第6話・・・メルカジュール3
昼食を終えた五人が次に向かうは。流れるプール、波の出るプール…巨大プールエリアで泳ぎたおす。ラッシュガードやショールを脱ぎ、肌を露わにする。眩しい水着姿の女性が四人も集まれば、自然と注目が集まるのも確かで。
「なぁ、すっげぇ姉ちゃん達がいるぞ」、「え、声かける?」、メルカジュールランドのプールエリアは出会いの場でもあるだろ!、つうか、あの男なんなんだ?美女二人に可愛い子が二人…あの男はなんだ、おまけか?入場前に騒いでたお嬢様だ…執事かな。あの子タイプなのに声かけたらきっと召使に殺されるんだろうな。ッチ、男がいなけりゃな。
(全部聞こえているぞ)
リアムはとりあえず周りにいる男衆に威嚇の視線を向けると、近くにいた男性陣はそそくさと立ち去って行った。
「あ、見て!このテーブルに貴重品入れのロッカー付いてる!これでリアムもプールに入れるわね」
「すげぇしっかりしてんな…」
レイラとレンがロッカーにバックをしまう。
「それじゃあ、泳ぐわよぉ!」
浮輪を借りて、流れるプールで気ままに流されてみたり、波の出るプールではビーチボールで遊んではしゃいだ。
「…レン、リアム。私少し疲れちゃったから、先にテーブルに戻ってるわね」
「え、それではわたくしも…」
「いいの、いいの!レン、泳ぐの楽しみにしてたじゃない。休憩時間まで遊んでなさい」
レイラはふよふよと波を利用しながらベンチの方へ戻っていく。
リアムはレイラからの意味深な眼に、周りを見てみると、やっぱり青髪の少女がこちらを見ていた。リアムは潜ると、人混みへと消える。
青髪の少女はミラ達を見ていて気付いていなかった。
(どうやってコンタクトを取ろう…)少女は親指の爪を噛んだ時だった。
ザパー!と音を立てて、背後を取られる。
「にゃ?!」
「おい、お前、さっきからずっと後着いてきてるけど、何者なんだよ」
「…ッ!くそ!」
リアムに後ろを取られた少女は、クロールで逃げていく。
「あ、あの野郎!しかも速い!」
リアムも泳いで追いかけるが、少女のスピードには付いていけない。泳ぎも鍛えておけばよかった!とリアムは内心、滅茶苦茶悔しがっていた。
少女は全速力でビーチに上がると、そのまま花が壁のように咲いているフラワーコーナーに逃げて更衣室に籠ろうと計画を立てた。が、
リアムがまだ来ていないことを確認し、安心し前を向いて歩き出した。
「うむっ!」
「あら♡大胆な子ね」
レイラのわがままな胸の谷間に、少女が埋もれる。
「あなた、ずっと私達こと着けていたわよね。ずっと気になってたの。こんな可愛い子が捕まるなんて、お姉さんうれしいわぁ!」
「…うぐぅ」
少女は、全てばれていたことに、機嫌を損ねたのか、諦めたのか、不貞腐れた目付きでレイラを睨んだ。
「レイラ!捕まえた…て、どういう状況だ?」
リアム達三人は、フラワーコーナーの一目に付かない、影になるところで座り込んだ。
「で、お前。名前は?なんで尾行してた」
「名前を知りたいなら、先にそっちが名前を名乗るのが常識じゃないのか?」
少々強気な少女に、リアムとレイラは顔を見合わせた。
「俺はリアム・ランドルフ」
「私はレイラ・ラスウェル」
「…マノン。マノン・ミナージュだ。その、尾行していたことはすまない。でも、どうしても昨日の事件が気になって!」
「昨日の?それって、公園であった、あの?」
「ちょっと、待ってよ。昨日、事件なんてあったの?ここ、治安が良いで有名じゃない…あ、強盗、とか…?」
「違う。殺人だ」
「殺人って…」レイラは言葉が詰まった。
「それで、どうして俺達の尾行に繋がるんだ」
「お前、知らないのか?昨日の殺人事件の唯一の目撃者で、第一発見者として扱われたのがマイラ・マイソンなんだ」
リアムは驚くと同時に、マイラが遅刻してきたときの憂鬱そうな表情がやっと合致した。昨日の今日だ。そりゃ遊ぶ気分にもならないのに。どうして、わざわざ無理をしてまで自分達とメルカジュールランドなんかで遊ぼうなんて思ったんだ…
「だから、マイラに詳しく聞きたかったんだ。犯人の特徴とか!」
「それは警察に任せとけ。マイラも、お前まで危険な目に合うぞ」
「…そうは、いかないんだ」マノンが悔しそうに呟く。
「私、偶然死体を見る事が出来たんだ!そしたら、胸に穴が空いていて…あの殺し方、私の‘家族’を殺したときと同じ状況だったんだ!」
リアムの心臓が大きく脈打つ。フラッシュバックする、あの日の光景、そして悪夢が。
「穴って…銃で撃たれたら、そりゃ、」レイラがしゃべっているところにすかさずマノンが言葉をかぶせる。
「穴って言っても、心臓が抉り取られたように、貫通しているんだ。今の銃じゃそんなことできないって、警官が言っているのも盗み聞ぎした!」
そう。マノンは、昨晩茂みに隠れて、捜査の一部始終を盗み見ていた。本格的な捜索が始まると思ったが、死体の回収、マイラの保護、死体からの半径五メートルを捜査していたら、無線が入ると警官は撤収していった。
「まって、マノン。お前、家族が同じように殺されたって言ったよな…」
「あぁ、言った」
「…詳しく、その時の事、聞いてもいいか?」
マノンは少し悲し気な顔をしたが、リアムの形相に、通ずるものがある気がして、座り直すと、静かに話し始めた。
「私は、孤児だった。孤児院で育ったんだ」
・・・
マノン・ミナージュ。それは、両親が唯一贈ってくれたものだった。
マノンは、メルカジュールとヴェネトラの国境の間で孤児院を経営している修道院の近くの川沿いで拾われた。朝の静かな時間に、赤ん坊の泣き声が聞こえて、シスターが保護してくれたらしい。置き去りにされたのか、はたまた、川から流されてきたのかは、解らないらしい。ただ、バスケットの中に、産着と、名前の書かれたプレート。あたたかなブランケットに包まれたマノンを見たシスターは、事情があって捨てられた赤子なんだと、思ったそうだ。
経営している神父は、初老だった。ごつごつした大きな手で、頭を撫でてくれたし、ゲンコツも食らったことがある。
「この男女~!悔しかったらぶってみろぉ」
「言ったなぁ!」
五才の頃の私は、とにかく血気盛んだった。ケンカを売られたら、買う。そして男の子を負かして泣かせていた。
「神父さまぁ、マノンがぁ!」男の子達が泣きながらチくる。
「お前達も悪い。そしてマノン、お前はいつもやり過ぎだ!」
そしてマノンが楽しみにしていたのは、五才になったら受けられる、体術の授業だった。この世界は魔法で出来ている。だから、魔法を扱うにも気力、精神、体力を重視していた神父が開いて以来、ずっと続けていたことだった。
シスターは、年齢こそ教えてくれなかったけど、とても優しい人で、それは声からも解る、とても素敵な人だった。
「マノンちゃん、一緒に遊ぼう!」
「うん!」
十才になったマノンは、少し喧嘩っ早さは落ち着いてきていた。ケンカを売る男の子も相手にされないと解ると、突っかかってこなくなった。
「あら、お花の冠を作っているのね。素敵だわ」
「あ、シスター!完成したら、シスターにあげるね!」
「ありがとう、マノン」とても優しい、笑顔で、大好きだった。
十一才になったらマノンの魔法が覚醒しマジックガンやマジックソードが使えるようになった。マノンは水属性。銃では水が弾丸のように発射され、的を貫く。鍛錬をして行くうちにマジックソードでは氷の刃を使えるようになった。
「マノンは同世代の皆より秀でていますね」シスターが言う。
「同世代ところじゃないさ。子供達の中でもトップで目を見張る。もしかしたら、街の子供達にも負けないかもしれない。これなら、ティアマテッタの軍隊に入隊だって夢じゃない。マノンは、ここを出ていっても苦労はしないだろう」
ここで魔法を習っておけば、街に出ても困ることはない。神父とシスターの、せめてもの親心だった。
「それじゃあ、お使い頼みましたよ」
「はい。それでは行ってまいります」
マノンは、孤児院出身の先生と、メルカジュールまで買い物に行くことになった。先生は、孤児院を出てから学校に通い、教育者として、孤児院の子供達に勉強を教えるためにまた戻ってきてくれた女性だった。
「マノン、お誕生日おめでとう。誕生日に街にいけるなんて、ご褒美だね」
「うん。普段、子供はいけないから…本当、ラッキー」
二人ではしゃぎながらメルカジュールへ行き、頼まれた食材や雑貨を買い足す。
「ねぇ先生、メルカソーダ買ってさ、川沿いで飲まない?」
「あー、そういうズルい事しちゃうんだぁ…いいね!」
二人は久しぶりの街で浮かれ、楽しんだ。そして、帰って来たのは夕飯前になってしまった。
先生が先陣を切って扉を開ける。「遅くなりました!」そこから、反応は何もない。
「先生…?神父様、怒ってる?」
「来ちゃダメ」
「え?」
「来ないで!とにかく、マノンはここにいて。いい、絶対よ、動かないで」
先生は顔を青ざめさせ、マジックウォッチで警察に連絡をしていた。マノンは、薄ら開いた扉に吸い込まれるように、中を覗く。
部屋の中は、血飛沫が一面に飛び散っていた。壁にも、床にも、天井にも。神父様も、シスターも胸に穴を空けて死んでいる。孤児のみんなも、穴が空いている。女の子達は、下着を脱がされていた。たぶん、酷い目にあったんだ…そして、赤ん坊と、幼い子供達は、穴を空けられた時の衝撃に身体が耐えられなかったのか、肉片が四方八方に飛び散っていて原型が無かった。
「…ッうええ」マノンは、思わず吐く。
「マノン!マノン!」
意識が朦朧としてきたマノンを、先生が抱きかかえる。「もうすぐ警察が来るから!」励ましの声は、マノンには届かなかった。
(この数日間、こんな悲惨な事件がテレビにも、ラジオにも、新聞にもネットにも出回らないなんておかしい!どういうことなの!)
あの事件から、数日が経つ。今、マノンと先生は、シャベルで穴を掘っている。
『ご遺体はそちらで処理してください。申し訳ありませんね。上からの命令でして』
警察はそう言うと、捜査も程々にさっさと帰って行った。死因も、どうして殺されたのかも、犯人も、動機も一切解らない。
ザク、ザク、ザク…先生が同じ個所を何回も掘っていく。
「先生…」
「マノン、疲れた?休憩にしましょうか」
先生は、必死に精神を保っていた。もう瞳に光りは無くて、マノンがいるから辛うじて生きているような状態だった。
「うん…先生。休憩したら、早くみんなのこと、弔ってあげよう」
みんなをシーツに包み、ひとりひとり、出来る限り丁寧に弔った。木の枝で十字架も作り、墓を作った。木の板に、『家族、ここに眠る』と書き、置いてきた。
修道院はもう住めるような状態ではなかったから、マノンが水属性と言う事、治安の良さから二人はメルカジュールに移り住んだ。マノンはジェラート屋でバイトをし、先生は小学校で教員として働き始めた。なんとか、二人での生活にも慣れて、起動に乗り始めていた。
マノンは、先生のためにも、普通に生活したほうがいいと言い聞かせながら…
「ねぇ、マノン。マノンはとても正義感が強い子だし、銃の扱いも凄かった。きっと、警察官になれば、たくさんの人を助けてあげられると思う…せめて子供達だけでも助けてあげられる警官になって…マノン、ごめんね、ごめんね。マノン」
先生は、マノンの実力を見込んで警察官になることを勧めた。でも、自分達にされた仕打ちを考えると、心臓を八つ裂きにされた気分になる。マノン達は、この矛盾を抱えながら、必死に生きた。そしてマノンも就職について真剣に考えるようになっていた。
(疲れたぁ。今日も繁盛だったなぁ)
バイトの帰り道、公園を歩いていると、パトカーのサイレンが聴こえてきた。事件とか、嫌だなと思っていると、一人の少女と、動かない男が木の根元にいた。その男の胸は、ぽっかりと空いていて…
(あの穴、神父様達の時と同じ!)
マノンは急いで茂みに隠れ、身を顰める。保護された少女はマイラ・マイソン。警察は最初こそは捜査をしていたが、無線が入り、引き上げろと忠告が入ると帰って行った。きっと、この事件は闇に葬られる。私達の時と同じように。
そう思ったマノンは、マイラと接触を試みて、犯人を見ていないか聞き出そうと決めた。そして、仇を取る。事件の真相を暴いてやると、誓った。
(ごめんね、先生…私、やっぱり許せないよ!)
・・・
「なるほどな…」
「辛かったわね」
レイラは声を絞り出し、涙ぐむ目元を拭った。
「…私は話したぞ。お前も聞いた以上、なにかあるんだろ?」
「まぁ、あるけど。それは後で話す」
「え、ちょっと待ってよ。リアムも訳あり?」
「そうだな今言えることは…俺もマノンが見た惨状と同じ経験を両親でした…」
マノンはリアムを見つめ、レイラは絶句した。
「マノン。俺はお前に協力する。でも、お前も解るだろ?殺人を見た人間が、どれだけ傷つくか」
「あぁ、わかってる」
「じゃあ、まずはマイラと合流はさせるけど、事件の話はタイミングを見て俺が合図するから、その時に事情を訊け。いいな」
「わかった」
「あと、お前、戦えるか?」
「もちろんだ!これでも水属性の魔力B++だ!」
マノンは自慢げにマジックウォッチを見せると、魔力情報が表示される。
「申し分ないな!当てにしてるぜ!」
リアムは勢いでマノンと握手する。マノンは一瞬驚いたが、握り返す。
「ちょっと、私置いてきぼりなんだけど」ちょっと不貞腐れるレイラ。
「ちゃんと説明するから。とりあえず、ミラ達の元に戻るぞ。そろそろ休憩時間になるし、戻らないと、怪しまれる」
こうして、リアム達にマノンが加わった。
「リアムが、女の子連れて戻って来た…」
「あら、少女趣味もおありで?やっぱり、通報した方がよかったかもしれませんわね」
「ハーレム」
リアムが戻ったあと、ミラ達から散々言われたのは無理もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます