殺した彼女とデートする〔不条理ホラー〕

「おはよう♪ 今日は、どこでデートするの?」

 日曜日の朝──同じ時間に彼女はやって来た。

 ベットでパジャマ姿で寝ていたボクは、眠い目を擦って答える。


「今日も晴天だから、遊園地かな」

「じゅあ、早く早く着替えて行こう♪」

 ボクは昨日と同じように顔を洗い、歯を磨き、着替えて玄関で待っている彼女と一緒に家を出て遊園地に向かう。


 昨日と同じ人々が乗っている電車とバス、昨日と同じ遊園地。

 ボクは昨日、殺した彼女とデートをする──昨日と同じ、夕暮れまで。


 そして、昨日と同じ長い階段の上で、手すりに腰掛けた彼女は夕日を眺める……昨日と同じように。

 夕日に顔を染めながら彼女が言った。

「きれいだね」

 そして、運命の時刻……遊園地で時刻を知らせる鐘が鳴り響く。


 ボクは、階段の手すりに座った彼女の体を突き飛ばす……なぜ、大好きな彼女にそんなコトをしてしまったのか、わからない。

 階段を転げ落ちていく彼女……階段の一番下で、奇妙な方向に手足が曲がり、仰向けに倒れている彼女。

 ボクは、昨日と同じように絶叫して泣いた。

 そして、ボクの周囲の景色が絵の具を掻き回すみたいにグルグルと、溶け合って真っ黒くなった世界で……ボクの意識は途切れた。


 朝──目覚ましの音でボクは目覚める、日付は昨日と同じ日曜日。

 昨日と同じ時刻に、彼女は家にやって来て言った。

「おはよう♪ 今日はどこでデートするの?」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 白い隔離病棟に、今日もその女性はやって来た。

 頭に包帯を巻いて、片目に眼帯をして、包帯を巻いた片腕を三角布で肩から吊るした女性は、松葉杖で不自由な足をいたわりながら。

 ある病室の前まで来て立ち止まる。


 ドア柵と強化ガラスの向こう側に見える病室の中には、拘束具姿の男性が椅子に座ってブツブツ呟いているのが見えた。

 男性……男子高校生は。

「また、日曜日が来る……殺した彼女が笑顔で遊園地デートの誘いに来る……あ─────っ!」


 絶叫して暴れる男子生徒を、病室の前に立つ女性……男子生徒の彼女の横にやって来た主治医が言った。

「ああやって、拘束しておかないと壁に頭をぶつけて暴れるんです……今だに彼は、自分があなたを殺したと思い込んでいる」


 あの日──夕暮れの遊園地、階段の上で貧血を起こした彼女は、階段を転落した。

 大ケガはしたが、命は助かった。

 だが、近くにいた男子生徒の彼氏は、バランスを失い転落していく彼女に手を伸ばしたが……助けるコトはできなかった。


 彼女が言った。

「助けようとしたのに、助けられなかったショックが……自分が突き落としたと記憶を書き換えて、ずっと自分自身に自責の罰を与えて苦しみ続けているんです……」


 あの日の日曜日から、男子生徒の時間は止まり……同じ日を脳内で繰り返している。

「苦しみから逃れるために、あたしを殺して終わらせたい……でも、それは」

 彼女の目から涙がこぼれる。


 終わらない脳内で繰り返される日曜日の惨劇。

 この二人に幸せが訪れるコトは……永遠になかった。


  ~おわり~


【解説】何度、殺しても次の日になると現れて明るくデートをする彼女……理由も原因もわからない恐怖、脳内に生じた矛盾。

 カレンダーの日付は変わらず、繰り返される一日……それは、真の恐怖かも知れない。


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