混沌の日本

 Side 木里 翔太郎


 大火に見舞われた町は一先ずの落ち着きを取り戻したが失った物は多かった。


 焼けた町、亡くなった人々。


 守り切れなかった。


 自分達は神ではないのは分かっているが思わずにはいられなかった。


 そんな俺の耳に避暑地と呼ばれる場所について説明される。


 避暑地とは早い話、権力者達の避難所であり、そこに俺達だけでなく多くの日本人の運命を弄った張本人達がいるらしい。


 そこにいる連中を倒さないかぎり、日本を取り戻しても何度も歪められる。


 特に天王寺 イチゼン、その父親である天王寺 ゴウトク。


 この二人を倒さなければ何をしでかすか分からない。


 俺達は避暑地に向かう事になった。



 俺はサエと部屋で二人きりになる。


 皆の前でキスまでしたのだ。


 こう言う状況も今更である。


 話の内容はと言うと――


「経緯はどうあれ、日本を滅ぼす事になるのよね」


 と、サエは話を切り出した。

 俺はと言うと――


「サエ、俺は――この国は一度滅ぶべきだと思っている」


 前置きして俺はこう語り掛ける。


「俺達が戦力不足の穴を埋めるために投入されたあの日から――いや、もっと以前から死ぬ気で立ち上がってこの国を変えるべきだったのかもしれない。だけど核兵器で友軍もろとも吹き飛ばして、逆らう物は虐殺してでも黙らせて……逆に滅ぼさない理由を探すのが難しいだろう」


「そうね。だけど滅ぼして、一からやり直して、どう立て直すかも重要よ。それにヴァイスハイト帝国だって核打ち込まれてどう出るかが問題よ」


「まあな――」


 サエが言うようにヴァイスハイト帝国の問題もある。

 核兵器を打ち込まれたのだ。

 報復に出る時はそう遠くないだろう。

 

 だが核兵器を使われたとは言え、日本で負けたのは事実だ。

 戦力の中核を失い、占領地域各地で内乱が起き、その鎮圧で日本どころではないだろう。


 それまでに天王寺 ゴウトク一派を倒して日本を建て直す必要がある。


「まあいくら考えても、天王寺 ゴウトクを倒した後の政府の出方次第だけどな」


「そうね。本当に日本政府の連中が愚か者だけの集まりだったら本気でこの国を亡ぼす事も考えないといけないわ」 

 

「ああ――」


 そうなっては欲しくないが、ありえそうで怖いのがこの国の恐ろしいところである。



 Side とある日本の政治家

 

 首都東京。

 戦争を感じられない程に綺麗な街並み。

 だが外面だけだ。


 今いるこの国会議事堂も砂上の楼閣であろう。


 財産に余裕がある政治家、資産家はみな海外に高飛びした。

 あるいは避暑地に逃げ込んだ。


 残っているのは天王寺 ゴウトクにとって都合のいいイエスマンだけだ。

 総理大臣の黒原からしてそうだ。

 

 黒原は政治家ではなく、政治屋。

 政治家をやるために政治家をやる人種だった。


 国民は都合の良い道具だと本気で思っているタイプである。

 日本の政治家はこの手の政治屋が多い。


 黒原総理は日本中で起きる、自衛隊――天王寺家主導によるジェノサイドを利用してどうにかヴァイスハイト帝国に取り入ろうと考えている。


 一方で天王寺 ゴウトクの地位を狙っている節がある。

 傍目から見ると人の欲望と言うのはここまで際限がないのかと呆れてしまう。

 黒原総理も天王寺 ゴウトクも力関係が違うだけで同じ穴の貉なのだろう。


 今行われている国会では平常通り。

 会議はするが何も根本的な事は決まらない。

 ただ国民からどれだけ金を毟れるかと言う点では与野党ともに一致している会議が進む。


 日本国民は――戦争が始まる前は大人しかった。

 ネットデモとかネットリンチとか言う言葉があるが、所詮はネットでしか騒げない連中の戯言だと切って捨てる事ができた。


 だけど天王寺一族のバカのせいで昔は紛争地帯の話だった、武装した反政府組織の活動も活発化している。


「襲撃です!! ただちに避難してください!!」


 などと思っているとその武装勢力が襲撃してきた。

 銃撃音や爆発音が響き渡る。


 その場に蹲って腰を抜かした政治家や、居眠りしていたが飛び上がって起きた政治家、文句ばかり捲し立てる政治家、我先にと一目散に逃げる政治家など、様々だ。


 私は避難しながらも国会議事堂に襲撃を仕掛けられるレベルにまで反政府組織が勢力を拡大した事実に驚きを隠せないでいた。


 やはり中立地帯へのジェノサイドが原因だろう。


 この国は本当にどうなってしまうのだろうか……



 Side 国会議事堂 警備部隊


 様々なパワーローダーが集まって国会議事堂周辺を襲撃していた。

 国会議事堂周辺は包囲されて出入口は塞がれている。

 ヘリで脱出しようものならすぐさま撃墜されるだろう。


『これは報復だ!!』


『同じ日本人とは言え、今の政府の味方をする奴は容赦せん!!』


 テロリスト連中は士気旺盛で此方を圧倒している。

 

 我々警備部隊もパワーローダーで武装しているが所詮は警備用である。

 首都の防衛部隊の援軍を待たねばならない状況だ。


 仲間が次々と無慈悲に殺されていく。

 

 士気や装備の差もあるが練度が違い過ぎる。

 相手は戦い慣れていて温室で育った我々とは格が違う。


 首都の防衛部隊はぶっちゃけた話、数はいるが士気は低い。

 理由は単純に最前線に行くのが嫌な連中の集まりだと言う話を聞いている。

 あまり期待しない方がいいかも知れない。


 そんな時だった。


 空中戦艦が現れたのは。

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