パワースポット〔ホラー〕

 最近、不仲になりつつあった彼氏から、久し振りにデートに誘われた。


 潮騒が聞こえる、海岸道路を彼氏が運転するオープンカーの助手席で、あたしは海岸線の景色を眺める。

 無言で運転する彼氏──気まずい雰囲気が続く。

 オープンカーは海岸から離れた横道へと入り、山道へと向かう。

 周辺の人家も無くなり、日中でも薄暗い寂しく曲がりくねった道、ガードレールには過去に車が衝突した痕跡が残る……運転席でハンドルを握った、彼氏が吐き捨てるような口調で言った。

「この先に、穴場の『パワースポット』がある」


 やがて、車は山の谷間にある、木製で黒く塗られた高さい三メートルほどの鳥居が目の前にある。

 車が数台しか駐車できない場所に駐車した。

 珍しい黒い鳥居の向こうには、石積みの階段が続いている。


 車から降りたあたしが、変わった鳥居を眺めていると。石段に向かって歩き出した彼氏が言った。

「『パワースポット』は、この上だ」

 数分後──石段は駐車場よりは少しだけ広い、拓けた場所に到達した。

 漆で漆黒に塗られたほこらがあった。

 あたしは、拓けた場所の周囲を見回して驚く。

 周囲の木の幹には、人名が墨字で書かれた木の板がびっしりと、釘で打ち付けられていた。


(変わった形の板が……)

 板の上部の角は斜めにに切り取られていて、数十センチほど下がった板の左右に三角形の切り込みが入れられていた。

 人名が書かれた板の切り込みが入れられた箇所は、まるで人の頭のようにも見える。


 比較的新しい板があれば、釘が赤く錆びて腐って変色した古い板もあった。

 彼氏が言った。

「このパワースポットで強く願えば、願いが叶う」

 彼氏は、あたしに爪切りを手渡して言った。

「本人が、その場で切ったり、抜いた爪と髪があれば、より強い効果があって願いが叶う」

 あたしは、少し伸びていた爪を切り、抜いた数本の髪を彼氏に渡す。

 あたしから受け取った、彼氏は用意してあった。あたしの名前が墨字で書かれた板を取り出すと。

 爪と髪を粘土に塗り込めて、板の裏側に塗って張りつけた。


 チラッと見えた板の裏側には横線と、線の下に『夕』の文字が見えた。

 彼氏は、あたしの名前が書かれた板を木の幹に、ハンマーを持って太い釘で打ちつける。釘の頭は切断されていて簡単には抜けないようになっていた。


 あたしは、彼氏が「打ち付けるまで、板を押さえていろ」と言ったので協力して板を押さえた。

 打ち付け終えた彼氏が言った。

「これで、強く願えばパワースポットの力で願いが叶う」

 あたしは、自分の名前が書かれた板に向かって、両手を合わせて願う。

(彼氏との関係が修復して、元の優しい彼氏にもどりますように)

 彼氏も、あたしと一緒に願ってくれた。


 数日後──あたし体は、原因不明の悪性腫瘍に蝕まれた。


 あたしから、遅れて二ヶ月後──彼氏も、あたしと同じ原因不明の悪性腫瘍が、臓器に転移しているコトが判明した。


 あたしと彼氏が同じ悪性腫瘍で入院治療……ある意味、パワースポットでの、あたしの願いは叶った。


  ~おわり~


【説明】パワースポット……それが、すべて良いパワーを与えてくれる幸運なスポットだとは限らない。

 邪悪な呪いのパワースポットも、世界のどこかには。

 彼女は、彼氏との関係の回復を願ったが……彼氏が願っていたのは?


 彼女と彼氏の体を蝕みはじめた悪性腫瘍が、呪われたパワースポットと関係している?

「人を呪わば穴〔墓穴〕二つ」

 呪いのパワースポットの正体は高濃度の放射性岩石かも知れない?

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