弟子・朝田 ユウキの物語
Side 闇乃 影司
闇乃 影司は色々と肩書きは多いが、現在は天照学園の高校一年生。(最終学歴が高一中退であるため)
同時に天照学園悪の組織部の4番隊隊長だったり、WINやフェアリーフォースなどのヒーローチームなどに協力したりしている。
「僕を弟子にしてください!! 強くなりたいんです!!」
そんな彼の前に弟子になりたいと言う命知らずが現れた。
名を朝田 ユウキ。
青味掛かった黒髪でふんわりとしたボブカットのヘアースタイル。
黄色い瞳。
中性的な可愛らしい顔立ち。
華奢な体つき。
所為、男の娘と言う奴だった。
影司は様々な男の娘を見て来て、自分も男の娘の類であるが、正直言うと驚いた。
「どうして俺なんだ……」
「ダメですか?」
影司は頭を抱えた。
まあ部員を鍛えたりしてるんで「取り合えず、特別扱いは無しだからな」とだけ念押しして他の悪の組織の部員と一緒に鍛える事にした。
理由を聞くとなんだかんだで面倒見てしまいそうだし、ちょっと突き放して様子を見る事にしたのだ。
☆
強くなるには様々な方法がある。
これと言った順番はない。
大雑把に――
基礎的な鍛錬。
気や魔力のコントロール、様々な武術、技を身に着ける。
様々な属性の闘気を身に纏う、闘威。
武の極地、明鏡止水(スーパー化とも言う)。
神の力を纏う神威、その真逆である謎の炎。
などが代表的である。
普通の人間なら気のコントロールを会得するだけでも十分達人の域だ。
さらに闘威、スーパー化に至れるのは天才と呼ばれる人種でも難しい。
神威などもはや天才中の天才のそのまた天才レベルの領域である。
もっとも地球に襲来する敵のレベルのインフレが激しく、それに合わせて神威も明鏡止水の習得もバーゲンセール化している節があるが……
悪の組織部の鍛錬では初歩的な気のコントロールと基礎的な武術を中心に教えている。
それ以降の段階まで行くと部員が潰れかねないからだ。
朝田 ユウキはまだ始めたばかりではあるが、影司の弟子になりたいと言う意気込みはあるのか悪の組織部の練習に食らいついていた。
だがここから先どうなるかは分からない。
(てっとり早く確かめてみるか)
朝田 ユウキを呼び出し、真意を問いただすことにした。
☆
近くのファミレスであるがまあ問題ないだろう。
軽く圧迫面接染みた部分もあるが、影司としては致し方ない。
「で? 僕はお眼鏡に叶いました?」
「いいや。正直まだ判断がつかない」
「はあ……」
「大体強くなりたいなら他に幾らでも候補はいるだろう」
「でも、この機会を逃すと永遠に来ない気がして。闇乃さんって彼方此方世界を飛び回って学園を留守にしている事多いじゃないですか」
「まあそれはそうなんだが……肝心の強くなりたい理由だ」
「影司さんみたいになりたいって理由じゃダメですか?」
「テメェふざけんなよ……俺の何を知ってるんだ……」
影司はこうしてファミレスでノンビリと出来ているだけでも奇跡のような人生を歩んでいるのだ。
なのにそれに憧れているのだ。
軽く殺気を出して威圧した。
「恐いところはあるけど、とても優しくて強くて――皆、なんだかんだで面倒見は良いって言ってましたよ」
「は?」
そう言われて影司はキョトンとなった。
「あと、悪者ぶってるけどそれも大体演技だとか厳しく当たる時もあるけど大体はそれも優しさの裏返しだって言ってました」
「そ、それは誰から聞いたのかは後にして本題からずれてるぞ」
「そうでしたね。強くなりたい理由ですけど――本音を言えば男らしくなりたいかなってのもあるし、それにこんな世の中だし誰かを守る強くを身に着けたいなと思ってるんです」
「男らしくなりたいと、誰かを守る強さを身に着けたいな……まあ嘘はつこうとしない点は評価してやる。過去に何があった」
影司はより深く問い質す事にした。
少し顔を暗くしながらユウキは言った。
「天照学園はともかく地方ではまだまだ復興が進んでいないところは沢山あります。その原因になった侵略者達の前では――優しさとか思いやりとかだけでは無力なんです」
「……確かにこの二年近くは敵を倒したら新たな敵が現れてって感じだしな」
「はい。僕は元々天照学園の人間じゃなくて、いわゆる外部からの避難民なんです――」
☆
話を纏めると朝田 ユウキは元々は天照学園の外で芸能人、男の娘アイドル的な活動をしていたらしく、今も生活費を稼ぐために続けているらしい。
先に語った男らしくなりたいと言う理由はこの辺りにあるんだろう。
だが本当の理由は――地球に襲来した数々の侵略の手に晒されて星の数程ある悲劇に巻き込まれて地獄を見たと言う感じとみて間違いはない。
それを聞き終えた後、闇乃 影司は朝田 ユウキを修行場に案内した。
ガラス球に包まれた自然豊かなヨーロッパのお城風の建物があるジオラマの中に入り込む。
ここは一種の魔法空間で――例えるなら、ネ○まのダイ○ラマ魔法球。
大魔法使い、メディリア・エーゼンゲールの師事の元制作したマジックアイテムだ。
ここでの一か月が現実世界ではたったの一時間。
一年いても現実世界では十二時間の計算だ。
そこで朝田 ユウキをミッチリ扱いてみる事にしたのだ。
☆
朝田 ユウキが二、三日もしないウチにダウンしたのは想定内だった。
影司がそうなるようにしむけたからだ。
だが異常だったのはまるで壊れた機械のように。
涙を堪えて立ち上がろうとすることだ。
「改めて問うぞ。どうしてそこまでして強くなりたいんだ」
「……まだ僕は死んでないんです」
「……」
朝田 ユウキは地を這うようにして涙を堪えて苦悶を押し殺し、立ち上がろうとする。
「もうイヤなんです。手を伸ばす距離にいるのに手が届かないのは」
「神にでもなるつもりか? 救えない時は救えない。例え俺でもそうだった」
「でも、人を救うには強さが必要なんです!」
影司はぶん殴った。
「バカ野郎!! その果てに待ってるのは人間を捨てて人を救うだけのマシーンになる道だ!! そうなったらお前が救われないだろう!! そんな自己犠牲の人生なんてのは幾ら称賛を浴びようが呪われた人生に変わりはないんだよ!!」
「――それでも、もう手を差し伸べる事を諦めたくない!!」
「……チッ、本物の大馬鹿野郎だなお前は。ヒーロー部の連中とか悪の組織部の連中も大概だが……どうしてこうバカが集まるのかね」
闇乃 影司自身、どう判断して良いのか分からなかったがこれだけは言っておいた。
「取り合えず今日のところは休め。それと――」
「なんですか?」
殺気を含ませながら影司はユウキにこう言った。
「もしもお前が道を間違えたと思ったら、その時は俺が責任を取って殺してやる」
「は、はい!!」
「どうして嬉しそうなんだお前は――」
☆
場所を移し、クイーンパレス号。
高級ホテルのようなイザベラの私室。
そこで朝田 ユウキはイザベラ・ペンテシレイアやミサキ・ブレーデルと同じテーブルに座っていた。
そして闇乃 影司は遠巻きにその様子を眺めていた。
「酷い事するわね。こんな可愛いボウヤに酷い仕打ちしてまで真意を確かめるなんて」
とミサキが言う。
「だが生半可な覚悟で弟子入りして欲しくなかったんだろう」
弁護するようにイザベラが言う。
美女二人に挟まれた朝田 ユウキは顔を真っ赤にして緊張して上手く言葉を発せずにいた。
「師匠って何時もこんな感じの暮らししてるんですか?」
「そうよ、あなたの師匠はアナタの前じゃどうか知らないけどベッドの上じゃとても可愛いのよ?」
ミサキがおちょくるように言うと面白いようにユウキは顔を真っ赤にした。
「しかし影司はやっぱりと言うか面倒見が良くて優しいんだな」
「ふん――」
イザベラに言われて影司は顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
朝田 ユウキをこうして休息がてらクイーンパレスに連れ込んだのは弟子と師匠の間柄になった以上、何かしらの遠からず関わる事は目に見えているからだ。
なら早いウチにと思って連れて来たら朝田 ユウキはその容姿と闇乃 影司の弟子と言う肩書きもあって、あっと言う間に馴染んでしまった。
これは闇乃 影司にとっても想定外だった。
(まあ今ぐらいは楽しませてやるか)
と思う事にした闇乃 影司だった。
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