母親の思い出の味……ある青年の告白〔猟奇マザーホラー〕

 とある青年に彼女が出来た。

 青年の彼女の関係はデートを重ねるたびに親密さを増していき、数ヶ月後には二人でホテルに入るまでになった。


 そんな関係が深まってきた時──青年が彼女に言った。

「乳首をナメさせてくれないか……確かめたいんだ」

 恥ずかしく思いながらも彼女は、青年の前に自分も乳房を露出させた。

 青年は交互に二つの乳首を口に含んで、軽く吸うような仕草をすると悲しそうな顔で呟いた。

「違う……母親の味とは違う」


 乳首を吸った直後に、青年が漏らした言葉の意味がわからなかった彼女だったが。

 気になってネットで過去に起こった事件を調べていて、青年が呟いた言葉の意味が判明した。


 青年が乳児だった頃──赤ん坊だった青年は、シングルマザーの母親とアパートで二人暮らしだった。

 ある日──授乳中に母親が亡くなった。

 母親の死を知らない乳児だった青年は、死んだ母親の母乳を吸った。

 やがて、母乳も出なくなると、今度は滲み出てきた腐汁を青年は乳だと思って吸い続けた。


 アパートから赤ん坊だった青年が発見されたのは、母親の死後一ヶ月が過ぎた頃に、管理人が警察官と一緒に合鍵で入室した時だった。

 死臭が充満する室内で、腐汁を吸って生き続けた赤ん坊は保護され。

 施設で育てられた。


 その事実を知った彼女は特別な目で、青年を見て考えるようになった。

(もしかして、あたしが死んだら、彼はあたしの腐った汁を喜んで吸ってくれるのかな?)

 恍惚とした表情で微笑む彼女。


 自殺願望がある彼女にとって、青年は巡り合った最高の恋人だった。


【解説】

 自殺願望がある彼女にとって、死後も大切に扱ってくれる彼氏は。すでに常人には理解できない最高の彼氏なのかも知れない。

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