笑顔のままで……〔メディカルホラー〕

(不幸だ、オレはいつも不幸だ)

 生まれた時から、いつも沈んだ表情で、出会った人に悲愴を感じさせる男がいた。

 顔の筋肉が暗い表情を作り出しているため、男の周囲には陰気な雰囲気が漂っていて。


 男の人生も沈んだ表情が引き寄せているような、男にとって不運と思われる人生だった。

(オレは、どうしてこんなに不幸なんだろう……彼女もいない、働いていても低所得……皮肉なコトに体だけは丈夫で、健康だが……いつも、不安で自信がない未来が見えない人生がこの先も続くのか……そんなのは嫌だ)


 鏡で自分の顔を見るたびに、男の口からはタメ息が漏れて、ますます背中を丸めた姿勢になり、沈んだ表情でうつむき歩く男の姿を見ると誰もが男を避けた。


 男は自分が人から避けられていると感じて、イラつくコトが多くなり、悪循環で男の人生にも、男が不運だと思う出来事が増えてきた。


(こんなのは嫌だ!)

 男は思いきって全財産を使って、顔の筋肉を常に笑顔に保つ整形手術を受けた。

 手術は成功して、男はいつも笑顔を絶やさない明るい表情になった。

「あぁ、清々しい気分だ……笑顔がこんなに良いモノだったとは」


 顔が笑顔になると、男も服装や髪型に気を使うようになり、姿勢も良くなった。

 さらに、メディアが『笑顔整形で幸せをつかんだ男性』として取り上げられると、男はちょっとした人気者になった。


 男は雑誌のインタビューにも応じた。

《すると、あなたは顔の筋肉を笑顔にする整形で、人生が一変したと》

「ええっ、気持ちも明るくなりました……こんなコトなら、もっと早く笑顔に整形するべきでした……他の方にも、ぜひメディアの力で笑顔整形を広めてください」


 世間では笑顔整形がちょっとしたブームになり、町は笑顔で溢れた。

 やがて、男の人気が下火になると、男の存在は忘れ去られた。


 それと同時に、笑顔整形の弊害へいがいも現れ、笑顔が原因での路上や電車内や駅のホームでの口論や傷害事件……恋人や夫婦間の刑事事件にまで発展した。

 笑顔整形が関連した、医療裁判も続発した。


 数ヶ月が経過したある日……部屋で首を吊って死んでいる、最初に笑顔に整形した男の死体が発見された。

 部屋中の鏡が割られ、机の上に残された遺書には一言。

『死にたい』と、だけ書き残されていた。


 首を吊った男の自殺体は笑顔の状態で、ロープから吊られていて。

 男は笑みを浮かべた死に顔で、ひつぎに納められ。

 笑顔のまま、火葬された。


 ~おわり~


【説明】男は笑顔と心がアンバランスだったコトに、耐えられなくなったのかも知れない。

『幸福』と『不幸』は、本人の捉え方次第。

 幸福な笑顔もあれば、不幸な笑顔もある。

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