第22話 空白期間
しばらく沈黙が部屋に広がる。 心臓が時計の秒針のように沈黙を刻む。
「会ったんだろ?」
喉から押し出すようにたっちゃんは言った。
たっちゃんはもう、 たっちゃんのママとはあれから会っていないのかもしれない。 もしくは、 新しいお母さんがいたりするのかもしれない。
「変わってなかったかな。 元気そうにお店で働いてた。 あとたっちゃんの妹もいたよ。 可愛い看板娘なんやって」
たっちゃんがグラスを見つめたまま瞬きをした。
「へえ、 そうなんだ。 女の子なんだ」
たっちゃんの声が少し震えている。
「何で、 たっちゃんちはバラバラになったんかな」
誰かに言わされているみたいに、 俺の口からスルスルと言葉が出た。
「たっちゃんのママはいつも優しかったし、 赤ちゃんだって……」
「妹じゃない」
たっちゃんが低い声で言い放った。
「へ?」
俺の背中に残っていた汗が冷たく滑り落ちる。
「いや。 ごめん。 もう俺は父さんと二人家族やと思ってるから」
たっちゃんが話を続ける。
「俺にもさ、 あの時の事は詳しく分かんないけどさ。 なんかあったんだろ。
最初は、 何で父さんはママを追いかけないだよって腹立ってたけどさ、 途中で、 あの人が自分から出て行ったのかって気づいてさ。
それからやっと、 ああ俺は捨てられたんだなーって思っちゃったら、 今度はあの人の方に腹が立ってきちゃってさ。
二人暮らしになって、 父さんは仕事も忙しいのに俺の事も家の事もちゃんとやってくれてさ。 俺もなるべく迷惑かけないようにしようとは思ってて」
たっちゃんはかけていた眼鏡を外して、 Tシャツの裾でレンズを拭いた。
「一回だけ、 あの人から電話かかって来たんだよね。 俺が中三の時だったかなー。 俺の誕生日の夕方に。 驚きすぎてほとんど会話覚えてないんだけど、 最後に言われたのが、 元気でね、 幸せになってねって言葉だけ覚えてる……」
「うん」
俺は話の先を促した。
「そん時、 なんか分かんないけど、 突き放された気がしたんだ。
その少し前にも、 父さんに自分の人生なんだから、 自分で考えなきゃなって言われたりしててさ。 進路相談とかの時期だったのかな。
それに対して俺は、 そうだねって言いながらどっか引っかかってて」
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