暗雲

 Side 木里 翔太郎

 

 あの首都での。

 国会議事堂での演説は世界中で物凄い反響を呼んだ。

 動画サイトでの再生回数も凄まじい勢いである。


 そして肝心の黒原総理などの関係閣僚、官僚は捕縛。

 自衛隊の人達の預かりとなった。


 なにやら「こんな事をしてタダで済むと思っているのか!?」、「これはクーデターだぞ!?」、「私を誰だと思ってる!? 総理大臣だぞ!?」と黒原総理は喧しく喚き続けていた。


 他の政治、官僚も似たり寄ったりだ。


 こんな奴らのために大勢の命が亡くなったと思うとやるせない気持ちになる。

 

 武装勢力の気持ちも分かってしまう。

 自分も被害者だから。

 

 だが今更手の平返して黒原総理を殺したとしても、死んだ人間は帰ってこない。

 核兵器で殺した人間、俺達のように学生の身分でも徴兵して戦場送りにして死んでいった人間の分もしっかりと償ってもらいたい。


 それと暫くの間、首都機能の維持は自衛隊の方々に任せる事になった。

 首都に住まう人間には不便が生じるだろうが我慢して欲しいところだ。



 新たな空中戦艦 シグルドリーヴァ。


 その艦長であり、そして代表者を務めているのは谷村 亮太郎。


 演説をぶちまけた少年であり、恐らく今、世界中でもっとも有名な日本人の一人だろう。


 彼はレギンレイヴのブリーフィングルームに皆を集めた。


「これから避暑地に向かうよ。場所はもう掴んでいるだから」


「そう言えば避暑地って場所は何処にあるんだ?」


 と、荒木さんは疑問を投げかけた。


「今は太平洋側の海に浮かんでいるよ。天王寺 ゴウトクは敵が多いから場所も容易に分かるんだわ」


「成程――」


 どうやら人望なんて無いに等しい人物らしい。


「まあそれだけじゃないんだけどね。僕が名前を世界中に明かしたせいで一気にその悪名とこれまでの悪行が世界中に知れ渡った感じで。ぶっちゃけ、世界中に逃げ場ない状態だよ」


「まあ自業自得ね」


 サエが言うようにこれは自業自得だろう。

 それ以外言う事もない。 


「それに追い詰められて核兵器を使われたらたまったもんじゃないからね。今や天王寺 ゴウトクは日本の影の支配者ではなく、世界から見放された哀れなテロリストさ」


「もしかしなくても――俺達、とんでもなく有利な状況だったりする?」


 谷村の説明に荒木さんがそう漏らす。

 確かに今の状況はこれまで以上にとんでもなく有利だ。


 こう言う立ち位置は初めてで嬉しさよりも逆に戸惑いを覚える。


「私達の戦いがやっと報われたのね――」


「サエ――」


 サエは黙祷するように両目を瞑りながら言った。

 俺もそれに倣い、これまでに散った命の事を想いながら黙祷する。

 

 無駄じゃなかったんだ。

 俺達の戦いは――


「さて、あとは天王寺 ゴウトクをどうにかすればこの戦争も終わる――と、言いたいんだけどね?」


「どう言う事?」


 サエの質問に谷村さんは「行けば分かるさ」とだけ返してその場を立ち去った。


「まだ何かある感じかしら」


「ああ――サエ、気を引き締めて行こう」


「ええ」


 一体これ以上何が待ち受けていると言うんだ?

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