ギルドのロザリーとナナ

 Side 加東 佳一


「ナナ?」


「そう、私は名無しからナナになったのだ♪」


「俺の苦労はなんだったんだ・・・・・・」


 と、軽く朝飯――ネズミのローストを食べてそう応えた。

 狭いテーブルの上には少ないながら雑多な食料や水が置かれている。

 この世界は基本、腹八分目ぐらいが目安で多少空腹感が残る状態が普通だ。日本とは違う。


 それはそうと名前だ。

 元名無しの少女ことナナの名前。

 実はと言うとナナと言う名前は脳内で候補にあったが、(安直すぎないかこれ?)で没にしたのだ。


 だから複雑な気持ちだった。


「食事が済んだらギルドにいくぞ」


「ギルド?」


 家主のマヤが今居る世界観に見合わぬ単語を言い放つ。


「まあ仕事の斡旋所みたいな場所だよ。このホープタウン作った創始者様が作った施設さ」


「中々便利そうな場所だね~」


 ナナが俺の気持ちを代弁するがマヤは「そう言う程でもないよ」と返す。


「どちらかって言うと同業者と交渉する場でもあるのさ。まあそこら辺は案内しながら話すよ」



 元運動場。

 校舎近辺は住宅街になっていて、ゲート周辺はマーケットになっており、各店ごとに武器や防具や食料に日用品などが置いてある。

 人だけでなくロボットが治安維持していたりとかパワーローダーらしきパワードスーツで荷物の運搬していたり、場所によっては映画を上映して金を取っている場所もあるようだ。


「わー広くて人が多いね~」


 ギルドは学校の元体育館らしき場所が使われていた。

 ナナの言う通り、そこには様々な種類の荒くれ者達が集まっていて雑多な種類のテーブルや椅子、ソファーを並べてあれこれ談笑している。


(元は体育館だけどみんな土足で入ってるから汚れ放題だな)


 などと俺は見当違いな感想を抱きつつふと女性のグループに目をやる。

 容姿は綺麗揃いだが全員が近寄り難い雰囲気を身に纏っていた。

 全員平然と銃を見せびらかすように持っている。


「ああでもしないと女は男に舐められるんだよ」


 俺の視線に気づいたのかマヤは耳打ちしてきた。

 俺は「成る程」と返した。


「仕事を受けるには全体的にはどう言う流れなんだ?」


 ファンタジー物の定番では仕事を選んで、ギルドの職員さんに仕事を~と言うのが定番だ。


「まあな。ボードにある張り紙を見て仕事を選ぶ感じだ。受けた依頼はロボットやホープタウンの管理者が記録し、依頼を達成したら後日ホープタウンからコインが支払われる」


 視線を追うと大きなマジックボードが並べられ、そこに色々な張り紙が張られていた。何やら相談している一団がいたり、張り紙を張っている職員らしき人物もいる。

 心の中で俺は「お約束だな」と思った。


「問題は依頼の達成だな」


「そういやどうやって確認するんだ?」


「難しいところで大体これが原因で揉め事が起きるんだ。最悪殺し合いに発展する」


「なんか働くって恐いんだね~」


 ナナの意見に俺も「まったくだ」と同意した。


「とにかく自分は依頼を達成しましたって言う証拠を提示しなければならない」


 ナナは「例えば~?」と尋ねてくる。


「懸賞金が懸けられた賞金首を殺した場合、殺した証――まあ遺体をここに持ち運べば確実かな。持ち運ぶのが面倒なら生首でも構わない」


「・・・・・・マヤ、仕事するのって恐いんだね」


 ナナがドン引きしていた。 

 俺も色々と恐くなってきた。


「気持ちは分からないがそんぐらいやらないといけないってことだ。後でいちゃもん付けられたりする可能性もあるからな」


 マヤの言葉を聞いて「まあ、それが普通なんだろな・・・・・・」と俺はちょっと頭を抱えてしまう。


 この世界ではそれが普通なんだろう。

 ファンタジーな単語を聞いてちょっと夢を見てしまったのかもしれない。

 俺は気を引き締め直した。


「なんだいマヤ。新顔と組むのか?」


「ロザリー姉さん――」


 ふとウェスタンハットにジャケットにマント、あと胸の谷間丸出し。

 セミロングの金髪で瞳も青い、綺麗なお姉さんがいた。

 手持ちの武器はショットガン、腰のホルスターにリボルバー拳銃。

 たぶん本物だろう。

 体全身で西部開拓時代の女ガンマンを主張しているような女性だ。

 それでいて魅力的かつ危険な雰囲気を漂わせている。

 この世界の住民が持つ、日本のコスプレイヤーが決して身に纏えない独特の空気を放出していた。


「ふーん、外から来ただけあってただのボウヤじゃなさそうだね。私はロザリー。ここの纏め役押しつけられてんのさ」


「ど、どうもケイイチです」


「私はナナだよ。凄い格好だねお姉さん」


「こ、こらナナ!」


 ナナが俺の本音を変わりに暴露していたが「ありがとう」とロザリーと言う女性は笑みで返してくれた。 

 

「マヤとロザリーさんは知り合いなのか?」


「知り合いも何も、有名人だよ。ホープタウン出身のギルド使用者は必ずロザリーさんに挨拶するのがしきたりなんだ」


「まあそんなしきたり作った覚えなんてないんだけどね」


 ロザリーさんは大げさに両腕をL時にして手のひらを外側にして否定のポーズを撮った。


「マヤはね。このホープタウンをよくしたいと思って頑張ってる最中なの。だから私も協力したいの」


「こ、こらナナ!!」

 

「へえ~」


 唐突にナナはそんな事をロザリーに暴露する。


 昨日、自分が寝た後にナナはマヤとどう言うやり取りをしたのか知らないが仲良くなったらしい。

 マヤは顔を真っ赤にし、ロザリーさんは「相変わらず夢見てんだねぇマヤ」とクスクスと笑う。


「まあ確かに私もこの町は気に入ってるさ。だけど四方八方敵だらけで打開するのは言うほど簡単じゃないよ」


「ならロザリーさんも協力してよ」


 ナナは即答した。

 ロザリーも周りもシーンと静まりかえったがロザリーが真っ先に立ち直った。


「ははは! 度胸が据わってるじゃないか! 見掛けによらず大したタマじゃないか!」


 などと一人笑い声をあげていた。


「だけど、はいそうですかってロザリー姉さんは手を貸すわけにはいかない。だからアドバイスをやるよ」


「なに? 聞かせて?」


 そう言ってロザリーさんは膝立ちになり、ナナと同じ視線まで体と顔を下げる。


「簡単だ。口では何とでも言える。口先だけの奴は信頼されない。だから証をたてるんだ。そうすりゃ人はついてくる。だけどいくら証を立ててもついてこない奴はタマ無しだと斬り捨てるのも必要さ」


「うーん難しくてよくわかんないけど私はケイイチと一緒に居たくてマヤもロザリー姉さんを助けたいだけだから――」


 そう言われてロザリーさんは笑いを堪える。

 見ているこっちは何故だかヒヤヒヤもんのやり取りだ。


「おっかしい。私メスゴリラとかクソビッチとか死んでも死なない女とか色々言われてんのに助けるだって?」


「えー助けて欲しくないの?」


「利用して利用されてポイされるかもしれないのにか?」


「あ~それもそうだね~どうしよ、ケイイチ?」


「このタイミングに俺にふるか!?」


 思わず大声でツッコミを入れてしまった。


「ボウヤはどうなんだい?」


「・・・・・・分かんないです。遂先日まで明日の生活どころか今日の生活でも精一杯です。このホープタウンに来てもまだそんな感覚なんです。自分にこの町を救えるとは思えないけど――」


 そう言ってナナは俺の手を掴んだ。

 何時になく真剣な瞳で俺を見詰める。


「ケイイチはケイイチのやりたい事をやって。私は私のやりたいことを。マヤはマヤのやりたい事をロザリーさんはロザリーさんのやりたい事を精一杯すればきっとこの町はよくなるよ」

 

「ナナ・・・・・・」


 俺は上手く言葉が出なかった。

 マヤもそうだった。

 言わんとしていることは分かる。夢想論だと言うのも。色々な前提条件があるのも分かる。

 それでもなぜかナナの言うことを否定出来なかった。

 

 そして肝心のロザリーさんはと言うと――


「私を笑い殺しにするつもりかい? この子、天性の人たらしだよ。負けた負けた。完敗だ。たぶんこの子には一生勝てないわ」


「私ロザリーさんと戦ってないよ?」


 と、ナナは不思議そうに首を捻る。


「何時か分かる日が来るさ――長々と邪魔したね。マヤもボウヤもその子を大切にしなよ・・・・・・っと、名前はナナで良かったね? 覚えとくよその名」


 そう言ってロザリーさんはその場から立ち去った。

 だからと言って仕事選びを再開する度胸はなかった。

 とにかく周りの視線が凄い。

 マヤも同じように感じ取ったのか小声で「この場を離れるぞ」と言って俺はナナの手を引き、いったんギルドから出ることにした。



「何か凄い人だったね」

 

 ギルドから離れ、ホープタウン内から人影が少ない場所に移動する。

 そこで俺とマヤはゼイゼイと息を切らした。


「なあケイイチ・・・・・・なんつーか、これまでのお前の苦労分かった気がするよ」


「そいつは大助かりだよ」


 俺とマヤは――理由はアレだが心の距離が縮まった気がした。


「ロザリーさん凄い人だったね」


「「お前が言うか」」


 ナナはナナだった。

 マヤと俺は息をピッタリにしてツッコミを入れた。 


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