善悪の狭間に演説を
Side 木里 翔太郎
『まさか日本の政治家連中を助ける事になるとはな!!』
「それは同感ね!」
俺と手毬はテロリスト達に立ち塞がる様に 降り立つ。
避暑地に向かう途中に首都のテロを聞きつけ、それを阻止するためにこうして駆け付けたのだ。
もちろん守るべき対象からも撃たれるのを覚悟でだ。
『何故君たちが立ち塞がる!? 君達は虐げられた側だろう!?』
武装勢力側にもっともな事を言われるが――
『だからこそお前らの気持ちはよく分かる!! だがここで戦っても、ムカつく奴をぶっ殺しても事態が悪化するだけで問題はなにも解決しない!!』
「お願いだから引き下がって!! 引き下がらないと撃たないといけなくなる!!」
と、サエも懇願するように言うが――
『言いたい事は分かるが引き下がれん!!』
そう言って銃口を向けてきた。
『どうにもならないか――』
戦う事を覚悟したその時だった。
雪代さんの声が耳に届く。
『新たな空中戦艦が接近――友軍のIFF? 誰が乗ってるの――?』
☆
国会議事堂シェルター
Side 黒原 総理
(俺はこんなところで死ぬ人間ではない!! 何れは天王寺家に代わってこの国を牛耳る人間なんだぞ!!)
あのガキどもも、さっさとテロリストを処分すればいい物を――所詮はテロリスト同士、同情したのか対話など試みおって。
「総理、また新たな空中戦艦です!」
「敵か、味方か!?」
「識別コードは不明――」
「なら敵に決まっているだろう!! この国の防空体制はどうなってる!?」
「こんな状況ですから飛びたくても飛べないんです!! 出撃命令を拒否する基地や駐屯地も多数存在し、そもそも太平洋側は手薄になっているんです!!」
「なに? 太平洋側だと!?」
太平洋側から空中戦艦が!?
じゃあ何処の連中だ――
『この場にいる戦場の人間に伝える。銃を収めて欲しい』
同時に少年の声が大音量で耳に届いた。
☆
Side 木里 翔太郎
『私は谷村 亮太郎――まあただの高校生だった人間だ』
『この声、どこから――』
「翔太郎、新たに現れたあの空中戦艦からよ」
『味方のIFFコードも送られてある――じゃあ敵じゃないのか? それに高校生であんな軍艦に乗ってる事は』
「私達と似たような身の上よね――」
と、手毬が言う間もメッセージは続く。
『現在、我が国は皆も知っての通り、困難な状況に直面している。今この首都がその縮図だろう――だからこそ、今一度自分達が本当に戦う相手、本当に銃を向ける相手を考えて欲しい』
そう言って数機のパワーローダーが空中戦艦から発艦。
国会議事堂に降り立つ。
『思い出した――谷村 亮太郎って確か――死神とか魔術師とかの二つ名持ちの――』
「そう言えば――関西にそう言うエースが率いる部隊がいるって聞いたわね」
サエも思い出したようだ。
『戦争になった原因はヴァイスハイト帝国だ。
だが現在、この国は天王寺 ゴウトク一派やその手下の一人である黒原総理を始めとした政治、官僚により、この国は滅びに向かいつつある事実を我々国民は直視しなければならない。
例えここで黒原総理を倒しても政治家御用達の避難場所の避暑地にいる天王寺 ゴウトクの一派を倒さなければまた、天王寺家の息が吹き掛かった指導者が台頭するだけだ。
だからと言って黒原総理や天王寺 ゴウトクをただ倒せばいいと言う単純な話でもない。
黒原総理を倒し、天王寺ゴウトクを倒したのち、どうこの国を建て直すかが問題だ』
気が付けば銃声が止んでいる。
皆このメッセージに聞き入っているのだ。
『正直言ってこの国は末期だ。何時からこの国は独裁国家になった?
そして国民を虐殺し、反対するならば核兵器すら使用する連中が指導者として君臨する事実を君達国民はどう感じる?
その結果、こうして武力蜂起が起きてしまった。
だが血を流し、死ぬのは真面目に働いている、最前線で戦っている人間からだ。こんな行為はもう沢山だ。
ここまで言っても止まれぬと言うのなら僕が相手になろう』
『僕が相手になろうって――よく見たら武装持ってないぞ――』
サエも「本当だ――」と気づいたようだ。
演説を聞き入って分からなかったが谷村 亮太郎の漆黒の機体は武装を持ってない。
素手で相手するつもりだろうか。
『ふざけるな!! そんな言葉で今更止まれるかよ!!』
『そうだ、そうだ!! 俺達が何をされたと思っている!?』
そう言う声も上がるが――
『復讐をするなとは言わない。復讐の仕方を考えてほしいと言っている。
天王寺 ゴウトクのやり方は独裁者のそれだ。
黒原総理達、政治官僚のやり方にだって納得は言ってない。
だがそれらを考え無しに排除したとしても待っているのは無政府状態となり、大国の傀儡政権が誕生するか、あるいは強引に他国の領地にされて酷い弾圧を受けるかもしれない。
それに忘れてはならないが、天王寺 ゴウトクがやったとは言え、我々は戦争で核を使用したのだ。
逆を言えば今この瞬間にも核を打ち込まれても文句は言われないと言う事だ。
なぜ今日にもなってヴァイスハイト帝国から核を撃たれないのか?
それは単純に日本侵攻が頓挫し、急速に領土を拡大したツケとしてアジア連やソ連、ユーロ連などの勢力に弱ったところを付け込まれないようにするため、一時的に中断しているだけだ。
その気になれば再び軍事侵攻を開始し、核を使用されるか虐殺をされるかの2択しかない。
その事態を避けるためにも我々国民が立ち上がり、この国を正し、天王寺 ゴウトクや黒原 総理を法的に順守して裁かねばならない。
ここまで言っても納得しないのなら相手になろう。
ただし私は手を出さない。
言葉を幾らでもぶつけ続けよう』
そこまで言って流石に武装勢力側も押し黙った。
☆
Side 国会議事堂 警備部隊
武装勢力が退いていく。
武器を捨てて投降する部隊も出た。
奇跡が起きた。
一人の少年が言葉だけでこの場を収めて見せた。
全くの無血とはいかなかったが――それでも状況を考えれば奇跡だろう。
一人の少年が首都を悲劇から救うなんて、それも言葉で救うなんて信じられなかった。
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