第84話:証明してあげる
宗光が好きだったのは男だった頃の静であって、女の子になった静ではなかった。
それは即ち宗光の特殊性癖――宗光は男の娘が好きという指摘に他ならない。
静によるこの大胆な仮説は、当然ながらその場を静まり返らせた。
実の親のこじらせた性癖を知らされて、ショックを受けて言葉もない結衣。
そんな結衣を慰めようとするも、これまたどんな言葉を送ればいいのか分からない渚。
そして父親が娘の彼氏を奪略愛しようとしているかと思ったら、今度はその父親が男の娘愛好者とか聞かされて、もはやドン引きして見守るしかないその他大勢たち。
なんとも重苦しい静寂が、表彰会場を包み込んだ。
「わ、私は……ゲイじゃない」
その沈黙を宗光が破る。
「私はゲイではないぞォォォォォ!」
さすがに思う所があったのだろう。頬をぱんぱんに膨らませ、さっきまで息も絶え絶えだったのに、これだけは全力で否定するとばかりに絶叫した。
「そうね、宗光はゲイじゃないわ」
そんな宗光を静が優しく肯定する。
「宗光はただ可愛らしい男の娘が好きなだけ」
「だから違うと言っているだろう!」
キレた。
ずっと好きだった人に不名誉な誤解をされているのだ、そりゃあキレて当たり前だろう。
「そもそもなんだ、その、男の娘が好きなのなら、結婚して娘なんか作らないだろう?」
「世間の目を欺くためかもしれないわね」
「静、君は僕のことをそんな奴だと思っていたのか?」
「冗談よ。私、さっき言ったでしょう? 宗光は自分では気付いていないって」
でも私には分かるのと、静はその確信を口にする。
「だって私が女の子になった途端、宗光は私を見る目が変わったもの」
「そんなことはない!」
「ううん、そんなことはあったの。だって私……」
そう言って静はしばし口を閉ざした。
思い出す、あの時の事を。
父の龍造が言われていたように、十一人目の女の子とそういう関係を持った翌日の朝、目が覚めたら女の子になっていた。
驚いたことは驚いたが、それ以上に別の感情が心の底から湧き上がってきた。
喜びだ。
本当に女の子になった。
これならきっと、
大学の入学以来ずっとボクのことを想ってくれている人の気持ちに応えてあげることが出来る――
そう思って静は喜び勇んで大学へ行ったが、そこで待っていたのは思いもよらぬ熱の冷めた眼差しだった。
「……あの時の私を見る宗光の目、いまだに忘れることができないもの」
「静……?」
「とにかく、あなたは男の子だった私が好きだったの。そしてそれはきっと渚に対しても同じだわ」
「違う! 私は決してそんな変な性癖の持ち主では……ん、なんだ結衣、そこをどきなさい」
必死に自分にかけられた猜疑を晴らそうと口調を強くする宗光だったが、突如として静との間に割り込んできた結衣――そしてその結衣に手を繋がれてやってきた渚に水を差された形になった。
「……パパ、男の娘が好きって本当?」
「お前まで何を言っているんだ、そんなの嘘に決まっているだろう。だからそれを証明するために今は静と話を――」
「ううん、だったら私が証明してあげるわ」
渚がおもむろに渚のシャツに手をかけた。
一体何をする気なのかと宗光も、当の渚も分からず戸惑っていると、結衣は強引にシャツを引き裂いて肩から胸の下あたりまで露出させる。
「ちょ、結衣!」
「先輩は黙っていてください!」
慌てる渚、問答無用な結衣、そして渚の胸部を隠す晒を見て目が点になる宗光。
そんな三者三様の様子をみせる中、結衣は晒へと手を掛ける。
「え!? あ、ちょっとそれはダメッ!」
「静さん、いいですよね?」
「そうね、それが一番手っ取り早いと思うわ」
結衣ちゃんグッジョブとサムズアップする静に、結衣はにこりと微笑み、渚は絶望した。
「さぁパパ、パパが本当に男の娘好きかどうか確かめてあげる」
そう言って結衣は硬く締め上げた渚の晒を、思いっきり下へと引っ張った。
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