第56話:こんな子だったっけ……

 誰ひとりとして帰ってこない肝試し大会。

 そしてお堂の前に佇む参加者たち。

 これらが導き出す答えは……。

 

「先輩、逃げましょう! みんなもうお化けに襲われて、ゾンビになってしまったに違いありませんっ! このままでは私たちも同じ目にあってしまいます!」

「そんなわけないよっ! きっと何かアクシデントがあったんだ」


 お化けに襲われたらゾンビになる……なんか色々とめちゃくちゃだなと思いながら、渚は結衣の手を取ってみんなが集まっている方向へ近づいていく。


 結衣は意外にもあんまり抵抗しなかった。

 

「どうかしたの?」

「あ、渚先輩。実は健斗先輩が木から足を滑らせて」

「えっ!? 死んじゃったんですかっ!?」

「死んでねーよっ!」


 驚く結衣に、集団の中心から「結衣ちゃん、ひでぇよ!」と元気な声で健斗が反論してくる。

 見れば確かに健斗はぴんぴんしていた。


 が、右足に包帯が巻かれて横になっている。

 

「落ちた時に足を挫いたみたいでさ。ちょうど今、晶さんに応対処置をしてもらってたんだ」

「まぁ単なる捻挫で、折れちゃいねぇとは思うぜ。でも早めに湿布や氷水で冷やした方がいいだろうな」

「そうだね。立てる、健斗?」

「立つことは出来る。でも、山道をひとりで降りて歩くのはちょっと難しそうだ。渚、悪いけど肩を貸してくれ」

「うん。分かった」


 渚は健斗に近づいて脇に肩を入れると、調子を合わせて立ち上がらせた。

 試しに肩を組んで少し歩いてみる。

 とりあえず大丈夫そうだ。

 

「じゃあ、健斗君のことは渚君に任せて、うちらは花火大会やるでー」


 と、いきなり曜子がそんなことを言ってきた。

 

「え? 花火大会?」

「そや! すぐ近くに開けたところがあってな、そこで花火が出来るらしいねん。そこでうち、ピンと来たんよ。肝試し大会からの花火大会、どや、これは誰も予想できない驚愕の展開やろ?」


 曜子がドヤ顔を決める。

 どうやら誰も戻ってこなかったのは、この後の花火大会が理由だったようだ。

 

 花火か、結衣と一緒にやりたかったな。

 まぁ、でもこなったら仕方ないと渚は健斗に肩を貸して歩き出そうとする。


「あ、あの先輩……?」


 そこへ結衣が遠慮がちに声を掛けてきた。


「えっと、その……私も花火大会に行っていいですか?」

「え?」


 結衣の意外な申し出に渚は一瞬面食らった。

 てっきり渚たちと一緒に山を降りると思っていたのだ。

 

「勿論、いいけど……」


 返事をしながらも、どこか変な違和感を覚える。


 さっきまで異常に怖がっていた結衣。

 そして渚よりも花火を選ぶ結衣。

 

 あれ、結衣ってこんな子だったっけ……。

 

「おい、渚、行くぞ。ちょっと痛みが増してきたし」

「あ、ああ、うん」


 でも深く考える前に健斗が無理矢理歩き始めてしまった。

 仕方なく山を下り始める渚。

 

 その背中を晶が何故か満足げに見送っているなんて、後ろに目が付いてるわけもない渚が気が付くはずもなかった

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