クトゥルフの妖花〔ホラー〕
女は、旦那の愛を繋ぎ止めたかった。
女は、ネットで噂の女占い師がいる『占い洋館』で、その占い師に観てもらった。
女の運勢を占った占い師が言った。
「残念ながら、旦那さんとの愛情運は、尽きてしまっています……もう、旦那さんは、あなたに愛情を向けるコトは……」
「そこをなんとかしてください、旦那の愛情を繋ぎ止める方法はありませんか? そうだ、子供……旦那とあたしの間に子供さえいれば、旦那の愛を繋ぎ止められる……お金ならいくらでも出しますから」
必死な女の形相を見て、少し考えていた占い師は椅子から立ち上がると、奥の部屋から鉢植えに植えられた奇怪な花を持って現れた。
見たことがない毒々しい蘭に似た花だった。
花の中心からは粘質な蜜が垂れていて。
さらに濃密で、甘美で淫猥な匂いが花から漂っている。
同性を連想させる、女臭に似た香りに、女は顔をしかめる。
妖艶な鉢植え花を、テーブルの上に置いた占い師が言った。
「女性にはキツい匂いですが殿方には、甘美な女性フェロモンの香りです……この鉢植えを、差し上げます。水をあげて枯らさないように世話をしてあげてください……その花が、あなたの望みを叶えてくれます……ただし」
占い師は最終確認をするように、重い口調で女に告げる。
「望みに見合った代償を、払う覚悟があるなら。お持ち帰りください」
女は自宅に、怪しい鉢植えの花を持ち帰った。
旦那は女が占い師のところから持ってきた、薄気味が悪い花を眺めて言った。
「なんだよ、その花……気味が悪いな、捨てちまぇよ!」
女は旦那の言葉を無視して、花に水を与えて世話をしはじめた。
数日が経過した──少しづつ、旦那が花の世話をするように変わってきた。
「二人で水を与え過ぎて、根腐れしたら困るから。交替で花の世話をしないか……お日さまの光りにも浴びせてやらないとな」
旦那が少し優しくなったコトに女は喜んだが、その優しさが自分ではなく、鉢植えの花に向けられているコトに気づく。
女臭が漂う花を愛でて、恍惚とした表情で話しかけている旦那。
「おまえは、本当に可愛いな、おまえの蜜は甘い……水は欲しくないか? もう少し日の光りを浴びさせてやろうか……オレはおまえを守るためなら、なんでもするよ」
仕事も辞めてしまい一日中。鉢植えの花に語りかけている旦那の姿に、耐えきれなくなった女は、ついに怒鳴った。
「花よりも、あたしを見て! そんな変な花の蜜なんかナメないで!」
女は旦那から鉢植えのを奪い、床に叩きつけて壊そうとした。
旦那は怒りの形相で、女を壁に向かって突き飛ばす。
「オレが愛している花に触るな!」
突き飛ばされた女は、後頭部を壁に激突させて、そのまま壁に背もたれて座る形で意識を失った──同時に、鉢植えの花の意識と女の意識が闇の中で入れ替わり。
女は鉢植えの花になった。
そして、花になった女は旦那の愛情を取り戻した。
旦那は花になった女を、心の底から愛してくれた。
壁に激突して座り込んだ、花の意識が入った女の体の方は放置され。
水も食べ物も与えられない体は、衰弱して枯れていった。
女は薄い花の意識の中で、花として旦那に愛されるコトに幸せを感じていた。
(願いが……叶った……あぁぁ)
数日後──鉢植えの花に鈴なり種が実った、その花の種は小さな胎児の形をしていた。
旦那との間に種を実らせた女から花びらが一枚に落ちて、妖花となった女の寿命が幸せの中で尽きた。
【説明】別の次元から迷い混んできた妖花……枯れて残された種を植えれば、また花が咲くのだろうか?
放置された女の体は、やがて枯れるか、腐敗する。壁と床には女が座っていた痕跡の黒いシミだけが残る。
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