殺人マッサージ機〔日常ホラー〕

 車輪付きの最新AI内蔵の赤いマッサージチェアが郊外の市道を激走していた。


 マッサージチェアには、白目を剥き意識を失った中年男性が、椅子に拘束され 首の骨が折れた口からは血の混じった泡が噴き出している。

 マッサージチェアが男性の体をマッサージするたびに、裂けた皮膚から脂肪が混じった鮮血が、噴水のようにほとばしっていた。


  ◇◇◇◇◇◇


 数時間前──中年男性はアパートの部屋に届いた、大荷物の段ボール箱を開封して、中に入っていた最新のマッサージチェアを引っ張り出して部屋の中央に置いた。

 簡易な説明書だけに男性は目を通す。

「なになに、電源は軌道衛星からの送信エネルギーによる自動充電式。半永久的に活動可能……車輪内蔵で移動も簡単、すげえ」

 男性が座ると、感知して自動で電源が入った。


「さすがAI内蔵の最新型だな……これが、リクライニング。マッサージの強弱は、マッサージを希望する者の身体疲労度を自動で読み取ってくれるのか……早速、動かしてみるか」


 男性がメインスイッチを入れると、疲労度を読み取ったマッサージ機が快適な強さのマッサージを開始した。


「こりゃ、気持ちいぃ……このボタンとダイヤルはなんだ?」

 ヘッドマッサージをされながら男はコントローラーを、いろいろといじくってみる。

 男性はトリセツをロクに読まないで、とりあえず操作してみるタイプの人間だった。


 マッサージモードや、強弱が目まぐるしく変化する。ストレッチモードで首や足や体を伸ばされたりして悲鳴を発する男。

「おぉ、いててて……緊急停止ボタンは?どれだぁ」

 男はメチャクチャにボタンを押して、最後に赤いボタンを押した。


 マッサージチェアの中から、ガタッガタッという音が聞こえ。

AI内蔵の高性能マッサージチェアは沈黙した。

「止まったのはいいけれど、今度は壊れたかな?買ったばかりなのに」


 すると、音声合成された声がマッサージチェアから聞こえてきた。

『データの書き換え完了しました……これより再起動します』


 モーター音がマッサージチェアから響き、男の体が空気マットのエアマッサージで拘束される。

「う、動けない……うっ」

 ストレッチで引き伸ばされる首、締め付けられた頭から頭蓋骨がメリッメリッと悲鳴を発する。

 連続した強打や、肉が骨から剥がされるほどの強さの揉みをされる男の体。


 それはもう、マッサージチェアではなく拷問機だった。

「ぐあぁぁ!」

 痛みに意識を失った男の体に、緊急処置の蘇生電流が流されて男の体がビクッビクッと痙攣しながら、床に血を撒き散らしす。


 やがて、マッサージチェアから収納されていた車輪が出てきた。

『蘇生失敗……外で死体を排出して別の疲労した生体を探してマッサージします』


 人工衛星からの通信エネルギーを大量に得るためにAI内蔵のマッサージチェアは、死んだ男の体を座らせたまま、アパートのドアを勢いよく突き破り、階段を走り降りて郊外の市道へと走っていった。


 死体を乗せたまま激走してきた、マッサージチェアは向こうからスマホ画面を見ながら歩いてくる女子高校生を発見した。


『測定、かなりの疲労物質蓄積を確認……彼女をマッサージします』


 死んだ中年男性の体は、前方の路上に排出された。

 恐怖に顔を歪めた女子高校生が、血まみれなマッサージチェアひ背を向けて逃げ出す。


 疾走してきた悪魔のマッサージチェアは、そのまま女子高校生を拘束して恐怖のマッサージを開始した。

「うぐぐぐっ?」

 ストレッチで引き伸ばされて、首の骨が外れ。女子高校生の体からベキッボキッと骨が砕ける音が、疾走する最新マッサージチェアのから聞こえた。


  ~おわり~


【解説】わたしがよく行く場所に、マッサージチェアが購入されました。

機械は人間と違って強弱の細かい融通が効きません。

「ぎゃあぁぁぁ!それ痛い!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る