○○さんは美人だけれど間違いなく死体です〔学園コミカルホラー〕

 ボクが通う高校のクラスには、○○さんと言う美人の女子生徒がいる。


 ○○さんの肌が、灰色と緑が混じった。ちょっと変わった肌色をしているコトを除けば。

 清楚で無口で控え目な○○さんは、学年でも人気でアイドル的な存在だった。


 ○○さんは、授業中も瞬きもしないで前方を見ている。

 その日も、○○さんは椅子に座ったままの、身動きもせずに授業を受けている。

 時々、首の関節が柔らかくなっている○○さんの首がカクッと前に倒れると、すかさず後ろの席の女子が○○さんの首を上げさせて前方に向ける。


 ○○さんの首は、なぜか赤ちゃんの首みたいに座っていなくて、前後左右に時々動く。

 その日、授業中に○○さんが座っている席で、何かが倒れる音が聞こえた。

 見ると椅子に座ったままの格好で、○○さんが横臥した格好で床に両目を開けたまま倒れていた。

 ○○さんの後ろの席の女子生徒が言った。

「先生、また○○さんが倒れました」

 ホワイトボードに文字を書いていた担任の男性教諭が、呆れた表情で言った。

「またかぁ、保健委員の二人。死んでいる○○さんを、いつものように保健室に連れて行きなさい」

 保健委員のボクと、同じクラスの保健委員の女子生徒が、倒れた○○さんの体を両側から支えて立たせて、肩に○○さんの腕を回して担ぐ。

 ひんやりとした死体の感覚。うつ向いたままの○○さんの体を両側から肩で支える格好で。

 ボクたちは、教室を出て保健室に、両側から支えた○○さんの足先を引きずる格好で廊下を進んで保健室に向かった。


 保健室のドアを開けると、白衣コートを着た若い女性の保険医先生がいた。

 ○○さんの腕を肩に回して、死体を運んできたボクが保健室の先生に言った。

「すみません、授業中に○○さん、椅子に座っていて倒れました」


「あらあら、また○○さん? そこのベットに寝かせて」

 言われた通りに○○さんの死体を、パイプベットに寝かせると。

 医師免許も持っている保健室の先生が、○○さんの胸元に聴診器の先を当てて、ペンライトで○○さんの瞳孔反応を確認したり、口に体温計をくわえさせたりする。

「心音なし、脈もなし、体温もなし、瞳孔反応もなし……間違いなく死んでいるわね」


 ○○さんの体は、変色はしてはいるけれど。腐敗して異臭を放つコトも、乾燥してミイラ化するコトも、白骨化するコトもない。

 むしろ、死んだ○○さんの体からはフルーティな香りが漂う。

 ○○さんの体を診察して死亡を確認した、保健医の先生が言った。

「それにしても、いったいどんな薬物を飲むと、こんな感じになるのかしら?」


 ○○さんは、ネットか何かの方法で、どこかの国の怪しげな呪術師が配合した、怪しげな薬を購入して飲んで死んだらしい──遺書は無かったが、残された一枚の紙には『学校に行きたい』とだけ書かれていて。

 ○○さんの意思を尊重した家族の意向で、○○さんは死んでからも学校に通っている。


 保険医の先生が、洗濯物ハンガーに吊り下げられている、女性下着を指差して言った。

「ついでだから、○○さんの下着を交換しちゃおうか……男子は保健室から出た出た」


 ボクは保健室前の通路へと出て、○○さんの下着が交換されるのを待った。

 数十分後──○○さんの下着を交換したから、保健室に入っていいとの許しが出て、ボクは保健室に入る。

 保健医の先生が、交換した○○さんの下着が入った、ランドリーバスケットを部屋の奥に運びながら言った。

「○○さんの下着はこちらで、いつものように洗っておくから……今日は○○さんを連れて、早退しなさい……担任と○○さんの家の方には、あたしから伝えておくから」


 ボクと保健委員の女子生徒は、○○さんの死体を両側から支えて、○○さんの家へと向かった。

 いつも、引きずられている○○さんのスニーカーの先端は擦れている。

 ボクたちは、○○さんの家族が特別に作った。

板に車輪が付いたモノの上に○○さんの足を乗せて運ぶ。


 ○○さんを運んでいる保健委員の女子生徒が、毎日の送り迎えに不満を漏らす。

「○○さんも、たまには自分の足で歩いてよ」

「ムチャ言うなよ、○○さんは死んでいるんだから……それにしても、○○さんの体って、ひんやりしているな」


 しばらく進むと、また女子生徒が不満を漏らしはじめた。

「○○さん重いよ、最近少し死後硬直していない? あたしたち、死体を運ぶ、こんな作業を繰り返せばいいの? さっさと火葬や土葬にしちゃえばいいのに」

「酷いことを言うなよ……○○さんはクラスメイトなんだから、ほらっ○○さんの家に到着した」


 ○○さんの家のチャイムを鳴らしても誰も外に出てこない。

「留守かな?」

「もう、玄関に置いて帰っちゃおうよ」

 ボクたちは、死後硬直している○○さんの手足を動かして関節をほぐすと、そのまま○○さんを放置して帰った。


 ○○さんの家と学校を、美人な死体の○○さんを運んでいる往復する日々の中──学校が長期の休みに突入する前日。死体を運んでいるボクは、○○さんの体の異変に気づいた。

「あれっ? ○○さんの体……体温あるんじゃない? これって発酵? じゃないよね」

 気のせいか○○さんの顔色が、良くなっているように見えた。

「今、ドクッて心臓の鼓動が聞こえた……○○さん生き返りはじめている!?」


 長期休み明け──生き返った○○さんは、元気に自分の足で歩いて登校してきた。

「みなさん、ご迷惑をお掛けしました……興味本意で変な薬を飲んでしまったために」

「もう大丈夫なの? ○○さん」

「はい、すっかり元気です」


 ○○さんが席について、先生の話しの数分後──ガタッという、○○さんが横臥で倒れる音が聞こえた。

 すかさず、○○さんの後方の席にいる女子生徒が言った。

「先生、○○さんがまた死にました」


  ~おわり~


【説明】生きている集団の中に、一人だけ死んだ人がいると大変です。

 それが腐敗も乾燥もしない美人な死体だったら、なおさら。

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