4月21日(木)12:30

「あ、あの」

「ん?」

「えっと」

「?」

「……その」

「……?」

「お昼、一緒に、食べない、か」

「あ、うん。そうだね」

「!」




 昨日と同じように、四月一日くんが話しかけてきた。昨日と違うことといえば、それは昼休みに入ってすぐの出来事だということだ。昨日は迷いに迷っているうちに私がご飯食べ終わっちゃったからね。あの何ともいえない空気は、できればもう味わいたくない。いや、私の空になった弁当箱を見た直後に、四月一日くんの友だちが四月一日くんの頭をぶっ叩いたおかげで、その何ともいえない空気はすぐに払拭されたのだけれども。おかげで変な空気から解放されたとはいえ、あれはなかなかに激しい突っ込みだった。突っ込みと呼んでいいのかはわからないけど。ただ単にイラッとして叩いただけなのかもしれないけど。


 まあとにかく、お昼に誘ってもらえるのが嬉しいのには違いないので、ここは素直に返事をしておくことにした。ここで答えをためらうとまた無駄に長引きそうだし。すると四月一日くんは嬉しさがあふれ出たかのように、見たことのないような笑顔になった。そしてそれを見た四月一日くんの友だちはまた、四月一日くんの頭を容赦なくぶっ叩いた。やっぱり単にイラッとしただけかもしれない。




 四月一日くんの友だちは、四月一日くんの前の席の椅子を後ろ向きにして座っている。私は自分の椅子を四月一日くんの机の横に付け、そこでご飯を食べることにした。何というか、私が入ったせいで超異色グループができてしまった気がする。あの変人四月一日くんに友だちがいるなんておかしい、とは言わないけど、ただでさえめっちゃ仲良しの彼がいることが意外なのに、その上ご飯を一緒に食べる女子までいるなんて一体何が起こったんだ。なんて変なものを見るような目で周囲から見られている気がする。


 うん。わかってる。ただの自意識過剰だ。自分たちのことをわざわざ気にするほど、周囲はそんなに暇じゃない。




「いやー、でもホントよかったわ」

「え?」

「このまま一生話しかけられないかと思った」

「え、そんなに?」

「そんなに。だってこいつ、ずーっと八木沼さんに話しかけたいってそわそわし続けてたくせに、いざとなると全然ダメなんだもんな」

「へー」

「っ……」




 彼の言葉に恥ずかしそうにする四月一日くん。確かに彼がいなければ、四月一日くんは延々とそわそわしてるだけで私に話しかけてはこなかったのかもしれない。四月一日くんって、図体はでかいくせに心は乙女なのかな。実際、家庭部だし。いやでも、めっちゃ体鍛えてるし、乙女って感じではないよなぁ。まあ、鍛えているのは魔王を倒すためだけど。






 隣の席の四月一日くんはどうやらずーっと私に話しかけたかったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る