されていく。

 

(クソ! 相手の機体、予想以上にパワーがある!)


 やがて鍔迫り合い――チェンソーをぶつけ合っての力比べの形になる。

 状況はパワーで押し負けて機体の表面が自分が持ったチェーンソーでガリガリと削られていく。相手のパワーローダーの方が出力は上のようだ。

 

(だからと言って退くわけには――いや、待てよ? ひく? 引く――この手に賭けるか!)


 俺は腹を決める。

 他の手を考えている時間はない。

 ブーストをさらに噴かし、機体を押し込む。


『はははヤケでも起こしたか!? ああ!?』


 そう言って相手ももっとブーストを強める。

 より俺の機体にチェーンソーの刃が食い込み、機体にアラームが鳴り響く。


『ケイイチ!!』


 マヤの声が。


『ケイイチ! 死んじゃだめ!』


 ナナの声が。

 響いた。


「こんな世界だし、何時かなんだかんだで死ぬだろうとか思ってたんだけどな」


『何だ? こいつ――』


「まだ死ねない!!」


 俺はブースターをカット。


『なっ!?』


 ブーストーを噴かせたままの相手は前のめりの隙だらけの態勢になる。

 チェーンソーを真横に滑らせるようにして相手を地面に叩き付ける。


 そして――


『クソ!! 覚えてろよ!! テメェら撤収だ撤収!!』


 相手の角を一つチェーンソーでへし折っただけで終わった。

 同時にデス・ホーンも敵も撤収していく。


「終わったのか――」


 真横にロザリーが来る。

 悲しみの顔だった。


「ああ、終わったんだよ。ボウヤ――周りをみな――」


 そう言われて周りを見る。

 爆発炎上した戦車。

 死体が詰まってるだろうパワーローダーの残骸。

 そして死体。

 焼け焦げた惨劇の後。


 とても勝利とは言い難い。


「ナナにも言うけど、色々と思う事はあるだろうが――皆、精一杯戦った結果だ。卑下するな、誇りな。それ以外は死んでいった奴の侮辱になる。私が言えるのはそれだけだよ」


 そう言い残してロザリーは「さあ、これから忙しくなるねぇ」とだけ言い残してバイクで去って行く。

 他の仲間達も同様だ。


「卑下するな、誇れ・・・・・・か・・・・・・」


 短くて、不器用で、そして色々と考えさせられる言葉だ。

 

(そうだ。その通りだ。自分はどっかのマンガの主人公でも特別な力を持ってるわけじゃないんだ。皆精一杯戦って死んでいったんだ・・・・・・)


 それを今直ぐ納得できるかどうかは分からない。

 けど確かにロザリーの言うことが正しいのだろう。

 

(とにもかくも――体の全身が痛い。機体状況も最悪じゃねえか・・・・・・貸してくれたオヤジさんに何て言われるか・・・・・・)


 などと苦笑しつつ、俺は体を引き摺りながら視界を此方に向かってくるマヤとナナに向けた。

 特にナナは涙を流している。


 ロザリーが言うように問題は山積みだったり、言われた通りにすぐに気持ちを切り替えられないが――今は――


「今は喜ぶか・・・・・・俺は生きてるんだ」


 そう呟き、俺はSAー5から出てナナを迎える準備をした。 

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