ショートストーリー【ちょいホラー&ちょいホラー寄りのSF】

楠本恵士

絞死刑台を見上げて笑う殺人鬼〔未来予知社会派ホラー〕

「ずいぶんと、長い階段なんですね……絞死刑台の階段って」

 極刑が執行されるその日──女は死の階段を眺めて微笑んだ。

 弁護人の弁護も拒否して、動機も語らず。

 ただ、罪状を認めて。

「はい、確かにわたしが多くの子供を殺しました」

 その事実だけを、淡々と認める女。

 大罪を犯したとは思えないほど、一貫して冷静な女囚に死刑の担当者も首をかしげるのと同時に、薄っすら寒ささえ感じていた。


 女が近くに立つ、刑の執行官に訊ねた。

「わたしが逮捕された……あの最後に公園で首を締めて殺害未遂になった乳児はどうなりましたか? もうすぐ死にますから教えてくれてもいいでしょう」

「無事に両親と一緒に過ごしている」

「そうですか……残念」

 執行官は女の美しい横顔を、気味悪そうに眺めた。


 精神鑑定でも、正常な精神と鑑定され。

 責任能力ありから、死刑確定まで、それほど日数はかからなかった。

 社会を震撼させた連続児童殺害事件。

 連続殺人鬼の逮捕に世の中の親と子供は安堵した。


 女が標的にして殺した子供の年齢も、性別も地域もバラバラだった。

 下は乳幼児から上は小学生の年齢までを、標的ターゲットにして殺害した。


 取調官の

「なぜ、中学生以上の児童は狙わなかった?」

 の質問に女は淡々とした口調で。

「だって、その年齢になると体力もついてきて、殺す時に抵抗されるでしょう」

 そう答えて、連日ニュースとして取り上げたワイド番組の視聴者や、週刊誌の購読者を恐怖させた。


 刑が執行される時刻が近づいた時──執行官が言った。

「どうしてもに落ちない……記録には残さないので、ここにいる者の心の中だけに留めておくから、真相を語ってくれないか……子供を殺し続けた真の動機と目的を」


 連続殺人鬼の女が、少しタメ息混じりの笑みを浮かべながら言った。

「いいでしょう、このまま死の国まで持っていくつもりでしたが……あなたは、ファストフード店やスーパーマーケットで動物のような奇声を店内に響かせて騒いでいる、子供ガキを見てどう思います」

「多少はうるさいなと……」


「そうですね、それが普通の感覚です……騒ぐガキに殺意を抱いたコトはありますか?」

「いや、そこまでは」

「あたしは頻繁ひんぱんにありました……殺してやりたい子供ガキが多すぎて……最初はその気持ちを抑えていたのですが、やがてそれが未来視だったと気づきました」

「未来視?」

「あたしには、子供の未来が見えていたんです……あたしが殺意を抱いた、子供は未来に人を殺す人間になる……だから殺しました」

「そんなコトが」


 連続児童殺人者の女は、晴れ晴れとした顔で階段を登りはじめた。

 登りながら女が言った。

「ただ一つの心残りなのは、最後に殺しそこねたベビーカーの中にいた乳幼児です……あの子は、要注意で観察してください。成長したらとんでもない大量殺人鬼になりますから」


 そして、女は絞死刑の極刑でこの世を去った。


 数十年後──女の言葉は真実だったと、判明した。

 殺害を免れた乳幼児は、成長してテロリストになり。

 同時多発テロの一つで、巨大ダムにセスナ機で突っ込む自爆テロを決行して。

 下流の市町村を決壊したダムの濁流で呑み込み、史上最悪の人為災害を引き起こした。


【解説】ファストフード店やスーパーマーケットで動物のような奇声を発して騒ぐ、お子さんに自分も殺意を抱くコトは多々あります。

その殺意が実は未来予測の一つだとしたら?

成長してもロクな大人にしかならない、お子さんガキだと……予めわかってしまったとしたら。どうしますか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る