第11話・・・ヴェネトラ2

「さて、ここで改めて魔法について授業をしようか」

応接間にて。ジョン・マスタングが壁にスライド映像を映す。

「お前達、魔法とは何だと思う」

急な質問に対し、リアム達は戸惑った。だって、生まれてから常に身近にあり、属性が解ってからは更に活動の幅は広がる。当たり前すぎて、深く考えたことはなかった。

「銃や、剣を起動させるのに必要…とか」リアムが言う。

「道具を使う時も必要だよね。全部魔力で動いてるし」ミラが続けて言う。

「そうだ。魔法と魔力であらゆる道具が動く仕組みになっている。ここで出てくるのがマジックストーンだ。この鉱石があるお蔭で魔法頼りの生活が出来ている」

マジックストーン。それは魔力を溜めこめる鉱石であり、マジックストーンを砕き、加工し、混ぜたり捏ねたりすることで車、水道、フライパン、銃が魔力で起動できるようになっているのだ。その加工品には適した属性の魔力が供給され半永続的に持つ。そして、マジックメタル。これはマジックストーンより貴重で、現在は希少種ということで使用が禁止されている。

「幼少期は魔法が使えないが、魔力がゼロなわけじゃあない。じゃないと、家具や道具が全く反応しないからな」

言われてみればそうだ。ミラは属性が決定する以前から母親の料理のお手伝いをしていた。マノンも、水撒きの時にホースを持てば水がちゃんと出ていたことを思い出す。リアムも、ストーブを勝手に弄ってボヤ騒ぎを起こして両親から大目玉を食らったことを思い出す。

「子供は魔力が未発達だ。いくら鍛えても、多少は成果が出るかもしれんがな。のびしろが出るのは属性が決定してからだ」

それが、十一歳から十三歳までに魔法属性が発現する。そこから魔法も魔力も身体と共に成長する。

「この世界において魔法は生まれてから死ぬまで付き纏う。神からの恩恵でもあるし、呪いとも考える奴もいる。まぁそれはどうでもいい」

魔法は全部で火、水、木、土、金、そして無である。火は金に強く、金は木に強く、木は土に強く。土は水に強く、水は火に強い。弱点はこの逆。そしてどこにも属さず頂点にある魔法が無属性。

「そんなのってやっぱチートじゃん!」マノンが声を上げる。

「それに、頂点にあるほど強い魔法なのに、リアムはあのゴリラに負けそうになったんだよ?!」

「それはところがどっこいだぜ、お嬢ちゃん!!」

鼓膜が破れそうな声量が応接間に響く。

「ジル、煩いぞ。ここは現場じゃない、もう少し声量落とせ」

「へへ、わりいな兄貴」

マスタングとそっくりな、ジルと呼ばれた男が入ってくる。そして、エアルの車を点検していたジョーイも。

「このジルは俺の双子の弟だ。ジョーイは年子の弟だ」

ジルは豪快に笑い、ジョーイは掛けている眼鏡の位置を直すと一礼した。

「マスタングさんって、双子だったんだ…」ミラが静かに驚く。

「青髪のお嬢ちゃん、さっきの疑問、いい点だぜ!」相変わらず煩い。皆思わず耳を塞いだ。

魔法のジャンケンで勝負が着けば簡単な話だが、そうはいかないのが現実だ。

ここで登場するのが魔力だ。魔力はD~Sに区分される。さらに細かく言えば、D、D+、D++とDクラスでも三つに段階別けされる。Dの範囲は子供レベル。Bまで行けば警察になれる範囲になる。それ以上は軍隊レベル。

ここでマノンの疑問に戻る。リアムとコアの戦いで、頂点にある無属性なのに押された理由。それが『魔力』のクラスがリアムの方が劣っていたからだ。

「そのゴリラ、A+って言ってたんだろ?リアムはA止まり。お嬢ちゃんも火属性と戦ったなら解るだろう。『相殺』されるってな」

マノンが相手にした火属性はAだった。マノンはB++。ワンランク下であれば、いくら魔法で有利であっても、魔力で劣るので火力が増し、水は水蒸気として蒸発させられた。

そしてリアムの無属性も。無属性は強ければ全てに勝てるが、弱ければ全てに負ける。ある種紙一重なのが無属性だ。

「じゃあ、あの時…エアル兄が同時に魔弾を撃ってくれたからコアと相殺できたってことか…なら、俺も魔力を鍛えればあのゴリラに勝てるってことか」

「後は身体能力と技術と体力だろうな。魔力を供給しすぎてガス欠になってもダメ、動き回って体力切れになるのもダメ。レイラのバカが開発した、魔力全部持っていくトンデモ銃弾みたいなのを使用したら一発で戦闘不能。有利が不利になるぜ」ジルがレイラをチラリと見る。

「え、なんだそれ?!」リアムがレイラの方を見る。

「え!バレてた!!」レイラは口が滑ったと焦り口を隠すがもう遅い。

「またお前は…」ジョンが溜息を吐く。

「天才と問題児って同じなんだね」マノンが追撃する。ギロリとレンからの殺気に、マノンは反射的に背筋を伸ばし正した。

「さて。次は私から」ジョージがジルと変る。

「次は身体強化についてのお勉強です。レイラさんから聞きましたが、ヘスティアさんは『ブースト』が出来るとのことですが」

「えぇ。できますよ。Aクラスなので」

「マジかよ…Aクラス…」リアムが驚く。

「Aクラスになると、魔力で身体強化、補強することが出来ます」

火属性…「ブースト」脚力の強化。測定ではマッハ一。

木属性…「オフェンス」腕力の強化。

金属性…「イヤーズ」聴力の強化。半径一キロの範囲の針を落とした音も拾い上げる。

水属性…「アイズ」視力の強化。約二キロ先まで観測可能。

土属性…「ディフェンス」体の強化。一時的に攻撃が通用しなくなる。

無属性…不明

「残念ながら、無属性については全く持って不明です。アイアスさんからも黙秘されていましたし…」

「マジかよ…親父…。俺、Aクラスまでなったのに。身体強化の訓練もできねぇのかよ」

ガッカリするリアム。

「仕方ありません。ご自分で研究し、発動させるしかありませんね。我々もサポートはします」

「ありがとう、ジョージさん」

「ヘスティアさんは、どうやってブーストを取得したんですか?」

ミラの問いに、ヘスティアの眉がピクリと動いた。

「…手本になる方がおりました。それだけのことです」

「そうなんだ」

なんとなく、地雷を踏んだかな、とミラは思った。

「さて。身体強化についてはこんなところでしょうか」

「はい!あのさぁ、どうして他属性との結婚が少なかったり、許されなかったり…するのかなぁって。知ってたら教えてほしいな」

レイラが手を上げ、質問する。彼女なりに、リアムの叔父の恋に思う所があったらしい。ジョージはジョンを見ると、ジョンは頷き前に出た。

「簡単に言えば、同じ属性と結婚、恋愛するほうが相性はいい。一緒にいて心地良い、てところか。この世に他属性結婚が無いわけじゃない。ただ…」

「ただ?」

「生まれた赤ん坊にとっては都合が悪い」

例えば。火属性と水属性が結婚したとしよう。無事子供も産まれた。その時、将来その赤ん坊が発動する属性は母方の属性七割、三割の確率で父方の属性で両方引き継がれる。例えば主力になる母方の水属性魔法を使いたくても、父方の火属性が邪魔をして上手く発揮できないと聞いたことがある。魔力も不安定だと噂もあった。二つの属性を継承したが故に中途半端な子供になってしまう。

これは仮説だが、本能的に自分達の属性が永遠に続くように同属性と結ばれるのではないか。というのがマスタング兄弟の考えだった。

「なるほどねぇ。ありがとう、師匠」

「まぁ、こんな所だろう。あと、全てはマジックウォッチに管理されている。属性が解る時もマジックウォッチが教え、魔力クラスもマジックウォッチ。ネットとしても使えるが、俺達は、本来は人間を測定するために開発されたと思っている。原理や仕組みは解らんがな」

「確かに…マジックウォッチは新生児期を過ぎたら贈られてくるもんな。身体の一部だ。無くなったら困ることしかない」

エアルは、姪のアイリスの事を思い出していた。政府から届くマジックウォッチを装着するとき、それはもうお祝い事だった。それはどこの家庭でもそうだ。一国民として戸籍と共に刻まれる物だから。

ボーン、と時計が鳴る。時刻は夜八時を指していた。

「終業時間だ。俺は閉め作業をしてくる。お前達は飯食って寝ろ。ここは工業の中心地だから遊ぶ場所も、姉ちゃんが相手してくれる店も無いからな」

一瞬、マノンとエアルはドキッとした。マノンはミラ達を誘って探検して遊び場があったら行こうと思っていた。エアルは、まぁ…お姉ちゃんと遊びたかったのだ。


リアムはエアルと相部屋だった。時刻はもう零時を指そうとしていた。

(眠れないから外の空気吸ってくるか)

部屋を出て、玄関に向かうが何となく工場の方が気になり、住居側から工場の方へ足を進める。

「リアム、待ってリアム」

「ミラ。なんだ、お前も眠れないのか」

「うん。なんか、頭いっぱいになっちゃって」

嘘だ。本当は寝室から誰かが出ていく音がして、確認したらリアムだったから、後を追ってきたのだ。

「工場に用事でもあるの?」

「気になってな。こっそり見学ついでに、外の空気吸おうと思って」

「私も行ってもいい?」

「いいぜ」

二人は工場の方へ行くと、ぼんやりと明かりが灯る部屋を見つけた。

覗いてみると、ジルが何やら弄っていた。

「なんだ、若造共!盗み見はいけねぇぜ!」相変わらず声がデカイ。

「すみません!何してるのか、気になって」

「あぁ、これか。マジックウォッチを調べている」

「え」

「まだお前さんには教えられんがな。どうにかこうにか改造して改良したいことがあってなぁ…でも兄貴が言っていたように原理も仕組みも解らん!本当なら、リアム、お前のマジックウォッチを貸せと言いたいところだ!アイアスが言うには、無属性のマジックウォッチは特別らしいからな!」

ガハハハ!と笑う。

「なんも解らんのに、無属性のマジックウォッチを弄ったところで何も変わらんかもな。リアム、ミラ。デートなら今のうちだぞ。ここの夜景は世界一だ」

その言葉に、二人は見合った。


「おじさんのこと、大丈夫?」

リアムとミラは、少し離れた所にある高台に来ていた。勧められただけあり、工場の灯りが夜を照らし、ひとつひとつの光りが眩い。

「まあな…でも、親父が生きていたら、教えてくれたことなのかなって。そう思ったら少し気が楽になった」

「そうだよ、教えてくれたよ。きっと」

沈黙が流れる。

「…そろそろ戻るか」

「もうちょっと、だけ。一緒にいてもいいかな…」

ミラの顔が光りと影で際立つ。あぁ、寂しいんだ。悲しいんだ。リアムの両親のことだけが解り、自分の両親については何も知れなかったことが。ミラも解っている。マスタングと親交があったアイアスだから出てきた話であって。でも、気持ちが上手く整理できていないんだ。

「風邪ひかないならいいぜ」

「うん」

ミラはそっとリアムに体を寄せた。リアムも、少しミラに寄りかかった。

夜風が二人を、優しく撫でた。

……

ちょっと、押さないでよ!。もうちょい詰めてよレイラちゃぁん。いけ、リアム!そこでちゅーしろ!。あの、ばれますよ…。

「うわぁ!」配置されていた植樹の陰からレイラ、マイラ、マノン、エアルの四人が飛び出してずっこける。

「…バレてるよ、でばがめ共」

リアムは頭を掻き、ミラは顔を真っ赤に染めていく。

「もう!覗き見禁止ぃいいいいいいいいいいいい!!!」

ヴェネトラの工業地帯に、ミラの声が反響した。それはジルの耳にも届いたとか。

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