リユース〔ホラー〕

 オレは、横断歩道の白線の上に横転して倒れて、動かない女子高校生を眺めてタメ息を漏らした。

「参ったなぁ……自転車に乗って横断中に、左折してきた自動車と衝突かよ……ついてねぇ」

 両目を見開いてピクリッとも動かない、女子高校生の近くには、衝突の衝撃でタイヤごとフレームが曲がった通学自転車。

 そして、斜めに停車しているバンパーが凹んだ乗用車。


 遮蔽物しゃへいぶつで見通しが悪い交差点を、黄色信号でムリに左折してきた乗用車との接触事故だった。

 運転席を覗くと、蒼白でハンドルを握った男が震えていた。

 オレは、運転手に横から近づくと開いていた窓から腕を突っ込んで、一発殴ってやった。


 事故のショックからか、男はオレに殴られても無反応でガタガタ震えている。


 さすがに頭にきたオレは、男に向かって怒鳴る。

「いくら、人通りが少ない田舎の道だからって! 前方不注意だろう! スマホ見て運転しているんじゃねぇ! 衝突のショックで、中身が外に飛び出しちまったじゃねぇか!」


 事故の目撃者は、誰もいない。

「どう責任取るんだよ」

 男はいきなり、車をバックさせると誰も見ていないのを幸いに、急発進で逃げて行った。


「あっ! 待てこの野郎! 車の番号は覚えたからな!」

 オレ倒れたままの女子高校生の近くにしゃがみ込んで、状態を黙視で確認する。

 道路に接している側頭部から、赤い血が流れ広がりはじめていた。

「こりゃあ、下手すりゃ頭割れているな……リユースでまだ使うから、後遺症が残らなきゃいいが」


 オレは女子高校生と同じポーズに重なり、一ヶ月前と同じように。

 スーッと溶け込むように入り込む。

 生きている感覚、頭が痛い。目を瞬きさせると、目の前が真っ赤に染まる。

(ヤバッ、血が片目に入ってくる……いてぇ)


 オレは、女子高校生の痛む体で立ち上がると、タイヤが曲がった自転車を起こす。

「こりゃ、もう乗れないな……押して駐在所まで行って、救急車を呼んでもらうか」

 頭から血を流しながら、軽く振った腕の手首と肘にも激痛が走る。


(やっちまったな……片足も打撲している……早く駐在所に行って、オレに衝突して逃げた野郎の車種とナンバーを伝えないと、先月の首を吊った痕も消えてもいないのに……ついてねぇ)


 側頭から血を流しながら、壊れた自転車を押しながら歩く、女子高校生のオレを見て歩いてきた老婆は腰を抜かした。



【説明】リユース=繰り返し使うこと。

〔衝突のショックで、中身が外に飛び出した〕と、いう中身は彼自身のコト?

〔先月の首を吊った痕も消えてもいない〕


 死にたい体と、生きたい霊が遭遇したら。どうせ使わないならと、魂が抜けた体を霊が再利用〔リユース〕するかも知れない。

 久しぶりに会った知人の中身に別人が入っていても、周囲に大きな迷惑をかけていなければ。

 リユースされていても問題はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る