以心伝心〔ミステリー・ホラー〕
オレは、その日……妻を結婚記念日に、殺害するコトを決めた。
結婚してから数年──最初は見えていなかった、相手の嫌な部分が少し見えた時から、雪玉が転がるように、それまで気にもしていなかった妻の言動の一つ一つが気に障るようになった。
オレは、会話は実りがあって結論を出したい方だが。
妻は、ただオレと話しがしたいだけらしく、実りが無い、とりとめの無い会話が好きな女だとわかった。
オレは、愛しているなんて心の中で思っているだけで、口には出さなくてもいいと思っていたが……妻は誠意が欲しいらしく、ちゃんと口に出して愛を再確認してもらいたかったらしい。
オレは、社会から認められて誉めてもらいたいが。妻は世間から認めはれて、感謝されたいらしい。
とにかく、さまざまな場面で妻との亀裂が深まってきて、修復不可能な状態になってしまった。
(殺害するのに、たいした動機はいらない……だいたい、人が人を殺害する時の気持ちや動機なんて複雑に絡み合っていて単純に分析できるもんじゃない)
オレは妻を殺害する細かい計画を立てた。
結婚記念日に、自宅で二人だけの、ささやかなパーティーを開くコトを妻に提案をしたら、妻も「ちょうど、あたしも同じコトを考えていた」と同意してくれた。
結婚記念日パーティーをやるコトが決まった──妻は自分の最後の晩餐になるコトを知らない。
殺害用に妻が好きな【白ワイン】を購入して、ワインの中に毒を仕込むコトにした。
オレは【赤ワイン】派なので、以前買って開封済みの、赤ワインを飲む。
妻を毒殺する、少し高価な白ワインの購入は、あの世に旅立つ妻への皮肉の
(妻を殺害したら、すぐに国外に逃亡すればいい。ワインに毒を混入させるタイミングは宅配業者を利用して、指定した時間に妻を玄関に向かわせ、その隙に毒を混入させる)
結婚記念日パーティー当日……妻にとっての最後の晩餐。
テーブルの上の花瓶に花が飾られ、料理が並べられる。
向かい合って着席したオレと妻、憎たらしい妻の顔を見るのもこれが最後だと思うと。
オレの顔は、嬉しさで自然と笑みになる。
何も知らないバカな妻は、嬉しそうに笑みを浮かべている。
オレは、紙袋の中から未開封の白ワインの瓶を取り出して言った。
「実は今日のために、驚かそうと。君が好きなラベルの白ワインを購入したんだ……特別な日のために」
オレがそう言うと、妻は紙袋から、赤ワインの瓶を取り出して言った。
「奇遇ね、あたしもあなたが好きな赤ワインを今日のために買ったの……たまには、こんな贅沢もいいよね」
驚いたコトに妻もオレのために、新しい赤ワインを買っていた。
(まぁいい、開封した赤ワインを味わいながら、もがき苦しみながら死んでいく妻を眺めるのも悪くない)
妻が言った。
「一緒にワインの栓を抜いてみない?」
「それも、いいね」
オレと妻は同時に、白ワインと赤ワインの栓を抜いた。
問題はここからだ、妻に席を離れさせて、その隙に毒をワインに混入させる時間を作る。
玄関から妻に宅配が届いたコトを告げる、宅配業者の声が聞こえてきた。
妻が自分名義で届いた宅配を取りに玄関に向かった隙に、オレは妻に飲ませる白ワインに錠剤状の薬物を混入させて、妻がもどってくるのを待った。
妻はオレが時間指定で宅配してもらった。サプライズのブレゼントを少し驚いた表情で包み紙から開封して言った。
「イヤリング?」
「君が喜ぶと思って、サプライズだよ」
「ありがとう」
毒入りの白ワインを、妻のグラスに注ごうとしたオレに妻が言った。
「ちょっと待って、あたしからもサプライズがあるの」
玄関のチャイムが鳴り、別の宅配業者がオレに届けモノがあるコトを告げ、玄関に向かったオレは届いた物品を受け取る。
席にもどったオレが包み紙を開くと、中からネクタイが出てきた。
愚かな女だ、もうすぐ殺されるのに、ネクタイのサプライズなんて。
オレと妻は、互いの顔を見て言った。
「以心伝心だね」
「以心伝心ね」
互いにグラスに注ぎ合ったワインで、乾杯するオレと妻。
毒のワインを飲む妻を眺めて、偽笑するオレ。
妻も赤ワインを味わうオレの顔を見ながら、微笑んでいる。
(くたばれ、バカ妻)
◇◇◇◇◇◇◇◇
数日後──住民からの通報を受けて一戸建て住宅に、到着した救急車に運び込まれている、シーツを被せられた二体の遺体を見ていた、住民の話し声が聞こえてきた。
「あの家の夫婦、警察の話しだと心中みたいよ。死亡してから何日も発見されなかったんだって……でも不思議よね、別々の種類の毒ワインを飲んで死ぬなんて?」
【説明】夫が結婚記念日に妻を殺害計画──同じコトを妻の側も考えていたとしたら?
それは間違いなく、夫婦間の「以心伝心」
*読み返してみたら、ミステリーやホラーを書く人なら、誰でも思いつく平凡なネタでした……すみません〔作者談〕
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