戦車の少女

 Side 加藤 佳一


 夜が明けた。 


 俺と名無しの少女は街に向かうために荒廃した市街地を歩く。

高速道路で出会ったおじさんによると、どうやらガラクタも金になるらしいのでコンビニに置いてあった奴を持てるだけ持っていく事にした。


 路面の状態は相も変わらず最悪。

 アスファルトはひび割れて隙間から雑草が伸び放題。

 道を壊れた車や電柱が塞いでいたりなんてのはしょっちゅう。

 野犬どころか鹿の姿まで見受けられる。


 その気になれば食料は困らないだろう。

 もっとも動物の肉の解体なんてやった事はないので慣れが必要だろうが――


「戦車!?」


 まあそれはともかく――戦車と遭遇した。

 車高が高く、車体が四角く角張っていて、砲塔がプリンのように丸っこくて小さい。

 たぶん第二次大戦辺りだと思わせる古臭いデザインが特徴のグリーンからの戦車だ。車種は分からん。何故か星のエンブレムがついていた。

 車体後部には沢山のガラクタを積み込んだ袋が括り付けてある。

 

 名無しの少女は目を輝かせたが俺は構わず物陰に引っ張り倒す。


 どうやら戦闘中らしい。

 野盗と戦っているようだ。


 しかも片方はパワーローダーと言う一種のパワードスーツを身に纏っている。

 動力源は確か一種の核融合炉だった筈。

 装甲はそこら辺の鉄屑を適当に溶接して継ぎ接ぎしているせいで世紀末感がある。


 だが野盗達は火力不足。粗悪なパイプ製のピストルでリーダー格のパワーローダーを身に纏った男が突撃銃を使っているぐらいだ。

 野盗が打った弾丸は戦車の装甲に弾かれ、お返しとばかりに戦車の機関銃が火を吹く。


 戦闘はあっと言う間に終わった。


『そこにいるのは分かってるぞ』


 戦車から女の子の声がした。

 ウィーンと砲塔が旋回して此方に向いた。

 砲塔の天井部ハッチが開き、そこからグレーのツインテールで勝ち気そうな顔立ちの女の子が現れた。何故か衣装は緑の軍服だ。星のバッジが胸元についている。


 手には拳銃を握っていたが戦車から降りてきたと言うことは少なくとも戦車でこれ以上攻撃は加えないと言う意思表示であるため恐る恐る俺は顔を出すが名無しの少女が駆け寄った。


「凄いね! これなに!?」


「これは戦車って言うんだ。私が作った」


「すごーい!! これ作ったんだ!!」


「ああ大変だったぞ。パーツの調達とか色々―それはもうとんでもなく苦労を重ねてだな」


 二人が会話で盛り上がる中、俺はハァとため息をついて姿を出した。



 俺は戦車に乗り込む。

 と言っても狭いので戦車の内部は狭いので車体の上に乗せて貰っている感じだ。

 襲撃してきた夜盗の連中を身包み剥いで俺達の荷物も載せてくれたりしてくれた。


 戦車の内部は卵に手足くっつけた小型の作業用ロボット達が運転や銃座、砲手などを担当しているらしい。

 車長の灰色のツインテールの女の子はガラクタを集めたり、賞金首を倒したりし生計を立てているそうなのだ。


「それにしてもお前、銃ばっかり集めて戦争でもするつもりか?」


 名無しの少女も車長の少女に続くように「そうなの。この人銃ばっかり集めてるの」と言う。


「まあ銃は確実に金にもなるし、自分を守る武器にもなるからな。それにその銃使ってるところを見るとある程度の銃の知識はあるみたいだな」


 そう言って少女は俺がぶら下げているAKー47を見た。


「ああ、コイツには道中助けられた。最近は使ってないけどな」


「私はあんまり使いたくないな~」


 名無しの少女の言う通りだな。俺もあんまり使いたくない。


「そうか。そう言えば自己紹介まだだったな。私はマヤ。この戦車の戦車長だ」


「私は名無しだから名無しでいいよ~」


 当然「お前はそれでいいのか?」とマヤは言うが俺は念の為に補足する。


「これでも色々と――シャルロットとかアリスとか色々と考えてみたんだが本人が気に入らないらしくてな。靴もそうだし――」


 マヤは「お前苦労してるんだな」と返してくれた。

 何か今迄の苦労が少し報われたような気がする。 


「お前の名前は?」


「俺は加東 佳一(かとう けいいち)。佳一でいい。」


「かとう けいいち? 名字があるのか? お前フロンティアの住民か?」


 フロンティア。

 たしかもっとも栄えている場所の名前だったな。

 入国審査とかとても厳しいがこの世の楽園とか聞いた事がある。


「残念ながら違う」


「じゃあシェルターの住民か?」


 確かシェルターは確か核戦争から難を逃れた住民がそのまま暮らしているって言う場所だったな。

 フロンティア程ではないが安定した生活が送れる場所らしい。


「それも違うな」


「なんか遠いところから来たんだって」


 名無しの少女がそう言ってマヤは「ふーんそうなのか」と納得してくれた。


「それにしてもこの戦車――見覚えがあるんだけどな」


「ああ、昔この国で使われていた戦車を私が再現した」


 マヤは自慢げに語る。


 俺はあまり第二次世界大戦の戦車とかには詳しくないが、日本の戦車は強かったとかそう言うのはあまり聞かないなぁ。

 戦闘機とか戦艦とかはよく聞くのに。

 

 それはともかく――


「昔と言ってもメチャクチャ大昔だろう。趣味でならともかく実用性を考えた場合別の奴でも――偶に乗り捨てられている奴とかを参考にしても良かっただろう」


 名無しも同じ事を想ったのか「そう言えばそうだね」と相槌を打つ。


「趣味もあるけど動力に使ってる核融合炉とかの馬力とか冷却効率とか、こうして物を乗せたり武装したりの移動とか整備とかアレコレ考えると第二次大戦時代の戦車がいいんだ。装甲素材も正規品のパワーローダーに使う奴を流用した方が色々と安上がりだしな」


 それを聞いてちゃんとした理由があったんだなと感心した。


「確かにその辺を考えると第二次大戦の戦車の方がいいのか?」


「そうだ」


「日本の戦車なのになんでアメリカみたいに黄色い星のマーク付けてるんだ?」

 

「うん? 私の趣味だけどなんでそんな事知ってるんだ?」


「ああ、まあワケありでな」


「この人何か色々と詳しいんだよ~」


「ふーん。まあこんな時代だからワケありなんて珍しくないけど、変な誤解の種になるから気をつけろよ」


 確かにマヤの言い分には一理ある。

 今後の為にも試しに言ってみるか。


「と言っても別の世界から来ましたなんて言っても誰も信じてくれないだろうに」


「はあ別の世界? からかってるのか?」


「だけどそれなら色々と説明つくよーな、ないよーな」


 名無しの少女は混乱しているようだ。

 ともかくマヤの反応が正しいんだろうな。


「平行世界に転移しましたって言うんなら説明はつくんだろうがーな。とにかくもう故郷には帰れないだろうな」


「ハカセと気が合いそうな奴だな――」


「ハカセ?」


「お前達、街を目指しているんだろ? 街のホープタウンにいる科学者さ。最終戦争以前のロストテクノロジーを探索したり修復したりしている」


「確かに気が合いそうだ」


「それはそうと今ホープタウンも危ないぞ?」


「うん? 何か問題抱えてるのか?」


「山積みだ。私がここまで戦車で来ているのもそれが原因さ。正直猫の手も借りたい」


 どうやら街についても一息つけないらしい。

 名無しの少女は「猫の手を借りてどうするの?」とか言ってるが無視しておこう。


「ほら、見えて来たぞ」


 大きな木製のゲート。

 廃材などを山積みにして作られた壁。

 ペンキで大きくカタカナでホープタウンと書かれている。

 英語じゃないのかよ。


 いや、それよりも――


「学校かここ?」


 ホープタウンは――年月が経ちすぎてかなり老朽化しているが学校だった。

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