第20話 混然一体の胸中
マンションの部屋番号を押す。
五秒の間があって、 男の声がした。
「はい」
「あの、 小学校の時一緒だった汐留ヒカルです。 タツヤ君はいますか」
「……。 ひぃ?」
男の声が懐かしさをまとって俺を呼んだ。
「たっちゃん……?」
「え、 あ、 ちょっと待ってて。 下行くわ」
俺は、 いつの間にかくたくたになっていた紙袋の紐をグッと握り直した。
程なくエレベーターのドアが開いて男の人が出てきた。
短く切った黒髪と、 すらっとした体型で背も高い。 少し灼けた肌に白いTシャツが良く映えている。 でも、 一番目を引いたのは眼鏡だった。 黒目がちな目を焦げ茶色の淵が囲む。
その男はまっすぐに俺を見つめてこちらへ向かってくる。 間違いない。
「たっちゃん…… ?」
興奮で声が上ずる。
「ひぃ…… ? 何で?」
低い声でたっちゃんが聞いた。
「あの、 たっちゃんの事知ってる人に偶然会ってな。 それで、 懐かしくなって会いに来てみた。 ほら、 お土産も」
言ってしまってから後悔した。 誤魔化してもばれてしまうのに。 このお土産が決定的だ。
「それって……」
「あ、 うん。 たっちゃんの……」
「なんで。 あの人になんか言われた?」
たっちゃんの目が吸い込まれるように細くなり、 黒目は光を無くしていた。
「いや、 なんも言われてない。 最初に会ったのは本当にたまたま俺が見かけて。 それで今日、 もう一度会いに行って。 そしたらお土産くれて。 たっちゃんの事も教えてくれて」
焦って話せば話すほど、 事実が嘘の顔をし始める。
「じゃあ、 なんで? わざわざそれ届けるためだけに来たって事?」
「いや、 たっちゃんに会って、 話したいことがあって来た」
たっちゃんは腑に落ちないといった表情で、 ため息をついた。
後ろの自動ドアから買い物袋を下げた女性と子供が入って来る。 続けて女子中学生も入って来た。
「俺ん家上がってく? 話あんだろ」
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