第46話:どちらさま?
渚は地元の小学校を卒業すると、中学からは遠くの男子校の寮へ入った。
男子校時代は部活で忙しく、実家には帰らなかった。
久しぶりに帰ったのは高等部を卒業し、S大学に入学するまでの春休み。
その時に長らく会ってなかった地元の友だちと再会したものの、そこに晶の姿はなかった。
でも、玄関先からの声を聞いた途端、それが晶のものだと渚はすぐに分かった。
完全に記憶通りだったからだ。
だからだろう。
子供の頃以来の再会に胸を弾ませて向かった先で待っていた人物の、締まっていながら全体的な丸みを帯びた身体つきや、かつての面影を感じさせながらも薄っすらと化粧を乗せた顔や、そしてなにより涼しげな青色のワンピースを着た姿に戸惑ってしまった。
「あき……え、どちらさま?」
「オレだよっ! 晶だよっ!」
バツの悪そうな顔をして晶は、家から運んできたスイカを4つ、玄関へどすんとおろす。
実がぎっしり詰まっていそうな、いい音だった。
って、今はそんなことはどうでもよくて。
「え? でもなんで晶ちゃん……ワンピースなんか着てるの?」
「うっせぇ。オレだってこんなヒラヒラして動きにくいの着たくねぇよ! でも、うちのオヤジが着ていけってうるさくて」
「いや、そうじゃなくて……なんか晶ちゃん、胸が……それに腰回りも……」
「おい、渚! てめぇ、エロい目でオレを見るんじゃねぇ!」
「み、見てないよっ! だって晶ちゃんは男……だよね?」
「……は?」
晶が「お前、頭おかしいの?」って表情を浮かべて渚を見つめていると、すすすっと誰かが音もなく廊下を歩いてくる。
結衣だった。
きっとさっきのやりとりが聞こえていたのだろう。
結衣はふたりの前まで来ると、大きくため息をついて渚に言った。
「先輩、それは失礼すぎます。どう見ても彼女は女性です」
「え? なに言ってんのよ、結衣? だって晶ちゃんは」
「何言ってんのはお前の方だよ、渚。オレと子供の頃、一緒に風呂に入って知ってるだろうが」
「お風呂……」
その単語に少し結衣の視線が厳しくなるのを感じつつ、渚は必死に記憶を辿った。
そう言えば小学校低学年の頃、一度だけ晶とお風呂に入ったことがある。
その時に晶の裸を見て、思ったことは――。
「……ごめん、晶ちゃん、普段はあんなに威張ってるのにちんちんは小さいんだなぁって思ってた」
「アホか! そんなもん、最初からついてないんだよっ!」
思えば当時の渚は、女の子は髪が長くて運動が苦手な子たちという認識だった。
だから短髪で、誰よりも足が速くて、度胸があって、喧嘩も強い晶が女の子だとは今までこれっぽっちも考えたことがなかったのだ。
「えぇぇ、あの晶ちゃんが女の子……」
「えぇぇ、はこっちのセリフだっ! まさか今の今まで男だと認識されていたなんて、呆れるのを通り越して自分が情けなくなってきたわっ!」
頭を抱える晶。
が、すぐに顔を上げると、表情をキッと引き締めて渚を。
そしてその隣りをさりげなくキープしている結衣へと視線を向けた。
「……で、こいつこそ誰なの?」
「あ、彼女は大学の後輩で」
僕の恋人、と渚は続けるつもりだった。が。
「ふーん。じゃあ他人じゃねぇか。悪いけどあんた、オレらの邪魔しないでくれる?」
晶が渚の言葉を遮って、いきなりそんなことを言ってきたのだった。
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