第2話 ただできる事を

 古めかしさを感じる灰色の石塀に囲まれた門を通って玄関に入る。 昔ながらの家だから、インターホンなんてついてない。


 「ただいまー」


 引き戸を開けて玄関に入ると、 和室の障子がスッと開いてクーラーの冷たい空気が流れてきた。


 「お帰り、 ひぃちゃん」


 「ばあちゃん、 ただいま。 母さんは? 」


 「今日はパートが昼までやから、もう少ししたら帰ってくるよ。 昼ご飯は机の上に焼きそば作ってるから、 ハナちゃん帰って来たら一緒に食べて」


 そっか。母さんは、今日パン屋でパートだった。


 「ただいま。 あー、 暑かったー」


 「あぁら、 ハナちゃんちょうど帰って来たね」


と言って、 おばあちゃんはさっき言ったことをもう一度姉ちゃんに話していた。 

 僕はそそくさと台所へ行き焼きそばを持ってばあちゃんとじいちゃんの部屋へ行った。 お姉ちゃんがぶつぶつ言っていたけれど、 わざわざ聞き返すために蒸し暑い廊下へ出る気はない。


 「ばあちゃんは、 食べんの?」


 確か焼きそばは、四人分あった。 


 「今はいいわ。 お腹空かないんよ。 じいちゃんもまだ寝てるしね」


 じいちゃんは最近起き上がるのもしんどいみたいで、 今日もこの部屋に布団をひいて眠っていた。


 僕はじいちゃんのお腹当たりの掛け布団をじっと見ていた。 じっと見ているとゆっくり上下しているのが分かって、 ほっとする。 それほど、じいちゃんはギリギリな気がした。 気を抜くと、コロンと落ちていってしまうような。

 

 本当はこんなこと考えたくないのに、 頭に浮かんできてしまう自分が嫌だ。 

 僕はまたいつものように頭の中で消しゴムを振り回す。 そしてまたおじいちゃんの呼吸を確かめて心を落ち着かせる。 


 そんな僕をばあちゃんは分かっていてくれている気がする。 母さんはじいちゃんが休んでいるから部屋に入っちゃいけないって言うけど、 おばあちゃんは入れてくれるから。 


 ばあちゃんはじいちゃんが寝ている横で、 静かに本を読んでいた。


 僕は太ももの上に乗せたままだったぬるい焼きそばをほおばり始めた。


 「ばあちゃん、 何読んでんの?」


 「ああ。 料理の本をねえ。 じいちゃんがなーんか食べれんかなぁ思って」


 「ふーん」


 「料理見るだけでも、 なんか色々思い出すことがあって だめやね」


 おばあちゃんはそう言って眼鏡を外し、本を閉じた。 


 僕は無言で焼きそばをズルズルとすすり、 顎を動かすことに集中した。


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